まさおレポート

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イタリア紀行 4 円形闘技場の血の臭い

2024-08-23 | 紀行 イタリア・スペイン 

古代の闘技場に足を踏み入れたとき、胸の内に奇妙な感覚を抱いた。この場所はかつて、熱狂と血の匂いに満ちていたはずだった。しかし今はただの静寂が支配している。陽光が石柱の隙間から差し込み、草の匂いがかすかに漂っていた。

回廊を抜け、大体育場へと進むと、彼は自分が遥か昔の人々と同じ道を辿っていることに気づいた。彼らもまた、期待と不安を胸に、戦士たちの命を賭けた戦いを見届けるためにここを歩いたのだろう。古代の観客たちは、興奮と歓声でこの場を満たし、今日の彼が感じることのない熱量を共有していたに違いない。

目に映る遺跡は、ただの石と化した過去の残骸だが、その裏には生きた人々の物語が詰まっていた。ローマ帝国の威光の下、この場所は支配者と市民が一体となる場所であり、血が流れることで統治が正当化される場でもあったのだ。ローマの暴君コモドウスやカリギュラの時代のことだ。

現代の格闘技とは異なり、ここでは命そのものが勝負の賭けだった。その命の重さと向き合いながら、彼は当時のポンペイ市民がどのような感情でこの闘技場を見つめていたのか、想像しようと試みた。

遺跡の中にかすかに人々のざわめきが聞こえるような錯覚が訪れた。闘技場の石畳に響く足音、勝利の歓声、そして敗北者の沈黙と流れ出た血。私はその場に立ち尽くし、血にまみれた土埃の臭いを嗅ぐ。

この写真に写っているのは、ポンペイの円形闘技場(アンフィテアトルム)。この円形闘技場は、紀元前70年頃に建設されたもので、ローマ帝国全体の中でも最古の石造りの闘技場の一つ。円形闘技場では、グラディエーター(剣闘士)同士の戦いや、動物との戦いなど、さまざまな娯楽イベントが行われていた。

この闘技場は、約20,000人を収容することができ、ポンペイだけでなく近隣の街からも観客が集まった。写真に見えるように、外壁は連続したアーチで構成されており、観客が外部からアクセスできるように設計されている。

ポンペイの円形闘技場は、その保存状態の良さから、古代ローマの娯楽文化や社会生活を知る上で非常に貴重な遺構となっている。

ポンペイの闘技場は、かつての栄光と血の匂いを纏い、今もなおその場にそびえている。静寂が支配する廃墟の中で、一人の男が足を踏み入れた。彼の名はマクシムス。元ローマ軍の将軍であり、今は奴隷として戦いに挑む運命にあった。

彼の瞳は、この荒れ果てた闘技場の奥深くを見つめていた。そこに映るのはかつての戦友たち、そして彼の手で倒した数多の敵の姿だった。彼らの命はこの場所に散り、今はただの記憶として彼の中に生きている。

マクシムスはゆっくりと拳を握りしめた。闘技場の冷たい石畳が彼の足元を伝い、かつての熱狂が再び蘇るようだった。彼の耳には、観客たちの歓声が聞こえてくる。彼らは血と死を求め、彼の戦いを見守る。だが、今の彼にはそれ以上のものが必要だった。死の安穏だ。

円形闘技場の内部、馬蹄形をしたギリシャ様式の大劇場の観客席。紀元前3世紀から2世紀のもの。地中海中に広がる属州から富はもたらされ、ローマ市民は人頭税や属州民税(資産の10%で凡そ収穫の33%程度)も課されない。パンとサーカスを与えられる一方拳闘あるいは剣闘士はこの入り口の一つから入場し、一方が死ぬまで戦い、敗者はもう一方の出口から退場した。

この写真は、ポンペイ遺跡にある円形闘技場(アンフィテアトルム)の内部で闘技場は、古代ローマ時代において剣闘士の戦いやその他の娯楽イベントが行われていた場所。

写真の中央には、観客が出入りするためのアーチ型の入口が見え、その上には石造りの観客席が階段状に広がっている。観客席は、闘技場の周囲を取り囲むように設けられており、当時の人々はここに座りながら、剣闘士たちの戦いや他の娯楽を楽しんでいた。

写真で見える草地部分は、かつては観客席として使用されていた場所だが、現在では草が生い茂っている。上部に見える石造りの壁は、闘技場の外壁であり、観客席全体を支える重要な構造物。この壁には、観客が外に出入りするための通路が設けられている。

観客席に座る市民たちは、眼前で繰り広げられる血の舞台に陶酔し、興奮を抑えきれない。彼らの目には、剣闘士たちの一挙一動が映り、その一つひとつに歓声や悲鳴が混ざる。彼らにとって、この戦いは単なる娯楽以上のものだった。生と死が絡み合う壮絶な瞬間を共有することで、彼らは自分たちの存在を実感していた。

剣闘士のひとり、彼の名はルキウス。闘技場に立つと、彼の視線は一瞬だけ観客席を見上げた。そこには勝者を讃える声援がこだまし、敗者には容赦のない嘲笑が浴びせられる。だが、彼はその全てを飲み込むように、ただ前を見据えた。彼にとって、この場は勝ち負け以上に、自らの誇りと勇気を示す舞台だった。

ルキウスが剣を振り上げると、観客席からは再び歓声が巻き起こった。彼らの叫び声は、まるで闘技場の石壁に反響し、さらに強さを増して彼に降りかかるようだった。その声に鼓舞され、ルキウスは相手に一歩一歩近づいた。剣の先端が輝きを放ち、観客の目はその一瞬に釘付けとなった。

観客の熱狂は、戦いが進むにつれて頂点に達した。歓声と悲鳴が交錯する中、ルキウスは最後の一撃を放ち、相手を地に倒した。観客席は興奮のるつぼと化し、その声は天をも突き抜ける勢いだった。

ルキウスが勝利を手にしたその瞬間、彼は一瞬だけ微笑んだ。そして観客たちの声援を背に、堂々と闘技場を後にした。彼は知っていた。次の戦いも、そしてその次の戦いも、彼がこの闘技場に立つ限り、この熱狂は永遠に続くのだと。

 


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