まさおレポート

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平成テレコムの変遷20 紛争処理委員会 27436文字

2019-06-16 | 通信事業 NTT・NTTデータ・新電電

前章の総務大臣裁定は裁判行為に準じるが調停行為に準じるものとして総務省電気通信紛争処理委員会がある。この場で扱われてきた事案はNTTと新電電や新規参入者との間にどのような相互接続上の争いがあったのかを俯瞰できる格好の材料となる。

筆者の見聞した総務省電気通信紛争処理委員会の事案を紹介してみる。(海外ドラマの法廷ものを見るようなつもりでシーンを頭に描きながら読んでいただくと面白さが感じられる。)


事案1 

日本交信網社長岩崎氏は1998年頃ケ-ブルテレビ会社のMSOであるタイタス・コミュニケ-ションズが千葉県柏市で日本でブロ-ドバンドを先駆けて提供していた個人顧客向けインタネットサービスに加入し、自宅にダイヤルアップ接続でつないだ顧客にインタネットサービスを提供していた。

当時筆者が勤務していたタイタス・コミュニケ-ションズ社内ではこうした再販的な接続形態を想定していないため、当惑しながら注目をしていた。個人顧客向けのサービスが通信事業者のインタ-ネット網接続に利用されるとは想定外であり、顧客との契約約款にも特に禁止する規定は無かった。タイタス・コミュニケ-ションズとしてはやや不本意ながらも、特にサービス停止する理由も見つけられないでいたというのが実情であった。タイタス・コミュニケ-ションズのインタネットサービスは開始したばかりの段階で、インタネットサービス利用顧客も少なく、ほとんどベーストエフォ-トの最大スピ-ドを享受できたのだろう。個人がその気になればファミリ-経営のような通信会社を、それも有限会社で開業できるという事実に感心もしていた。

岩崎氏は一年後の1999年の夏にはADSLサービスの検討を始めている。東京めたりっくの開業でADSLに注目したのだろうか、NTT柏豊四季局での開業をNTTに相談したが2000年12月のNTT・ADSL試験サービス終了までは他の局ではやらないと断られたのがきっかけで2000年8月の裁定申請へと行動を起こした。その後数年たった2001年の夏のある日、すでにソフトバンクに転職していた筆者は日本橋にあるソフトバンク本社内の仮設事務所で席を並べることになった。岩崎ですと自己紹介されたが、タイタス・コミュニケ-ションズ時代の件の岩崎氏と結びついたのは、一夜明けて翌日の事であった。そんなわけで日本交信網の名前と岩崎氏は何かと記憶に残っている。

ソフトバンクは2001年8月以降、ADSLのNTT局舎内コロケ-ション場所確保でおおいに悩むことになる。NTTの発言にも「局舎外でも場所を確保している事業者さんもありますよ。ソフトバンクもその努力をしたらいかがですか」などが飛び出すこともあったが、実は岩崎氏の日本交信網が事例として念頭にあったのだ。

2001年1月28日には日本交信網はJPNICに関する意見書を総務大臣に提出している。氏は事業もさることながら、むしろこうした問題提起を身をもって行うことに熱意を傾けたようである。日本交信網は、

「公共の利益が著しく阻害されると考えられるため、NTT規制と同様の支配的事業者規則が必要」として意見書をweb上で公開した。申し出の内容として、「民営化は一般競争入札に」「JPNICが2/3株式を保有するのは指針に反する」「指針によれば承認・定款変更・認可が必要にも関わらず定款変更していない」「私的独占排除と競争促進措置の必要性あり」「JPドメイン管理業務専業が適当」「登録管理業務を一括して委譲すべき」「料金体系について、登録料値下げ無しは不適当、算定根拠が不明瞭、登録料が高額、指定業者費用が高額、会員非会員向け価格差が大きく不公正、末端価格を示すことは再販売価格維持行為といえる」「不適当な委任状形式を改めるべき」「IPアドレス管理事業とJPドメイン管理事業は別に」などを記載している。

平成13年(争)第1号 H13.12.27申請 H14.1.25終了 A社→B社。
A社による自社伝送路と他事業者が設置する伝送装置との間の接続(横つなぎ)に必要なB社のコロケーションスペースの利用 合意により解決

つまり日本交信網の要求が総務省電気通信紛争処理委員会の働きで通ったことになる。

事案2

2002年 7月18日 平成電電が果敢に固定発携帯着の料金設定権について総務省に認定申請する。このころ平成電電はADSLからIP電話まで斬新なアイデアを実施していたが、そのためには表記の料金設定権などの既成制度にぶつかることも多かった。このころソフトバンク社内でも事業がらみで平成電電の話の出ることが多く、関心をもって見守っていた。ある時は総務省でたまたま平成電電・藤本社長等と同席となり、事業政策課長への激しい談判も目撃した。

2002年8月28日にはNTT和田社長が固定発携帯着の通話の料金設定権について平成電電の申し立てを念頭において、携帯電話側が持つ方がベタ-と発言したがその根拠として携帯電話の位置確認や基地局切り替えの機能が携帯会社の中核的機能であるためとした。発信側の呼はどちらに属する顧客が発したかの問題であったが、和田社長の話は技術論的な説明に終わり料金設定の本質にかかわる話ではない。
2002年9月5日には平成電電が公正取引委員会に独禁法に基づく申告を行う。固定発携帯着の料金設定権を持つことを再販価格拘束として独禁法19条違反にあたるとしての申告。平成電電発携帯着の通話を全国一律3分60円で計画中のためにどうしても越えなければならない壁と認識したようだ。
2002年11月5日には電気通信事業紛争処理委員会が上記の固定発携帯着の料金設定権は平成電電にあることを総務大臣に答申した。
2002年11月22日 総務省が平成電電が料金設定権を持つことを認定することで決着した。(しかし3年後の2005年10月には経営破たんする。)

事案3

ソフトバンクではADSLサービス開業当時からMDF工事(*3)の自前化(NTTに配線工事を依頼するのではなく、ソフトバンク自体が行う)は重要課題であった。工事の迅速化(当時NTTに工事を依頼してから4日から6日程度がかかっていたが、韓国では一日で出来るという話を聞き及び、即日工事を目標としていた)と工事費(一件当たり4000円以上かかっていた。300万件の工事に120億円かかることになる)の削減のためだ。ここで工事とはジャンパ-線の配線工事を指している。
(*3)MDF工事はADSL事業者がNTT局舎内に設置するDSLAM(Digital Subscriber Line Access Multiplexer…デジタル加入者線 (DSL)で使われるネットワ-ク機器。電話局側にあり、複数の加入者線を多重化して、高速なインターネット・バックボーンに接続する。集合モデムとも呼ばれる)とMDF(main distribute flame…市内から上がってくる銅線を交換機に接続するための配線板)を接続する工事(ジャンパ-工事)が必要となる。これをMDF工事と呼んでいた。
2002年2月12日 ソフトバンクBBがあっせん申請。吉岡委員、瀬崎特別委員、東海特別委員及び土佐特別委員が指名される。その後 両当事者より意見の聴取 があり霞ヶ関の合同庁舎内の一室で紛争処理委員会斡旋委員を前にしてNTT西とソフトバンク双方が意見を述べた後、あっせん案の提示が行われた。ソフトバンクBBがあっせん案を受諾したがNTT西日本があっせん案受諾を拒否したためあっせん打切りとなる。このように「あっせん」は一方が拒否すると打ち切りとなる。

