Netflixドキュメンタリー「不自然淘汰:ゲノム編集がもたらす未来」を観た。断片的にはニュースとして知っていたがまとまったドキュメンタリーとしてみるとその未来は衝撃的だ。
AIの未来と合わせて考える必要のあるビッグイシューだと。
蚊の撲滅(雄しか生まれないようにする)やネズミの駆除に遺伝子操作技術を使うかどうかの議論から始まる。
マラリヤで一分間に一人が亡くなる現状を何とかしたい人々と遺伝子を変えることで未来を変えてしまう、神を冒涜する行為だと考える人が議論するが見るものはどっちにつくべきか考えさせられる。
見ているうちに自然淘汰も不自然淘汰も有かなと思えてくる。
いずれやってくる地球の破局の前にノアの箱舟のように宇宙に飛び出すため、宇宙という生命体は人の知能を高める必然性があったとの説がある。わたしはこの説に惹かれる。その延長上に「遺伝子操作をするために人間の知能を高めた」とも解釈できるからだ。
遺伝子編集技術「CRISPR(クリスパー)」は劇的だ。
細菌のウィルスに対する免疫機構を利用してCRISPRが生み出された。マイクロピペットとインターネット接続をもつすべての人に、あらゆる生物の遺伝暗号を操作する能力を実質的に個人がDIYする技術を授けたのだ。
自分自身を実験台にして腹に注射を打つジョサイア・ゼイナーやアーロン・トレイウィックのようなバイオハッカーが登場する。
ジェニファー・ダウドナやケヴィン・エスヴェルトといった研究者や、遺伝性眼疾患による盲目を治療するために遺伝子療法の初の臨床試験を受ける患者たちの姿も追う。
CRISPRは非常に正確で、比較的安価で、比較的容易に施術できる 恩恵が非常に早い段階でわたしたちにもたらされる。鎌状赤血球症やその他の血液関連の病気が治った人がいる
遺伝子編集 DNAを精密にカット&ペーストする方法の説明。
たんぱく質には3種類あり、ZFN、TALEN、CRISPR エレガントなデザインを備え、細胞への挿入も簡単 CRISPR
正確にはCRISPR-Cas9 酵素とガイド役の遺伝物質の組み合わせのこと DNAを発見し編集する。
CRISPRという言葉は、「クラスター化され、規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し(Clustered Regularly Interspaced Palindromic Repeats)」の略称
太古の昔に細菌がつくりあげた、ウイルスの侵入に対する防衛機構
ウイルスは細胞を乗っ取り、細胞の仕組みを利用して自己複製を続け、ついには細胞を死に至らしめる。これに対し、一部の細菌は反撃手段を進化させた。
DNAを切断するたんぱく質の数々を配備し、周囲にウイルスの遺伝子を見つけ次第、切り刻むのだ。こうした細菌は、ウイルスの攻撃を生き延びると、ウイルスDNAの小さなかけらを自らのゲノムの中に埋め込む。まるで、過去に出会った敵の人相書きのように。
細菌は以後、これらを利用してウイルスをより素早く発見する。こうしたウイルスコード(いわゆる「ガイドRNA」)の断片は反復回文構造の配列を挟んで隔てられている。
過去に侵入したウイルスの遺伝的コードを、ほかのもっと重要な遺伝子から遠く離れた場所に保存できる
Cas9は遺伝子の人相書きに一致するものはすべて切り刻む。
そして、このRNAの短い配列をCas9とともに、編集したい細胞に注入する。ガイドRNAはCas9との複合体を形成し、RNAの一方の端がヘアピンカーブをつくってたんぱく質のなかに刺さる。もう一方の機能を担う側は、外側にぶら下がり、出合うDNAと相互作用する。
細胞核に入ったCRISPR-Cas9複合体はゲノムに沿って進み、PAMと呼ばれる短い配列に出合うたび、その場所に付着する。PAMこと「プロトスペーサー隣接モチーフ」はわずか数塩基だが、Cas9がDNAを捕まえるにはこれが必要だ。
PAMをつかんだCas9は、隣接する配列を不安定化させ、二重らせんのごく一部を解きほぐす。これによりガイドRNAが潜り込む隙間ができ、ガイドRNAはそこでマッチする配列を探し回る。マッチしなければ、次へと進む。すべての塩基がターゲットに対応する配列が見つかれば、ガイドRNAはCas9にはさみ状の付属物をつくらせ、それがDNAを2つに切断する。
プロセスをここで停止して、単に遺伝子を動作不能にすることもできる。あるいは、代替DNAの断片を加えて、遺伝子をノックアウトするのではなく、修復することも可能だ。
