まさおレポート

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光ファイバー参院附帯決議

2021-09-10 | 通信事業 孫正義

 

 

孫正義氏は東日本大震災の後、関心は太陽光電再生エネルギー発電に向かった。それまで原発問題について一回も言及したことのない孫正義氏が東日本大震災の後に再生エネルギー発電に向かったのは原発に対する純粋な危機意識が動機であり疑う余地はない。筆者は参院附帯決議に端を発する線路敷設権(光ファイバを借りたり敷設したりする権利で米国初の用語)の危機意識が再生エネルギー発電参入へと意識の流れとしてはつながっていると考えている。線路敷設権は地味であるが影響力は大きく、孫正義の探求として極めて重要なテーマとなる。

2003年5月22日参院附帯決議が可決されたニュースが伝わりソフトバンクに伝わり衝撃が走る。この後の孫正義氏の死にもの狂いの奮闘は経営幹部を含めてほとんど知られていない。参院附帯決議で線路敷設権を奪われる恐怖感と怒りがこうした感覚に人一倍鋭い孫正義氏を襲い、あらゆる経営課題の最大優先に置いて奔走した。

2003年5月22日、第 156回国会で電気通信事業法改正案が可決されることに伴い、「光ファイバに関する指定電気通信設備規制の在り方について競争状況の進展を踏まえながら検討を行うこと」との参院附帯決議が可決された。折からソフトバンク取締役会議の最中、午後8時過ぎにそのニュ-スを筆者が緊急情報として伝え、一人孫正義氏の顔色が変わり、他の役員は何がそんなに問題なのか理解できなかったのではないか。

議員提案の議事録を以下に掲げる。

○伊藤基隆君 私は、ただいま可決されました電気通信事業法及び日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律案に対し、自由民主党・保守新党、民主党・新緑風会、公明党、国会改革連絡会(自由党・無所属の会)及び社会民主党・護憲連合の各会派共同提案による附帯決議案を提出いたします。案文を朗読いたします。

電気通信事業法及び日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)

政府は、本法施行に当たり、次の事項についてその実現に努めるべきである。

 一、ブロードバンド・インターネット・サービスやIP電話等に関する利用者の苦情や問合せが急増している中で、契約約款に関する規制が緩和されるに際し、事業者や代理店が利用者の苦情や問合せに対して適切な対応を行うよう、より一層の利用者保護の充実に努めること。

 二、光ファイバ網の構築が複数の事業者による競争環境下でなされている現状を踏まえ、事業者間の競争条件の対等化及び投資インセンティブの促進、更には地方都市における光ファイバ網の整備促進のために、光ファイバに関する指定電気通信設備規制の在り方について競争状況の進展を踏まえながら検討を行うこと。

 三、ボトルネック設備のオ-プン化により、ユーザーサービスの提供に関してはいずれの事業者も対等な立場にあることを踏まえ、ユーザーサービスに対する非対称規制についてはより一層の規制緩和を進めること。特にブロードバンド・インターネット・サービスなど、今後自由な競争の下で発展が期待される分野のサービスについては、より迅速で多様なサービスが提供されるよう、指定電気通信役務規制等の在り方について競争状況の変化に応じた適時適切な見直しを行うこと。

 四、料金に対するプライスキャップ規制については、競争が十分に進展していることや、市場構造の変化により電話加入数等が減少している状況に適合しなくなっていることを踏まえて、早急に見直しを行うこと。

 五、ブロードバンド・インターネット・サービスが急速に普及する中で、過疎地等におけるサービス展開を一層促進し、いわゆるデジタルデバイドの解消を始め緊急通報・重要通信の確保等の観点から、ユニバーサルサービス基金の運用方法の見直しを行うこと。

 六、ブロードバンド・インターネット・サービスについては、電話サービスと異なり県内・県間の区分が馴染まない分野であることを踏まえ、柔軟かつ迅速にサービス提供が可能となるよう、地域会社の業務範囲拡大について一層の手続の簡素化及び迅速化を図ること。

 七、長期増分費用方式は事業者が現実に投下した資本を回収できないという構造的な問題を有しているとともに、長期増分費用方式の前提そのものが固定電話の減少及びIP通信の進展という現実の事業環境に対応したものとする観点から、実際費用を十分に配慮した算定方式への見直しを行うこと。また、利用者負担の軽減を図るため、施設設置負担金や基本料等の料金体系見直しについて検討を行うこと。

 八、政府が保有するNTT株式の売却収入及び配当金の使途については、情報通信基盤の高度化及びユニバーサルサービスの確保に必要な既存電話網の維持のために活用すること等を中心に、幅広い観点から検討を行うこと。右決議する。

 ○委員長(山崎力君) 多数と認めます。 (要旨文責 筆者 156- 参 - 総務委員会 - 13号 平成15年05月22日 国会議事録より引用) 