何回かの事情説明的な場を経てのちに本番の紛争処理委員会裁定の場が設けられる。進行形式は全く裁判を擬制しており、委員長が裁判長で、委員が裁判官、紛争当事者はそれぞれ弁護士を擁していた。紛争当事者である2社つまりソフトバンクとNTT西がプレゼン風の趣旨説明を行うが、訴えた方はその接続の必要性や交渉経過、そしてその反対理由が無効であることを中心に述べ、一方の方はどうして接続が困難であるかの理由説明を行う。それに対して委員から質疑がある。NTT西は3名、ソフトバンクBBは牧野弁護士が陪席しており、後のMDF自前工事問題での総務省聴聞会とことなり、淡々と事実関係を述べて終わる。

あっせん不調で次いで仲裁不成立となり総務省は接続協議再開命令の申し立てへと問題が発展
2003年2月14日には「あっせん」の打ち切りを受けてソフトバンクBBは次のステップである仲裁の申請を行う。NTT西日本は仲裁の申請を行わない旨を報告したために 仲裁不成立となる。このように仲裁は両者が申請しないと不成立となる。
2003年5月16日には あっせん、仲裁いずれも不首尾に終わったので接続協議再開命令の申立てを行う。その当時ソフトバンクは光ファイバ-サービスへの参入が大きな企業戦略となっており、その大がかりな計画のためにもMDF自前工事化期待はますます強くなっていたという背景があり、ついに接続協議再開命令の申立てを行う。それを受けて総務省は 電気通信事業法第38条(*1)で定められている接続拒否事由として認められないと判断し、協議再開命令の前に事前の調査としてNTT西日本から意見を聞く場を2003年6月18日に開催した。

協議再開命令に先立ち総務省は聴聞会を開催する
紛争処理委員会の聴聞会は総務省の他に警察庁などの入っている霞ヶ関合同庁舎の一室で行われた。窓側に総務省総合基盤局の関連部著の課長や紛争処理委員会の委員が並び、対峙する形でソフトバンクの孫社長と接続企画本部長以下数名が並ぶ。右横にNTT西の伊東接続推進部長、元太担当部長、中神担当部長そして特筆すべきは3名の弁護士が随伴して着席していた。左横には利害関係者としてイ-・アクセスの千本社長以下が、アッカは担当幹部が並んで着席する。ソフトバンク側の申し立て理由が孫社長から説明された。

申し立て理由の概要 ソフトバンクでは、工期短縮については2営業日を目標とし、ゆくゆくは当日工事を実現していく方向であり、3営業日よりも工期を短縮できると説明した。工事業者についてはNTTと同じ会社へ発注するが、工事モデルを策定、業者と検証するなどガラス張りによる運営で効率化を進めていくことで、工事費用も2割削減を目標とした。
又、工事の発注系統が複数になることで混乱を招くというNTT西日本の意見に対しては、工事事業者も複数の注文を受けるということは普通のビジネスとして当然のことではないかと孫正義氏は反論した。局内工事が可能になった場合は、ユ-ザがNTTとソフトバンクどちらの工事かを選択できる方法をとると説明した。

ついでNTT西からは弁護士が弁論に立ち、かなり激しい口調でソフトバンクの申し立てを論難したのが印象的だった。ハリウッド映画の法廷闘争のようなスタイルで立ち向かったようだが、結果として戦術的に成功であったかどうかは疑問が残る。その激しい論難口調は総務省のみならず紛争処理委員会の委員にも気持ちの上でかなりの不快感を与えたようで、はた目にも総務省役人の顔色が変わっていくのが伺えた。NTTが委託した弁護団の戦術がとった米国スタイルが総務省に与えたものは心情的な効果として最悪に近いのではなかったか。
ちなみにNTTはやはりソフトバンクが2003年に公正取引委員会に提訴した「光ファイバ案件」でも同じく米国で修行してきた弁護士を使い、激しく公取側を論難したがソフトバンク側が「勝訴」している。
利害関係者であるイ-・アクセス社など各社は総じてソフトバンクの自前工事に反対の立場で、千本社長(当時)は自社の設備に対するソフトバンク工事のとばっちりのリスクを中心にMDF自前工事反対の意見を述べていた。

NTT西日本、元太輝幸担当部長、伊東則昭部長、中神勝明氏はこの聴聞を受け、ソフトバンクが要望しているMDF自前工事について説明会を実施した。
説明の概要 MDF装置はDSL設備だけでなく、電話回線やISDN、専用線といったすべてのメタル加入者線が経由している。NTT西日本は「MDF内まで入り込むという接続形態は、ネットワ-ク間を結ぶという“接続の本質”に大きく反する」とした上で、MDF内で円滑な切り替え工事がなされない場合には、電話回線へも影響が発生するとコメント。さらにMDF内で故障が起きた場合、原因となる事業者を特定することが困難なため保守責任が不明確になる点も問題とした。 (http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/1828.html を参考にした)
NTT西日本によれば、MDF自前工事を許すという事は「NTT西日本とソフトバンクBBの2社間だけではなく、6,000万の電話ユ-ザや他事業者のサービスすべてに係わる問題」だという。今回行なわれた聴聞でも、NTT西日本とソフトバンクだけではなく、NTT東日本や他DSL事業者などが参加した。DSL事業者も自身のユ-ザへ直接・間接的に迷惑がかかる可能性を心配したために反対意見を表明した。また、NTT東日本はソフトバンクBBからのMDF自前工事申し出に対して拒否など積極的な対応こそしていないが、NTT西日本と同じ意見を持っていると付け加えられた。

