脈絡もなくふと浮かんだ60年以上昔の記憶。
わたしは母が編んでくれた毛糸のマフラーを家からかなり離れた場初で自転車に乗っていてなくした。
いうと叱られるので黙っていた。
半年も経ったある日のことそのマフラーを首に巻いた男の子が店の前を通りかかった。母は目ざとくそのマフラーを巻いた子を見つけて呼び止めた。
「あのー、ひょっとしたらそのマフラーどこかで」母は遠慮しながらその子に聞いた。
その子は気を悪くするでもなしに彼の住む町の道で拾ったと言った。
母はいくらかのお金を渡してそのマフラーを返してもらった。
随分離れた町で落とし、それを拾った子供が離れた町の店にやってくる。そんな偶然てあるものだと驚いたが、今それを思い出して一層その不思議さに驚いている。