まさおレポート

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平成テレコムの変遷19 総務大臣裁定 4402文字

2019-06-15 | 通信事業 NTT・NTTデータ・新電電

平成テレコムに総務省が果たした役割は多いがそのなかで記憶に残る一つが大臣裁定だ。法律が作成されるときには気にも留めないのだが後でその効力が感じられる、NTT法19条もそうだが電気通信事業法35条3項もそういった法律の一つだと思う。今後もNTT法や電気通信事業法が改正される機会があるだろうが特に罰則規定に注目すべきだろう、ある意味で予言的な意味合いが汲み取れるからだ。

電気通信事業法35条3項には「裁定」申請として下記の条文がある。

第三十五条 3項  電気通信事業者の電気通信設備との接続に関し、当事者が取得し、若しくは負担すべき金額又は接続条件その他協定の細目について当事者間の協議が調わないときは、当該電気通信設備に接続する電気通信設備を設置する電気通信事業者は、総務大臣の裁定を申請することができる。後略。

要はNTTとの相互接続協議が難航する場合の対処法の一つとして条文化されているものだ。当初は伝家の宝刀と言われ、抜かないことが前提であった。しかし後にやたらと抜かれることになる。

類似のものとして電気通信紛争処理委員会がある。これはあっせんと調停をもっぱらとするものであり、強制力のないものだ。本来のあっせん、調停機関とは裁定機関の手を煩わせるとその処理能力が追い付かないためにこれを改善しようとして設けるものであるが、裁定処理が繁忙を極めたとも聞かない。

1994年11月に,第二電電株式会社(現KDDI),日本テレコム株式会社(現ソフトバンクテレコム),株式会社日本高速通信(現KDDI)の3社が,VPNサービスのNTTに対する相互接続申し立てを提出している。
最初に日米のVPNサービスから受けるイメージの違いについて述べておくと、日本では通常は同一構内でPBX(構内交換機)を利用して社内電話機能を実現しているが米国では早くからパブリックな電話交換網の中で広域の社内交換電話サービスを提供しており、VPNと称していた。この米国風VPNサービスの相互接続は裁定を申請する5年前の1989年からNTTに接続を申し込んでいたが進捗をみなかった。まさに「業をにやした」新電電三社が裁定申請したものだった。

米国では早くから実現していた信号網(電話ネットワ-クには通話伝送路とは別に番号変換や高度のサービスを行うための各種信号をやり取りする、通話とは別の伝送路がある)接続に対してNTTが過剰にセキュリティーや擾乱を恐れ5年間も実現を渋っていたものだ。

VPN接続はプライベ-トな社内電話番号(通常4ケタ)を一般公衆網の電話番号に変換して接続するため、通常の電話接続と違いno7信号方式(電話交換の信号網のやり取りのためにITUが7番目に標準化した方式であるためにこう呼ばれる。)によりNTTのSCCP(信号接続制御部)へのアクセスを許容せざるを得ないと考えられいた。SCCPはNTTネットワ-クの信号網の要でこのSCCPに対する新電電各社からのダイレクト・アクセスをNTTはネットワ-クの擾乱を引き起こす恐れがあるとして極度に警戒したためである。

このために入り口で入場を拒否されたも同然でなかなか協議に入れなかったのだが日本テレコム株式会社が裁定申請の音頭をとり、他の2社がこれに賛同して共同申請に至った。日本テレコム株式会社は既にパケット通信で裁定申請を経験済みだが他の2社にはこのときは初めての経験でどんな書式で何を出せばよいのかも判らず、郵政省と相談しながら見よう見まねで申請書を作成したことを記憶している。郵政大臣(当時)はNTTや新電電各社の意見を聴くために聴聞会を開催し、1994年12月にNTTに対して「回線接続命令」を下した。その後NTTは接続協議に取り組むことを同意したために郵政大臣「裁定」には至らなかった。

同意後の接続協議ではNTTの石川理事(当時)が直接新電電との打ち合わせの場に出て説明するなどの采配を振るいVPNを実現するために、NTTの嫌う信号網デ-タベースへの直接のアクセス方式を避け、通常の電話網が持つ2重番号機能をうまく使うことでVPN方式が協議の結果まとまった。既存の交換網は通称裏番号と言う顧客には見えない電話番号を持つ機能(二重番号機能)を備えており、この裏番号をVPN番号に利用して表番号つまり通常の公衆電話の番号に変換することでVPN接続を実現する簡易方式であり、米国のように信号網デ-タベースを直接利用する本格的なVPN方式ではない日本的な妥協の産物的方式である。この方式では裏番号を本来の電話番号に変換する機能は着信側交換機にしかないために、一旦相手側交換機に着信したのちに発信側交換機に差し戻すことが必要でありリ・ダイレクティング方式(redirecting)と呼ばれる。通常の交換機機能のみで実現可能な点がポイントである。(この方式はのちにタイタス・コミュニケ-ションズがNTTとの間に地域番号ポ-タビリティを実現する方式と同じである。)