ユ-ザへの影響としては、セキュリティや故障対応などが理由として示された。現在のようにMDFの外側で接続すれば各DSL事業者に回線を分離できるが、①MDF内の工事が許可されれば他事業者がすべての回線にアクセスできるため、通信の秘密保持が困難になるという。また、ソフトバンクBBの要望が実現した場合、②Yahoo! BBユ-ザの電話の故障や移転、サービスの変更の際にはNTT側で対応できなくなり、ソフトバンクBBがMDF内の配線工事を実施することになる。このため故障の迅速な復旧やサービスの円滑な提供が困難になると反対した。
さらにMDF内側のジャンパ-線は径が1.1mm、外皮が0.3mmと非常に細く、施工時に周囲へ影響を与えることが避けられないという。NTT西日本では「恥をしのんでの公表」とした上で、ジャンパ-線工事で年間8,000件の故障が発生していると説明。③万が一故障が発生した場合、MDF内では故障原因を事業者ごとに特定することが難しいために、保守責任が不明確になるとした。 つごう3点を挙げてMDF自前工事反対の理由とした。

故障対応についてNTT西日本は「ソフトバンクBBはDSL以外の専用線などについては保守義務を負っていないと理解している」とした上で、「総務省では故障発生時の責任区分の切り分けが可能と思っているが、NTTとしては無理だと考えている」と語った。また、年間8,000件の障害件数については少ないとは言えないものの、「諸外国に比べて2桁は少ない数字」と説明した。
ソフトバンクBBが掲げる「工期短縮」については、ADSL工事に慣れてきたこともあり現在は3営業日工事体制を実現しているとした上で、ユ-ザの開通希望日工事実施率も2002年7月で97%を突破、現在は99.9%の実施率だとして、ソフトバンクBBの主張はふさわしくないと主張した。また、仮に他事業者がMDF設備内の工事を行なったとしても、現用回線の切断といった工事はNTT側が行なう必要があるという。NTT西日本では「この点に対してはソフトバンクBBも誤解しているのではないか」と前置きした上で、結果として工事が分割されて2社間での調整が必要になるため、必ずしも工期短縮にはつながらない上に、狭いMDF内で複数の事業者が工事を実施した場合には混乱が避けられないと主張した。

NTT西日本 相互接続推進部長の伊東則昭氏は、年間の工事数はDSL以外も含めて約1,200万本、件数ベースで数百万件に上るとした上で「ソフトバンクBBから見ればNTTはちんたらしているかもしれないが、工事エリアが沖縄や離島含めた全国区であり、コスト削減から拠点も絞っている関係上、3営業日がギリギリのライン」だと説明。人数を増やせば工期短縮できる可能性もあるが、コストがさらにかかる点で現実的ではないと説明した。
一方の「費用削減」は、実はそれほど協議の対象になっていないという。伊東氏は、工事にかかる工賃は1時間あたり7,000円という数字を明らかにした上で、「アルバイトに工事をまかせれば1時間1,000円で済むかもしれないが、品質の問題からも決してできることではない」と強く訴えた。
また、聴聞ではソフトバンクBBから「NTTと同じ工事会社へ工事を発注、施工条件もNTTと同様にしたい」という話もあったという。NTT西日本の中神勝明氏は「部品などの面でも安くできる余地はないし、この場合は費用削減はできないのではないか」と指摘。同会社を利用することで工事品質は保てるものの、管理側が複数になることで工事側に混乱が生じてしまう点が問題だとした。

説明会では「総務省から“接続拒否事由にあたらない”として協議再開命令が出る以上、ソフトバンクBBを拒み続けることは無意味であり、その点で総務省が間違っているのであれば行政訴訟でもすべきではないか」との質問も投げかけられた。これに対して伊東氏は、「もっとも答えにくい質問」と前置きした上で、「かたくなに拒否し続けていればいつかわかってもらえるという安易な気持ちがあったことは事実」という心中を明らかにした。また、「紛争処理委員会が設置されたおかげで良質の議論ができている」との考えを示し、「単純に言えば(拒否を続けることで)一縷の望みをかけている」と訴えていた。

7月16日 総務大臣、電気通信事業紛争処理委員会に諮問
8月20日 電気通信事業紛争処理委員会、総務大臣に答申
8月28日 総務大臣、NTT西日本に対して接続協議の再開を命令

NTT西日本の主な主張 と紛争処理委員会の検討結果をまとめてみると
NTT西日本の主張1 ソフトバンクBBによる申立ての実質は、NTT西日本のMDF内部のジャンパ-線に係る工事を自社において行うことを求めるものであり、接続に関する協定の締結に関する紛争ではなく、協議再開命令の手続の対象たり得ない。

紛争処理委員会の検討結果1 本件申立ては、あくまで法第38条に依拠して協議の再開を求めるものであり、申立人がそのような主観的な期待を有しているからといって当該接続請求を同条の適用対象外のものとすることはできない。また、およそあらゆる接続請求は、その接続を通じて得られる利点を電気通信役務の向上に活かすことを期待して行われるものであるから、ソフトバンクBBによる本件接続請求も、電気通信事業法第38条の「接続すべき旨の請求」に当たるとすることに問題はない。 したがって、この点の主張は理由がない。

NTT西日本の主張2 ソフトバンクBBが申し立てる協定の内容は、接続約款の変更を必然的に伴うものであり、その内容は、他の電気通信事業者や利用者に重大な影響を与えるものであるから、二社間の協議で解決することを求める協議再開命令の発令は適切ではなく、広く利用者や他事業者の意見を反映した上で約款の改訂の是非を含む問題として慎重に審議されるべき事項である。

紛争処理委員会の検討結果2 個別的紛争解決手段である接続命令の規定は適用されないものと解すべきであると主張する。しかしながら、接続協議を行うことと、協議の結果締結される接続協定の内容がいかなるものとなるかとは、別個の問題である。認可接続約款により難い特別な事情があるときは総務大臣の認可を受けて認可接続約款の内容と異なる接続協定を締結することができる旨を規定している。したがって、この点の主張は理由がない。

NTT西日本の主張3 故障、移転、DSL接続事業者変更等の際に、他事業者によるジャンパ-線切り替え等が迅速に行われない。狭いスペ-スに複数の作業員が集中することにより、ジャンパ-線切り替え等の際の誤接続などの事故の増加が懸念される。 断線事故等の発生は不可避であり、その際の責任分担が不明確になる。 利用者に対するプライバシ-保護の責任を果たすことができなくなり、また、社会の安全に対する脅威の可能性、安全保障や外交への悪影響の発生の可能性も生じる。作業工程の増加が生じ 複数の事業者による工事が統一的な指揮命令系統なく同時並行的に実施され得る。ジャンパ-工事作業中の人身事故発生の可能性が高まることとなる。

紛争処理委員会の検討結果3 個別のジャンパ-線をどの事業者が設置したものかが明らかになっていれば、物理的な責任分界は明確である。その他の問題点についても、「ソフトバンクBBが本件接続のためのジャンパ-線の敷設や接続を当然に自前工事として実施することができることにはならないのである。 法は、基本的には事業者間の協議に委ねており、いずれか一方が当然にその主体になるものとは定めていないと解される。」として退けている。
尚、NTT西は上記の過程で工期短縮についても努力目標を挙げ、現在、工事のみで5営業日かかっているものを4日に短縮するとしている。
(http://www.watch.impress.co.jp/broadband/news/2002/04/22/ybnw.htmを参考にした)

