<行政訴訟の一部を取り下げ>
2004年12月06日にはソフトバンクは総務省に対する行政訴訟の一部を取り下げることを決定した。都内のホテルで開催した記者説明会では800メガが申請できることを裁判で確認したことが一部取り下げの理由となっている。全面的取り下げと誤解された向きもあったが一部であり本質の部分は取り下げていない。はっきり言えば事実誤認の訴え部分を取り下げたわけである。
<ボーダホンの買収>
その後、ソフトバンクはボーダホンの買収により800メガ獲得への意欲は薄れたかに見えたが、昨年に総務省が開催した新接続ルール研究会では再び800メガへの意欲と2ギガでの携帯事業経営のハンディキャップを強調している。
<ソフトバンクBBの再編案は否定される>
結果的には下記の経緯詳細に述べるようにソフトバンクBBの再編案は、既存システムの制御チャネルを廃止するなどの問題点が多く、この方法では既存サービスの利用者に著しい支障が出るとともに、2012年7月までの周波数再編が完了できなくなる恐れがある、と指摘し否定されている。
既存システムの制御チャネルを廃止することの問題点が指摘されているが第一に挙げられるのは電波行政に対する携帯事業チームの感度の悪さである。総務省で大きな流れが形成されていることに全く無頓着で意見締め切りの3日前に突然事態のただならぬことを知ったわけで、時期を逸せずに総務省に働きかけを行っていればこうした事態はあるいはもう少し良い方向で着地できたと考える。2003年の時点では技術的問題にのみ関心が偏っており、電波行政についてはプロフエッショナルな人材を抱えておらず、ほとんど関心を向けていなかったことによる。
次にソフトバンクの再編成案の技術的詰めの甘さが指摘できる。既存システムの制御チャネルを廃止するなどの問題点が指摘されるなど、格好の敵失を総務省に贈ったことになる。否定の明確な理由がほしい総務省はこの点を敵失として見逃さないはずはなく、案の上否定の理由にされてしまった。これは後に光ファイバー計画に関してソフトバンク案が内容の不備を指摘され却下されたと同じ失敗に見える。電波行政と複眼的に見る技術的詰めの甘さによる。今後同様の状況に置かれた場合は案提出の最後の最後で反対意見を冷静真摯に聞くという「一呼吸置く」ことが必要だろう。そうでないと回復のための過大なエネルギーがかかりすぎる。
<800MHz帯から1.7GHz帯へ当面の戦術変更>
2005年2月8日には大方の予想通り「800MHz帯はソフトバンクに割り当てず」とする発表が総務省からなされた。その後、1.7GHz帯全国バンドなど3帯域の割り当て方針案として情報通信審議会が、技術的条件を2005年5月30日に答申している。
総務省は、1844.9MHzを超え1859.9MHz以下の1.7GHz帯全国バンド、1859.9MHzを超え1879.9MHz以下の1.7GHz帯東名阪バンド、2010MHzを超え2025MHz以下の2GHz帯TDDバンドの3帯域の割り当て方針案を決め、それについての意見募集を開始した。
①1.7GHz帯全国バンドは、15MHz幅が用意され、これを2社に5MHz幅ずつ割り当てる。さらに1MHzあたりの利用者数が50万人を超えた場合、追加で残りの5MHz幅が割り当てられる。
②申請できるのは、基地局開設計画の適切性や混信への対策など、いくつかの審査要件をクリアし、少なくとも1つの基地局を2年以内に稼働、5年以内に総務省の総合通信局管轄区域ごとに、カバー率が5割を超えることが必要とされている。
③新規・既存事業者を問わずに、周波数の逼迫に応じて追加割り当てを行うためのものだ。割り当てられた周波数が15MHz以下の場合は、1MHzあたりの利用者数が50万以上、25MHz以下の場合は75万以上、25MHz以上割り当てられている場合は、100万以上の基準に達していれば申請できる。
④2GHz帯TDDバンドについては、用意された15MHz幅の周波数を、新規参入希望の1社にすべて割り当てる。審査基準は1.7GHz帯全国バンドの要件と同様で、1.7GHz帯全国バンドの申請者は申請できない。
<周波数割り当て政策の矛盾>