特にニ,三は当時の競争状態からすると危険な提案である。

参院では民主党の内藤議員が当の付帯決議を推進し、超党派の提出である。ところが同じ民主党の嶋聡議員(当時)がその行動に反論する意見をインタビュ-に答えて述べているのがネット上に掲載されていて民主党の総意ではなかったことが明らかになった。嶋元衆議院議員は当時の事情を以下のように述べている。

前略・・・ちょっと異質に思えたのはNTT労働組合の組織内議員の内藤参議院議員が中立の審判者のように意見をいっていたことだ。私が議員だったとき、今回と同じ内藤参議院議員があまりにNTTよりの政策を遂行しようとした。総務部会で手続きを踏んでいないと問題になったことがある。そのとき、現国対委員長代理の安住淳議員が「私はNHK出身である。だから、NHKの問題の時は国会では質問にたたないようにしている。そういう節度を持って欲しい」と総務部会で発言された。・・・後略 (http://blogs.yahoo.co.jp/simasatosijp/716628.htmlより抜粋、引用)

筆者はネットニュ-スを見て嶋議員を議員会館に訪ね、後に孫正義氏と嶋氏を結びつけるきっかけとなった。さらに当時の野党民主党議員とも関係が生じ、さらに与党民主党となったのち、太陽光発電、再生エネルギ-で菅総理と連携をとることにつながっていく。嶋聡議員(当時)のインタビュ-記事が掲載されたネットニュ-スはソフトバンク社長室長へ転身のきっかけになるが、人生にIFは無いことは承知の上書くと、後の民主大勝利では間違いなく議員復帰して総務大臣になった人が参院選で大阪維新の会から出馬し落選している、人生も複雑である。 

参院附帯決議は地域によってはNTT独占とは言えないところが出現してきていることを指摘して、独占であることを前提とした指定電気設備の指定を廃止する方向で検討する事を要求している。

確かに一見妥当なように見える付帯決議だが、よく眺めると当時光ファイバ敷設事業に参入の期待を持っていたソフトバンクにとっては極めて危険なものに見えた。地域によっては競合が出来していると言っても電力系に限られており、電力系通信会社が仮にNTTのシェアを逆転したとしても、各電力系通信会社の営業範囲ではNTTと2社でしか存在できない仕組みであり、寡占になる。光ファイバ敷設の占有率だけに着目して総務省が「光ファイバに関する指定電気通信設備規制の在り方について競争状況の進展を踏まえながら検討を行うことを進め」指定電気設備を検討し、結果によっては外されるという事態になると独占が寡占に変わっただけで大変なことになるという危機感が襲った。

一般的には衆議院で付帯決議され、それが参議院でも決議されるというのが筋であるにもかかわらず参議院で先議されるのも異例である。孫正義氏は「水際で抵抗しておくに越したことは無い」消える火種かもしれないがいつまでもくすぶり続けてやけぼっくいに火がつく可能性があるとの判断を下した。

多数の企業を束ねるオ-ナ-としては考えられないほどの時間とエネルギ-をこの問題に割き、情報通信に関心の深い議員に対して党派を問わず、漏れなく光ファイバの指定設備の必要性について説明に回った。NTT光ファイバのシェアの現状(当時)と、新規参入者が光ファイバを敷設したくても実際には手続き面での困難さで挫折するという事実の2点が説明の要点だった。

 

当時の自民党幹事長麻生太郎氏を自民党本部幹事長室に訪れた。その場で麻生(当時)幹事長は秘書に命じて総務省の有富氏に電話をつながせ、なにやら質問を投げかけていた。ついで片山虎之助総務大臣を大臣室に訪れた。他に細田、鴻池、遠藤、八代、岩屋、平井の各議員などに事情説明をして回った。民主党では嶋、玄葉、安住議員などに同様の説明をして回った。公明党には山口現委員長、松あきら議員など複数の議員に国会内公明党控え室で朝から同様の説明をした。おかげで各議員の部屋番号まで記憶するほどになっていた。議員会館のエレベ-タは、議員専用と一般用が有ることを知ったのもその頃のことだった。

付帯決議などそんなに効力はないのだから、大げさに騒ぎすぎとの意見も多くの議員から頂いた。総務省を訪問して当時の鈴木電気通信事業部長に訴えても「付帯決議程度では指定電気設備から外すような結論には出しませんよ」と自信満々の返答であった。片山虎之助総務大臣を始め、各関係議員や総務省幹部に孫正義氏が話をしても「付帯決議なんて特に効力はありませんよ。気にすることはありません。」といった反応が大方であった。KDDIの五十嵐副会長に総務省ロビ-でたまたま会い、質したがさほど問題視していなかった。

危機意識の無い政界を2ヶ月ほどかけて奔走した結果、参院附帯決議先議のあとに続く衆議院で付帯決議の提案は無く、この奔走の幕を閉じた。

回想の孫正義


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