事案4

2011年6月12日にも、NTTドコモがソフトバンクを相手どって紛争処理委員会に調停あるいは斡旋を申し出たがあっせん打ち切りにおわっている。(H23.5.18申請 H24.1.23終了 (株)NTTドコモがソフトバンクモバイル(株)に対して(株)NTTドコモによるソフトバンクモバイル(株)の接続料の算定根拠の開示の申し出)
それに対する対抗措置として20日後にソフトバンクからNTTドコモにもあっせん申請が出されている(H23.6.9申請 H24.1.23終了 ソフトバンクモバイル(株)による(株)NTTドコモ接続料の再精算等)が前記の案件と同日にあっせん打ち切りとなっている。それなりに活用されているようにみえるがあっせん打ち切りが多発されているのは残念であり無意味である。25件中7件があっせん打ち切りか不実行とされている。あっせんについては申請受理の範囲を考えないと税金の無駄遣いと非難されるのではないかと思う。

電気通信紛争処理委員会のなりたちを述べてみる。前章の大臣裁定が三条委員会に相当し、紛争処理委員会が八条委員会に相当するとみてよいだろう。2001年に接続に係る紛争処理を行う機関として、電気通信紛争処理委員会が設置された。これは総務省内に設けられるいわゆる八条委員会で、紛争処理委員会の委員は衆参両院の同意を必要とされ、三条委員会ほどではないがある程度の独立性と権威が付与されることとなった。

いわゆる三条委員会とは、国家行政組織法第3条に基づく委員会をいう。それ自体として、国家意思を決定し、外部に表示する行政機関であり、具体的には、紛争にかかる裁定やあっせん、民間団体に対する規制を行う権限等を付与されている。(同様の権限を持つ内閣府設置法に基づき設置された委員会を含む。 )

いわゆる八条委員会とは、国家行政組織法第8条に基づく委員会をいい、調査審議、不服審査、その他学識経験を有する者等の合議により処理することが適当な事務をつかさどる合議制の機関である。 (同様の権限を持つ内閣府設置法に基づき設置された委員会を含む。 )

三条委員会及び八条委員会の概要 - 厚生労働省

 

直属の事務局が設置され、従来の総務省各部局とは独立した組織となった。

この委員会ができるまでは、各種のNTT相互接続に関する交渉が成立せずに問題がこじれると、総務省電気通信事業部の業務課やデ-タ通信課等関連部局が担当してお互いの意見聴収を行い問題を裁いていた。問題が大きく即答できないときは当該問題をテ-マにしたさまざまなレベルの研究会を立ち上げるなどして対応するが、時には当事者の企業が決定を急ぐ場合があり、こうしたケ-スには裁定申請が提出され、接続命令が出されるか、協議に応じると言った形で問題を解決してきた。

しかし、電気通信事業法で明解に白黒が判断できる場合は良いが、たいていの場合は裁判と同じで明快に判断しかねるケ-スも出始めており、又、公平性、公正性の観点から総務省とは独立した機関で外部委員による裁定が好ましいとの判断になったようだ。国際的にもADRは白黒の明快な争いではなくどちらの言い分もそれなりにある場合には白黒をつけるより、こうした斡旋的な和解の方法を求める方が解決の早道であるとの流れがあり、それにならったと考えている。

ADR 裁判外紛争解決手続(Alternative Dispute Resolution; ADR)は、訴訟手続によらない紛争解決方法を広く指すもの。紛争解決の手続きとしては、「当事者間による交渉」と、「裁判所による法律に基づいた裁断」との中間に位置する。ADRは相手が合意しなければ行うことはできず、仲裁合意をしている場合以外は解決案を拒否することも出来る。アメリカ合衆国で訴訟の多発を受けてできた制度で、アメリカから日本に輸入された制度である。(wikiより)

 

エピソード1 即日開通

あるとき韓国テレコムの会長が孫邸を訪れた。そのときの話の中にNTT申し込みの工事日数の話が出て、韓国では即日開通するという話を聞き及んだ。進捗会議で孫正義氏は高ぶった声で言い放った。

「なぜNTTにADSL開通を申し込んで7日もかかるんだ、韓国は即日だぞ、韓国に出張して工事日数を調査し、NTTと即日開通を交渉しろ」

MDF工事は顧客とNTT内に置かれた集合モデムを銅線でつなぐ原始的な手作業の必要な工事だ。NTTの顧客回線がNTT局舎に集まり、MDFと称する配線板に収容される。この配線板からソフトバンク側の集合モデム設備に配線替えする工事で近隣には警察や消防などをはじめとした重要回線が同居しテロ対策などで極めて保安の必要な場所だ。いわば外界とNTTを隔てる防御壁であり、NTT社員の心情からは聖域である。

このMDF工事要員の確保が最も難しい。従来はNTT東西からの発注が100%で業界もその需要を当て込んだ要員しか確保していない。ソフトバンクが一気に全国局舎の開局を目指したため全国的にMDF工事要員の需給バランスが崩れた。 

ADSL各社が申し込みを受けてからMDF工事を完了までの所要日数がかかりすぎることがNTTとの争点になった。NTTへ申し込んでから完了通知が届くまで4営業日以内とされていたが修まらないケ-スも多くあった。その後一年を経てようやく3営業日以内にほとんどの工事が修まるようになったがそこにいたるまでは長い交渉と論争の期間でもあった。

工事日数が4営業日を超えてしまう場合のNTT東西の言い分として一日の工事量が一定しない事があげられる。NTTとしては現場に平均以上の作業員を準備するわけにはいかない。毎日一定数の工事は処理するが特別多めにオ-ダ-が来たときは、準備した要員でさばける範囲での工事量がリミットとなる。多少の残業はしているがそれでも波が大きい場合はアさばききれないので厳格な工期は守れないことになる。

エピソード2 MDF工事自前化

NTT東西は作業の平準化を図るために工事量の平準化を繰り返し主張していた。一方、ADSL事業者側は、顧客獲得は波があるのが一般的で、平準化など現実にはできない。申し込みが有る度、NTT東西にそのまま申し込みをする。NTT側の言い分にも理があり、いつも双方の議論がすれ違い、交渉は一向に進展しないままに時は流れた。

孫正義氏の根底にはNTT側のモチベ-ションに対する不信感があることは言うまでもない。孫正義はこのNTT感覚がまったく理解できない。企業である以上は大口顧客のためにある程度のリスクを持つべきだと主張するのだ。企業はリスクテイカーであるべきという孫正義にとっては当然の主張で民間企業ならこの交渉は妥当なのだが過去独占と総括総括原方式に守られて来たNTTにとっては異例の申し出である。