Cas9だけに限定する必要もない。ガイドRNAを利用するたんぱく質は、これ以外にもたくさんの種類があるのだ。
Cas3を使って、消化管のマイクロバイオームを損なうことなく、腸炎の原因菌であるクロストリジウム・ディフィシル(C. diff)の特定株だけを撲滅する標的型抗生物質を開発中だ。
またCas13という酵素は、ガイドRNAと一緒に働き、DNAではなくRNAの断片を奪い去る。シャーロック(Sherlock)と呼ばれるこのシステムは、精度の高いウイルス感染検査の開発に利用されている。
https://wired.jp/2019/01/05/biotech-firms-crispr-babies/
カズオ・イシグロの語る遺伝子操作
『クララとお日さま』子どもに寄り添うためにつくられた「人工親友」と呼ばれるロボットと、遺伝子操作によって知能を高められた子どもが登場する。
一部の子どもは遺伝子操作によって知能を高められ、一種のAIと化している。
この小説では、人の“性格”をキャプチャーして、アルゴリズムに基づいて再構築する方法についても考察しています。
『クララとお日さま』は、ビッグデータやアルゴリズムなどの技術がわたしたちの生活の一部になっている世界が舞台です。そして、この世界では人間が互いに違う見方をし始めています。人間とは何か。それぞれ個性をもつ人間の内面には何があるのか。人間を特徴づけているものは何なのか。人間のパーソナリティーを掘り起こし、分析できるさまざまな手段が実現した世界では、これらの前提が少し変わってきます。
参考 コロナ対策と遺伝子操作技術
スタンフォード大学生物工学科の博士候補のティム・アボットはゲノム編集技術「CRISPR(クリスパー)」を応用することで、新型コロナウイルスと闘う研究のための実験を始める。
新型コロナウイルス「SARS-CoV-2」を発見・破壊するためにつくられたCRISPRシステムを溶液に投入。溶液には、研究室で合成され、不活性化されたウイルスの断片が入っている。
CRISPRシステムは酵素タンパク質と「ガイドRNA」と呼ばれるらせん構造からなる。
RNAは「Cas-13d」という酵素に対して、コロナウイルスのゲノムの特定の場所にくっついてその場所を切りとるよう指令を出す「ハサミ」
このCRISPRが、溶液中のウイルス量を90パーセントも減少させたという結果。
「このPAC-MANアプローチは、これから出現する流行株に対処するための、短期間で実装可能かつあらゆるコロナウイルスに効く戦略になる可能性がある」
論文はまだ動物やヒトで実験できる段階の現実的な治療法というよりは、計画書の段階。
米国防高等研究計画局(DARPA)は2018年、「Prepare」という4カ年プログラムを開始「将来はヒトにも使えるような新しい医学的対策を生み出すこと」
コロナウイルスには30,000ものヌクレオチドがあるが、CRISPRを適用したガイドRNAはヌクレオチド22個分の領域しか狙えない
「最初の効果は、ヒトの細胞内にあるウイルスのゲノムの濃度を下げることです」「ふたつめの効果は、ウイルスたんぱくの生成を阻害することです」
「コロナウイルスの断片を使った実験から、このウイルスにはターゲットとして干渉できる部位があることがわかりました」と、アボットは言う。
RNAをウイルスに導入する理想的な方法は、まだ見つかっていない。
米国では食品医薬品局(FDA)が承認したCRISPRを使った病気治療の臨床実験は3件しか実施されていない。これまでCRISPRによる害があるとわかった例はひとつもないが、研究者たちは慎重である。過去には重篤な状態になるほどのひどい炎症が起きた実験例がある。
ウイルスに対するCRISPR予防法は動物とヒト両方でテストする必要があり、そのあとにFDAの厳しい審査を通過する必要もある。
「このまま研究が進めば、将来的にはどんなウイルスとも戦えるシステムが出来上がるかもしれません」と、アボットは言う。「単に一部分を変更するだけで、新型のウイルスから身を守る手段が生まれるわけです」
次のパンデミックが巡ってきたときに現在のワクチンや薬による治療法より、もっと強い武器が用意されているかもしれないと期待させてくれる。
遺伝子操作の恐怖
中国の「遺伝子操作ベビー」に使われた
2018年11月 中国の「遺伝子操作ベビー」の誕生
賀建奎(フー・ジェンクイ)遺伝子操作を施した双子の女児を誕生させた 別の女性の子宮にも遺伝子編集済みの受精卵を着床させた。
グローバルコンセンサスに、CRISPRベビーを誕生させようとするひとりの科学者の暴挙を止める力はなかった。