まさおレポート

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「パリ テキサス」愛と嫉妬は実にやっかいなもの

2008-12-10 | 映画 絵画・写真作品含む

ビム・ベンダース監督の出世作「パリ テキサス」を観る。

1.ジェーン役のナスターシャ・キンスキーしか知っている役者はいない。主人公のトラビス、弟、弟の妻アン、トラビスの息子ハンターそれぞれ渋い役者で固めている。もっとも息子ハンター役は渋いというのは不適切で、感性豊かで知的な子供にふさわしい風貌をした金髪の子役だ。芸名も同じハンターという。

2.トラビスがテキサスの砂漠を精神を病んだ状態でどこかに向かっている。どこかのモーテルで氷を口に入れたまま倒れる。しわの深い髭の濃い顔はゴッホの風貌に似ている。監督はゴッホを意識してこの俳優を起用したのではないかと思ってしまう。

3.ゴッホも狂的な愛に囚われた人で、このトラビスも同様に狂的な愛で自らと周囲を破壊していく運命の人だ。この映画で愛と嫉妬は裏表の実は同じものであることを描こうとしている。愛も激しすぎると嫉妬の炎で自らも周りも焼き尽くす。このあたり、幼児を観察していると大変よく分かる。例外なく周りの幼児達はなんの遠慮もなく母親への愛と嫉妬を正直に表現する。もうすこし年齢が進むと分別で嫉妬を抑えるのだろうが、2,3歳では嫉妬は本能そのものだ。

4.人間にあるいはもっとほ乳類にとって大切なかけがえの無い愛情がときには不幸の原因になるのはこの嫉妬が背後に控えている為だと言うことをこの映画は実によく示している。愛と嫉妬は実にやっかいなものなのだ。

5.トラビスは妻ジェーンを愛する余り片時もそばを離れられない。そのため生活費にも困る。妻は子供を抱えて苦情を言う。トラビスは働きに出るが勤務時間帯さえ妻への嫉妬妄想に悩む。他の男と一緒にいるのではないかとの妄想がひどく、その妄想から逃れるために「たちの悪い」酒におぼれる。

6.トラビスは自ら嫉妬妄想に狂うが、ジェーンにも自分への嫉妬を要求する。しかしジェーンは嫉妬するよりもむしろ冷めていく。その結果は親子三人の別離へと進むことになる。トラビスは嫉妬のために頭が溶解して記憶喪失状態になる。ジェーンは息子ハンターをトラビスの弟に預けてのぞき部屋で働き、仕送りをするはめになる。

7.トラビスは4年後に再会した息子ハンターとジェーンを探す旅に出る。いかがわしいのぞき部屋ではたらくジェーンにトラビスはマジックミラー越しに会う。ここでも嫉妬妄想の片鱗を見せる。ジェーンがここで体を売っているのではないかと探りを入れる。このシーンでトラビスは少しも嫉妬妄想癖が治っていないことを示す。骨がらみの嫉妬妄想だ。同時に、トラビスは自らの嫉妬妄想が有る限り、家族と一緒に住めないことを悟るのではないか。

8.息子ハンターとジェーンをヒューストンのメリディアンホテル1520号室で引き合わせて自らは去っていく。この二人の出会いは美しく切ない。愛と嫉妬を描いた傑作に違いない。


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