又、MDF工事一回線あたり7000円の工事費用も孫正義は気に入らない。たかだかコードを数メートルはるだけの実働10分程度と簡単な工事ではないか。しかし給与水準の高いNTT東西の管理者全員のコストを売り上げ比例やスタッフ数比例で費用配分すると時間当たり7000円と高いものになる。この点を指摘してもコスト計算は事実だから変えられないという返事が返ってくる。下請けに丸投げのMDF工事に高給幹部の判断作業を必要とする割合は極めて低いのだが費用配分のマジックで結果的に高いものになる。孫正義のイライラはつのる。

当時の孫正義氏にとってNTTは極めて巨大な存在であり、筆者はこの論争での孫正義にいろは事件で御三家の紀州藩を相手に戦う一介の海援隊リーダー竜馬を想起する。(史実のいろは丸事件は龍馬のしたたかぶりも暴くがここではあくまで「竜馬がゆく」の竜馬である。)

ソフトバンクは2003年の総務省聴聞会でこの問題を解決するためにNTTが契約している工事会社をソフトバンクが直接委託契約することで間接費用を回避できると新たな提案をした。NTTが契約している同じ工事会社を使ってソフトバンクが仮に効率的なオペレーションを行ったとするとNTTの言い分とメンツは丸つぶれになる。だからファミリー企業の工事会社がそんなオペレーションを採用することを絶対に許さないし、工事会社もNTTの空気を読んでそんなオペレーションは決してしない。この戦術は実現不可能なことはあらかじめ見えていた。

ソフトバンクではADSLサービス開業当時からMDF工事の自前化(NTTに配線工事を依頼するのではなく、ソフトバンク自体が行う)は重要課題であった。工事の迅速化(当時NTTに工事を依頼してから4日から6日程度がかかっていたが、韓国では一日で出来るという話を聞き及び、即日工事を目標としていた)と工事費(一件当たり4000円以上かかっていた。300万件の工事に120億円かかることになる)の削減のためだ。ここで工事とはジャンパ-線の配線工事を指している。

説明 MDF工事はADSL事業者がNTT局舎内に設置するDSLAM(Digital Subscriber Line Access Multiplexer…デジタル加入者線 (DSL)で使われるネットワ-ク機器。電話局側にあり、複数の加入者線を多重化して、高速なインターネット・バックボーンに接続する。集合モデムとも呼ばれる)とMDF(main distribute flame…市内から上がってくる銅線を交換機に接続するための配線板)を接続する工事(ジャンパ-工事)が必要となる。これをMDF工事と呼んでいた。

エピソード3 あっせん申請

2002年2月12日 ソフトバンクがあっせん申請。吉岡委員、瀬崎特別委員、東海特別委員及び土佐特別委員が指名される。その後 両当事者より意見の聴取 があり霞ヶ関の合同庁舎内の一室で紛争処理委員会斡旋委員を前にしてNTT西とソフトバンク双方が意見を述べた後、あっせん案の提示が行われた。ソフトバンクがあっせん案を受諾したがNTT西日本があっせん案受諾を拒否したためあっせん打切りとなる。(このように「あっせん」は一方が拒否すると打ち切りとなる。)

何回かの事情説明的な場を経てのちに本番の紛争処理委員会裁定の場が設けられる。進行形式は全く裁判を擬制しており、委員長が裁判長で、委員が裁判官、紛争当事者はそれぞれ弁護士を擁していた。紛争当事者である2社つまりソフトバンクとNTT西がプレゼン風の趣旨説明を行うが、訴えたソフトバンクはその接続の必要性や交渉経過、そしてその反対理由が無効であることを中心に述べ、一方のNTTはどうして接続が困難であるかの理由説明を行う。それに対して委員から質疑がある。NTT西は3名、ソフトバンクは牧野弁護士が陪席しており、後のMDF自前工事問題での総務省聴聞会と異なり、淡々と事実関係を述べて終わる。

エピソード4 聴聞会

2003年2月14日には「あっせん」の打ち切りを受けてソフトバンクは次のステップである仲裁の申請を行う。NTT西日本は仲裁の申請を行わない旨を報告したために 仲裁不成立となる。このように仲裁は両者が申請しないと不成立となる。

2003年5月16日には あっせん、仲裁いずれも不首尾に終わったので接続協議再開命令の申立てを行う。その当時ソフトバンクは光ファイバ-サービスへの参入が大きな企業戦略となっており、その大がかりな計画のためにもMDF自前工事化への期待はますます強くなっていたという背景があり、ついに接続協議再開命令の申立てを行う。それを受けて総務省は 電気通信事業法第38条で定められている接続拒否事由として認められないと判断し、協議再開命令の前に事前の調査としてNTT西日本から意見を聞く場を2003年6月18日に開催した。

紛争処理委員会の聴聞会は総務省の他に警察庁などの入っている霞ヶ関合同庁舎の一室で行われた。窓側に総務省総合基盤局の関連部著の課長や紛争処理委員会の委員が並び、対峙する形でソフトバンクの孫正義と接続企画本部長以下数名が並ぶ。右横にNTT西の伊東接続推進部長、元太担当部長、中神担当部長そして特筆すべきは3名の弁護士が随伴して着席していた。左横には利害関係者としてイ-・アクセスの千元社長以下が、アッカは担当幹部が並んで着席する。ソフトバンク側の申し立て理由が孫正義から説明された。

申し立て理由の概要 ソフトバンクでは、工期短縮については2営業日を目標とし、ゆくゆくは当日工事を実現していく方向であり、3営業日よりも工期を短縮できると説明した。工事業者についてはNTTと同じ会社へ発注するが、工事モデルを策定、業者と検証するなどガラス張りによる運営で効率化を進めていくことで、工事費用も2割削減を目標とした。

又、工事の発注系統が複数になることで混乱を招くというNTT西日本の意見に対しては、工事事業者も複数の注文を受けるということは普通のビジネスとして当然のことではないかと孫正義は反論した。局内工事が可能になった場合は、ユ-ザがNTTとソフトバンクどちらの工事かを選択できる方法をとると説明した。

ついでNTT西からは弁護士が弁論に立ち、かなり激しい口調でソフトバンクの申し立てを論難したのが印象的だった。ハリウッド映画の法廷闘争のようなスタイルで立ち向かったようだが、結果として戦術的に成功であったかどうかは疑問が残る。その激しい論難口調は総務省のみならず紛争処理委員会の委員にも気持ちの上でかなりの不快感を与えたようで、はた目にも総務省役人の顔色が変わっていくのが伺えた。NTTが委託した弁護団の戦術がとった米国スタイルが総務省に与えたものは心情的な効果として最悪に近いのではなかったか。