日本版VPN方式は既存交換機機能を利用するとはいえ、やはり交換機のソフトウェアの新規登録は避けられないとして交換機能のソフトウェア改造費用が大きな問題となった。特にNTTが小局向けに採用したノ-ザンテレコム社製DMS10交換機のソフトウェア改造費用が突出して高額になり、交換機改修費用負担交渉が難航した。

NTTのほとんどを占める国内交換機のソフトウェアとこのノ-ザンテレコム社製DMS10では使用するプログラム言語が異なり、ノ-ザンテレコム交換機のプログラム作成者が日本で調達できず割高になるという説明であった。交換機のソフトウェア改修費の妥当性は外部からは伺いしれないので隠れ蓑的に使われた可能性もあるが誰にもわからない。又一面では海外資材調達の隠れた問題点という事が出来る。

交換機能のソフトウェア改造費用では郵政省の介入でNTTが妥協し新電電側に割高な負担は無くなった。(交換機のソフトウェア改修費の妥当性は外部からは伺いしれないことの傍証になるかもしれない)結局はVPN番号と公衆網電話番号の対応表をデ-タベースに登録する費用を一件の登録ごとに支払うことで決着がついた。
改修費用の一時金を支払ったかどうかは記憶が薄れて思い出せない。後の接続ル-ル制定でアンバンドル機能への接続に必要なネットワ-ク改造はNTTが負担すると言う原則を打ち出すが、このVPNでの郵政の判断はその後の接続ル-ルを先取りするものと言える。

この裁定申請は新電電三社が共同してNTTを相手にした大相撲だったわけである。その申請にかかる事務処理だけでも半端でない費用と時間が掛かる為、裁定申請はなかなか大変なものだとの認識があった。しかし2000年8月の有限会社日本交信網による日本で第3号の裁定申請は極めてロ-カルの小さな、恐らく従業員は数名で事業所はオーナー自宅と推測される会社があっさり裁定申請をしたことでわれわれ関係者も非常に驚いた。

裁定申請内容は以下に示すように2件の事案で、その内の一つ、相互接続点調査費用についてNTTの114,972円の請求に対して、日本交信網は26,532円が妥当として争っているのだ。一日数人分の人件費にしかならない金額で裁定申請を行うということがコロンブスの卵的な出来事だった。
要は金額の問題ではなく、マインドの問題として裁定申請を行ったのであり、これに関心を持ったソフトバンクの孫正義氏はのちの2001年にADSLを開業するにあたって数か月間ではあるがコンサルタント契約を結んでいる。NTT接続交渉に悩んでいたときに岩崎氏のような先駆的な行為が頼もしく思えたのだろう。

以下に記す裁定顛末は蟻が巨象に一撃を加えるようでなかなか痛快である。
申請内容 2000年8月11日に日本交信網有限会社・代表取締役・岩埼信氏が東日本電信電話株式会社・代表取締役社長・井上 秀一氏を相手取って裁定申請を起こし、2点を挙げた。①NTT東日本豊四季局において、NTT東日本のMDFと日本交信網の電気通信設備を接続する際に、NTT東日本のフロアに設置することについて合意が得られない。②相互接続点調査費用について、当事者双方の算定額に相違があるとした。
裁定内容 2000年9月26日に総務大臣は以下のように裁定した。
①電気通信設備の設置に十分な空き場所が存在しかつその場所でコロケ-ションを行うことで その機能に障害を与えたりする特段のおそれがあるとは認められない。」として、「設置することを認めるものとする。」と裁定した。
②相互接続点調査費用の当事者双方の算定額相違は下記の違いがあった。
 NTT東日本の算定額合計 13人・時間×作業単金(8,844円)=114,972円
 日本交信網の算定額合計 3人・時間×作業単金(8,844円)=26,532円
これに対して裁定は「85kmの距離の移動に1人当たり4時間を充てていることについては、仮にこれが実時間であったとしても、千葉みなと局からの往復時間としている点について妥当性が認められない。」として、「61,908円を超えない額とする。」と裁定した。(郵政省のHPを参照した)
日本交信網はこの裁定によりコロケ-ションをともなわないで豊四季局でのサービスを開始する。開業当時の提供数は4件である。コロケ-ションを伴わないでどうしたか。電話局に隣接する駐車場にコンテナを設置して、ここに機材を収容している。
扱う金額も影響のある顧客もその規模からいえば、やや滑稽感のある裁定であった。

2002年11月22日 総務省は、本日、電気通信事業法第 39条第3項に基づく平成電電株式会社からの申請について裁定をしたとある。平成電電は携帯電話会社との接続にあたり料金設定権(NTTドコモと平成電電のどちらが顧客の料金を決めるか)を求めて裁定申請を行っていたが、総務大臣は従来の携帯会社が設定する慣習を覆し、平成電電の申し入れを妥当とし、料金設定権を認めた。


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