ちなみにNTTはやはりソフトバンクが2003年に公正取引委員会に提訴した「光ファイバ案件」でも同じく米国で修行してきた弁護士を使い、激しく公取側を論難したがソフトバンク側が「勝訴」している。

利害関係者であるイ-・アクセス社など各社は総じてソフトバンクの自前工事に反対の立場で、千本社長(当時)は自社の設備に対するソフトバンク工事のとばっちりのリスクを中心にMDF自前工事反対の意見を述べていた。

NTT西日本、元太輝幸担当部長、伊東則昭部長、中神勝明氏はこの聴聞を受け、ソフトバンクが要望しているMDF自前工事について説明会を実施した。

説明の概要 MDF装置はDSL設備だけでなく、電話回線やISDN、専用線といったすべてのメタル加入者線が経由している。NTT西日本は「MDF内まで入り込むという接続形態は、ネットワ-ク間を結ぶという“接続の本質”に大きく反する」とした上で、MDF内で円滑な切り替え工事がなされない場合には、電話回線へも影響が発生するとコメント。さらにMDF内で故障が起きた場合、原因となる事業者を特定することが困難なため保守責任が不明確になる点も問題とした。 

NTT西日本によれば、MDF自前工事を許すという事は「NTT西日本とソフトバンクの2社間だけではなく、6,000万の電話ユ-ザや他事業者のサービスすべてに係わる問題」だという。今回行なわれた聴聞でも、NTT西日本とソフトバンクだけではなく、NTT東日本や他DSL事業者などが参加した。DSL事業者も自身のユ-ザへ直接・間接的に迷惑がかかる可能性を心配したために反対意見を表明した。また、NTT東日本はソフトバンクからのMDF自前工事申し出に対して拒否など積極的な対応こそしていないが、NTT西日本と同じ意見を持っていると付け加えられた。

ユ-ザへの影響としては、セキュリティや故障対応などが理由として示された。現在のようにMDFの外側で接続すれば各DSL事業者に回線を分離できるが、

①MDF内の工事が許可されれば他事業者がすべての回線にアクセスできるため、通信の秘密保持が困難になるという。また、ソフトバンクの要望が実現した場合、②Yahoo! BBユ-ザの電話の故障や移転、サービスの変更の際にはNTT側で対応できなくなり、ソフトバンクがMDF内の配線工事を実施することになる。このため故障の迅速な復旧やサービスの円滑な提供が困難になると反対した。

さらにMDF内側のジャンパ-線は径が1.1mm、外皮が0.3mmと非常に細く、施工時に周囲へ影響を与えることが避けられないという。NTT西日本では「恥をしのんでの公表」とした上で、ジャンパ-線工事で年間8,000件の故障が発生していると説明。

③万が一故障が発生した場合、MDF内では故障原因を事業者ごとに特定することが難しいために、保守責任が不明確になるとした。 つごう3点を挙げてMDF自前工事反対の理由とした。

故障対応についてNTT西日本は「ソフトバンクはDSL以外の専用線などについては保守義務を負っていないと理解している」とした上で、「総務省では故障発生時の責任区分の切り分けが可能と思っているが、NTTとしては無理だと考えている」と語った。また、年間8,000件の障害件数については少ないとは言えないものの、「諸外国に比べて2桁は少ない数字」と説明した。

孫正義が主張する「工期短縮」については、ADSL工事に慣れてきたこともあり現在は3営業日工事体制を実現しているとした上で、ユ-ザの開通希望日工事実施率も2002年7月で97%を突破、現在は99.9%の実施率だとして、ソフトバンクの主張はふさわしくないと主張した。また、仮に他事業者がMDF設備内の工事を行なったとしても、現用回線の切断といった工事はNTT側が行なう必要があるという。NTT西日本では「この点に対してはソフトバンクも誤解しているのではないか」と前置きした上で、結果として工事が分割されて2社間での調整が必要になるため、必ずしも工期短縮にはつながらない上に、狭いMDF内で複数の事業者が工事を実施した場合には混乱が避けられないと主張した。

NTT西日本 相互接続推進部長の伊東則昭氏は、年間の工事数はDSL以外も含めて約1,200万本、件数ベースで数百万件に上るとした上で「ソフトバンクから見ればNTTはちんたらしているかもしれないが、工事エリアが沖縄や離島含めた全国区であり、コスト削減から拠点も絞っている関係上、3営業日がギリギリのライン」だと説明。人数を増やせば工期短縮できる可能性もあるが、コストがさらにかかる点で現実的ではないと説明した。

一方の「費用削減」は、実はそれほど協議の対象になっていないという。伊東氏は、工事にかかる工賃は1時間あたり7000円という数字を明らかにした上で、「アルバイトに工事をまかせれば1時間1000円で済むかもしれないが、品質の問題からも決してできることではない」と強く訴えた。

また、聴聞ではソフトバンクから「NTTと同じ工事会社へ工事を発注、施工条件もNTTと同様にしたい」という話もあったという。

NTT西日本の中神勝明氏は「部品などの面でも安くできる余地はないし、この場合は費用削減はできないのではないか」と指摘。同会社を利用することで工事品質は保てるものの、管理側が複数になることで工事側に混乱が生じてしまう点が問題だとした。

説明会では

「総務省から“接続拒否事由にあたらない”として協議再開命令が出る以上、ソフトバンクを拒み続けることは無意味であり、その点で総務省が間違っているのであれば行政訴訟でもすべきではないか」

との質問も投げかけられた。これに対してNTT西の伊東氏は、

「もっとも答えにくい質問」

と前置きした上で、

「かたくなに拒否し続けていればいつかわかってもらえるという安易な気持ちがあったことは事実」

という心中を明らかにした。また、

「紛争処理委員会が設置されたおかげで良質の議論ができている」

との考えを示し、

「単純に言えば(拒否を続けることで)一縷の望みをかけている」

と訴えていた。

7月16日 総務大臣、電気通信事業紛争処理委員会に諮問

8月20日 電気通信事業紛争処理委員会、総務大臣に答申

8月28日 総務大臣、NTT西日本に対して接続協議の再開を命令

NTT西日本の主な主張 と紛争処理委員会の検討結果をまとめてみると。

NTT西日本の主張1 ソフトバンクによる申立ての実質は、NTT西日本のMDF内部のジャンパ-線に係る工事を自社において行うことを求めるものであり、接続に関する協定の締結に関する紛争ではなく、協議再開命令の手続の対象たり得ない。

紛争処理委員会の検討結果1 本件申立ては、あくまで法第38条に依拠して協議の再開を求めるものであり、申立人がそのような主観的な期待を有しているからといって当該接続請求を同条の適用対象外のものとすることはできない。また、およそあらゆる接続請求は、その接続を通じて得られる利点を電気通信役務の向上に活かすことを期待して行われるものであるから、ソフトバンクによる本件接続請求も、電気通信事業法第38条の「接続すべき旨の請求」に当たるとすることに問題はない。 したがって、この点の主張は理由がない。

NTT西日本の主張2 ソフトバンクが申し立てる協定の内容は、接続約款の変更を必然的に伴うものであり、その内容は、他の電気通信事業者や利用者に重大な影響を与えるものであるから、二社間の協議で解決することを求める協議再開命令の発令は適切ではなく、広く利用者や他事業者の意見を反映した上で約款の改訂の是非を含む問題として慎重に審議されるべき事項である。

紛争処理委員会の検討結果2 個別的紛争解決手段である接続命令の規定は適用されないものと解すべきであると主張する。しかしながら、接続協議を行うことと、協議の結果締結される接続協定の内容がいかなるものとなるかとは、別個の問題である。認可接続約款により難い特別な事情があるときは総務大臣の認可を受けて認可接続約款の内容と異なる接続協定を締結することができる旨を規定している。したがって、この点の主張は理由がない。

NTT西日本の主張3 故障、移転、DSL接続事業者変更等の際に、他事業者によるジャンパ-線切り替え等が迅速に行われない。狭いスペ-スに複数の作業員が集中することにより、ジャンパ-線切り替え等の際の誤接続などの事故の増加が懸念される。 断線事故等の発生は不可避であり、その際の責任分担が不明確になる。 利用者に対するプライバシ-保護の責任を果たすことができなくなり、また、社会の安全に対する脅威の可能性、安全保障や外交への悪影響の発生の可能性も生じる。作業工程の増加が生じ 複数の事業者による工事が統一的な指揮命令系統なく同時並行的に実施され得る。ジャンパ-工事作業中の人身事故発生の可能性が高まることとなる。

紛争処理委員会の検討結果3 個別のジャンパ-線をどの事業者が設置したものかが明らかになっていれば、物理的な責任分界は明確である。その他の問題点についても、

「ソフトバンクが本件接続のためのジャンパ-線の敷設や接続を当然に自前工事として実施することができることにはならないのである。 法は、基本的には事業者間の協議に委ねており、いずれか一方が当然にその主体になるものとは定めていないと解される。」

として退けている。

尚、NTT西は上記の過程で工期短縮についても努力目標を挙げ、現在、工事のみで5営業日かかっているものを4日に短縮するとしている。

長々とMDF自前工事のことを書いてきた。なぜこれほどまでに孫正義は自前工事に執着したか。それは線路敷設権、アクセス権を憲法で定めるべきだと主張したことを行動で示したのだ。

インターネットの普及に対応し、憲法に、情報に自由・平等にアクセスできるネット・アクセス権を規定するとともに、プライバシー保護の権利を保障すべきである。また、コンピューター・ウィルスやハッカーによるインターネットへの攻撃の危険が現実的なものとなっており、ネット・セキュリティの確立を図る必要がある。平成13年3月8日 第151国会 孫正義参考人の意見陳述

そして第11章光の道構想の挫折で述べるように挫折する。この挫折の意味は大きい。孫正義の志を日本の国家安全保障が阻んだのだ。日本に潜在する空気が阻んだのだと筆者は考えている。長々と書き連ねたのはグローバリスト孫正義の弱点がこのエピソードによく現れていると思うからだ。

サウジアラビア皇太子のカショギ氏殺害指示疑惑でソフトバンクビジョンファンドが負の注目を浴び、ファーウェイ製品情報窃盗疑惑でスプリントとT-モバイル合併許可の動向が注目されている。グローバリスト孫正義の志が世界の対立を反映する、とくに安全保障に影響する関心をよんでいる。竜馬のリスクテイカーぶりを受け継ぐ孫正義は世界のリスクに対してどのような対処をみせるのだろうか。

エピソード5 NTT西の先制パンチ

総務省の協議再会命令の結果、再びNTT西との間でMDF自前工事の協議が始まった。孫正義はこの協議再開命令で光明を見出したと考え勇んで風邪気味の疲労困憊した体を押してNTT西の上野社長に合うために早朝のJALで大阪に飛んだ。

大阪市内を車で移動中に走行車線の反対側にある薬局まですたすたと歩いていき、アンプル風邪薬を2本買ってその場で一気に飲干していたので相当体調は悪かったのだろう。NTT西の本社に到着し大阪城の見える比較的小さな応接室で上野社長(以下当時の役職)S取締役(当時)、M接続推進部長と面談した。上野社長は冒頭、協議再開に際してMDF自前工事は局所的ではなく全国ベースが前提だと切り出した。局所的な実施ではユニバーサルサービスとの関係で整合性がとれないという理由を説明した。つまり採算のとれない地方を都市部で補っているので、都市部等ばかりを自前工事化してもらっても困るとのいきなりの先制パンチである。

上野社長は

「ユニバーサルサービスの責務がある当社は、費用のかかる離島も、費用効率の良い都市部も均一工事料金でサービスすることをNTT法で余儀なくさせられている。その前提の上に立った工事料金なので、経営効率の良いところだけつまり都市部だけをソフトバンクがサービスするというのは受け入れられない」

と説明した。MDF工事といえどもクリームスキミングと呼ばれる「いいとこどり」は駄目だという事を云ったのだ。

これは先制パンチとしてはかなり強烈で、ソフトバンクとしてもいきなり全国の局舎で一斉にMDF工事を始めることはハードルがかなり高くなるどころか現実問題として不可能である。全国の各局舎でMDF自前工事を実施するにはそれなりの工事量が局ごとになければ採算割れするのは必至である。上野社長(当時)は「総務省紛争処理委員会の協議再開命令通りにやるが、全国ベースでやってほしい」と実に痛い点をついてきたわけだ。孫正義は体調の悪いところをさらに一撃を受けて東京に帰らざるをえなかった。

こうした頑強な抵抗にあって、孫正義は後の地域アクセス会社分離論、光の道構想に期待することになるのだがこの光の道構想でもソフトバンク案は研究会で却下されている。MDF工事を含めた地域アクセスの交渉は実に挫折の連続なのだった。 

後年このMDF自前工事はいつの間にか改善されていたがもはや双方にとって関心事ではなくなってた。現在ではNTTのサイトには下記の文が掲載されている。

自前工事実施可能な工事会社の基準 当社の通信用建物等において、接続申込者等が接続に必要な装置等を設置する場合における元請負工事会社の条件は下記のとおりとします。1.他事業者様設備の設置スペース内での工事の場合 特に条件はありません。

エピソード6 孫正義氏のおかしみとやさしさ

大阪城の近くにハイヤ-が差し掛かったときに道路の向こう側に薬局が見えた。やおら車を止めさせてあれよあれよと車が行き交う中を向こう側に渡り、風邪薬アンプルを2本飲んで車に戻ってきた。2本飲んだから早く治るわけでもないと心中思った。

孫正義氏がNTT西の上野社長を訪れた帰りのこと、予約の飛行機よりも30分早い便があるとわかるとそれにチェンジして、乗り換えるために伊丹空港内の別ウィングへ駆け足で移動することに、結局その便は1時間遅れという皮肉な結果になった。

「竜馬がゆく」の竜馬はどこか生き急いでいるところがあり、そして滑稽という言葉では表せない人間のおかしみが随所に漂う。

そして人間に心優しいところがある。ある幹部は転職した早々に「孫さんは情にもろい、特に家族の話には弱い」と話してくれたことを思い出す。

陸奥は、この理屈っぽさと、理のないところでも理をたてる弁口達者のために、仲間とはあまり調和していない。竜馬のような親分の下にいてこそ、息のつける男なのである。竜馬がゆく

監獄の中で執筆した「面壁独語」の中で陸奥宗光が坂本竜馬の言葉を回想している。

「竜馬は言った。人間、一度、目的を心に抱いたならば、いかにして達成するか、常に考え抜かねばならない。決して、弱気を起こしてはならない。死ぬ時は、たとえ、いまだ目的を成就するには至らなくとも、必ず、その目的に向かって前向きに倒れるべきである。これは至極の名言である」

岩崎弥太郎は竜馬を次のようにみている。

癪だが、おれより人間が上品だ。あいつが、おれに優っているところが、たった一つある。妙に、人間といういきものに心優しいということだ。将来、竜馬のその部分を慕って、万人が竜馬をおしたてるときがくるだろう。竜馬はきっと大仕事をやる。おれにはそれがない。しょせんは、おれは、一騎駈けの武者かとおもう) 竜馬がゆく 

次の引用はヤフー元社長井上氏の葬儀でのことばだがビジネスでは情を挟まない孫正義の「人間といういきものに心優しい」人柄がでている。

「井上君が社長室長で、米国とかいろんなところに出張に行った。当時も色んな会社を買収しようとカバンに沢山の書類やパソコンを入れて、両手に重たい荷物を持っていたんだけど、信号待ちの四つ角でふと気付くと、両手に持っているのは僕で、悠々とたばこを吸ってたのが井上君だった。300メートルぐらい歩いて、いよいよたまりかねて井上君に『井上君、1つぐらい持ってくれんか。大体、社長室長はかばん持ちじゃないのか』って言ったら、僕の方をふとみて、初めて気付いたような顔して、『ちょっと僕、腰が痛いんですよね』って。仕方ないから、僕は両手でかばんを持ち歩きました」

「全社員がネクタイを締めて、朝9時に来ていたし、僕も夜遅くまで仕事していたから辛かったけど9時に来てネクタイをしていた。だけど、社長室長の君だけが12時ぐらいに来るんだよね。しかもネクタイもしていないし、髪もぼさぼさで眠たそうな顔をして。『おい、井上。社長室長が…(こんな時間に出勤して)。昨日忙しかったのか?』って聞いたら、『ドラクエ(人気ゲームのドラゴンクエストシリーズ)やってた』と。参ったねえ。で、『もう、お前は俺の下で社長室長とか務まらん。もうちょっと、小さな会社で社長をやってみるか』ということでやらせたのがヤフージャパンでした」

「人には器ってのがあるんでしょうね。社長をやらせると突然、大活躍する」

「もし井上君じゃなくて、もうちょっとほかのまじめなやつに社長をやらせてたら、恐らくヤフージャパンは途中で行き詰まってたんじゃないかと思いますね。井上君はヤフージャパンの社長になるために生まれてきた男かもしれません」(産経Webより )

2001年のある日曜出勤の日、孫正義とKさん、私とIさん4人で昼食をとりに出かけた。あいにく会社の周りの店は開いておらず、目当ての鯛めしはあきらめ、ロイヤルパークホテルの寿司屋にはいった。座敷に座ってやおら孫さんはAさんのことを話はじめた。

彼は世界的に見ても、ビルゲーツの次くらいに天才だ、とくにコンパイラを作れるのはよほどの才能がないと無理だ、ビルゲーツも数学的な頭脳はぴか一だがAはその上だ。

Aの話に海外ADSLメーカはみな最初は反対していたが、そのうち、彼の言っていることは正しいと理解した。彼はLSIの中の専門的なことまで専門家と太刀打ちできるのだ。

彼は、言っていることが凡人には理解されない、しかし、よくじっくり考えるとあたっていることが多い。

経営の話は別で、俺の方があたっているがね。みんなも彼は一見無茶を言っているようだが理解者になってやってくれ。と、彼のいかに天才であるかを寿司を食いながら1時間くらい、とうとうと述べ立てた。

ここまで人を信じることができるのも孫正義氏の並ではない特徴だと今では認識している。Aさんが彼の守護神であるという純な思いも理解できた。

第一流の人物というのは、少々、馬鹿にみえる。少々どころか、凡人の眼からみれば大馬鹿の間ぬけにみえるときがある。そのくせ、接する者になにか強い印象をのこす。竜馬がゆく

このAさんと孫正義は進捗会議などでちょっと信じられないやりとりを繰り広げる。

「だまれ A だまれ だまれ だまれ、お前は技術では上だが経営は俺のほうが上だ、だまれ」

と孫正義氏は青筋を立てて怒りだす。しかし本気で怒っているのではないことが出席者の誰の目にもあきらかなのだ。あえていえばじゃれ合っているという風にも見える。

「そんなこといっても孫さん、それはだめです。むちゃくちゃです。」

Aさんがひるむこと無く返す。

「まだいってるのか。技術はお前のほうが上だが経営なら俺のほうがはるかに上だ」と孫正義氏は声のトーンを上げて血管がきれそうな形相で怒る。

こんな応酬が夜9時過ぎからの会議で数分続くのだ。本人は至って大真面目なのだがどこかコミカルで劇画風なのだ、これだけ糞味噌に言われても不思議と憎しみにはならない、これが孫正義氏の魅力を支えている。まさにAさんは孫正義氏のもとでこそ力を発揮できる男なのだと思ったものだ。 

しかし別の一面も併せ持つ。2003年頃だったかMDFを自前で工事する課題でNTT東西と激しい交渉を行っていたとき、緊急に話したいことがあり孫正義はNTT西の森下社長を呼び出した事がある。森下社長はたまたま元社長の社葬に出席中だったが構わずに「後で電話がほしい」と伝言する。通常なら遠慮するところだ。

義理などは夢にも思ふことなかれ。身をしばらるるものなり。龍馬語録



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