この方針により、新規参入を希望する最大3社が、携帯電話事業に新規参入できることになる。イー・アクセスとソフトバンクBBが、それぞれ1.7GHz帯を使った携帯電話事業への参入を表明、通信ベンチャーのアイピーモバイルが、2GHz帯での参入を目指していたが経営上の問題でギブアップし、ウィルコムが獲得。しかし後にこのウィルコムも後に経営破綻し、結果的にこの2社分の周波数はソフトバンクへ流れることになる。行政による周波数配分とはなにか、なぜオークションを国庫のためにも実施しないのかと考えさせられる出来事である。
孫正義氏はすくなくともこの当時はオークション賛成派であったはずで、グローバルスタンダードな行政を訴えるために米国から呼び寄せた高名な弁護士たちもセミナーで海外のオークションシステムを喧伝していた。孫正義氏が2011年暮にオークション論議が巻き起こったときにいち早くオークション反対を表明したことには少なからず違和感を覚えた。孫正義氏はNTTドコモとKDDIとは一線を画し、あくまでグローバルスタンダードであるオークションの推進を唱えて、「損しても正義」のポリシーを貫くべきであった。これからのオークション議論にはぜひ「正義」を貫いてほしい。
<オーナー経営者はチキンゲームに強い>
大抵のあるいはすべてのと言ってもよいかもしれないがオーナーでない経営者は政府を相手にいざこざを起こすことに相当躊躇する。しかし孫正義氏はオーナー社長であり、遠慮する人は誰もいないし、自ら即断できる。しかも日本人国籍を取得する際も政府を相手に戦った経験を持つので一層この種の問題に対して燃える体質である。そのためこの種のチキンゲームに滅法強い。他の経営者なら世間を騒がせたと言うだけである種の顰蹙も買うし、それを株主や先輩経営者から失点とも批判されかねない。
一方の相手である政府役人といえども例外ではない。むしろ官僚は一層世間の評判や政治家に対する気を使う。どちらが正しいか灰色に見える場合では、もちろん大義がある場合(たいていの場合、どちらにもある種の大義は存在する)に限るが、気を使わなければならない相手がいる方がこうしたゲームには断然不利になる。天下りなどの弱みがある場合はなおさらである。
{ストリートファイトの極意}
ソフトバンクがある時企業向け電話サービスの料金割引競争でKDDIとチキンゲームの様相を呈したことがある。そうした状況下で「気が狂っていると思わせた方が勝ちだ」と発言した事を記憶しているが、一見過激な発言もこうしたチキンゲームに勝つ心構えを述べているものと理解している。チキンゲームを制するには度胸と実力と即決力が必要だが、さらに相手が何をしでかすかかわからないという想定不可能な不気味さ、つまり気が狂ったふりが必要だと考えているのだ。これはストリートファイトの極意だとも言われている。
{スティーブジョブズとの交渉}
iPADの独占販売権を獲得したのはチキンゲームではないが、度胸と実力と即決力に加えてたとえば相手の言い値をそのままその場で即決するといったオーナーならではの交渉の結果ではないかと勝手な推測をしている。スティーブ・ジョブズとの販売権交渉では恐らくNTTドコモ、KDDIをはじめ複数の大手企業がアプローチしていないはずはない。しかし他社が「本社に持ち帰って社長に相談します」と言っている間に孫正義氏は次々と決断をしてしまったのではないかと推測している。例えNTTドコモ社長やKDDI社長がスティーブ・ジョブズに直接交渉したとしても経営に大きな影響を持つ価格や条件交渉ではドコモではNTT本社筋、KDDIでは稲盛氏などが控えているので即断は難しかろうと思う。
{長所と弱点}
今後のソフトバンクの電力事業参入もそうだがグローバルな競争の中で優秀な経営者によるオーナー経営は圧倒的な強さを発揮し続けるのではないか。しかし民主主義が効率と言う点では独裁に劣るが長い歴史では最良であると言われているように、長期間にわたり効率的であり続けることは難しい。この最大の難問を解くカギは孫正義氏にもいまだに見つかっていないのではないかとも思う。
<参考1>
http://journal.mycom.co.jp/news/2005/02/08/012.htmlを参考に800Mhz割り当て方針の発表要旨をまとてみると。
①総務省は、800MHz帯は既存事業者に割り当て、新規事業者には別の周波数帯を割り当てる。
②総務省は、2004年には意見募集を実施するとともに、「携帯電話用周波数の利用拡大に関する検討会」を実施。検討会は一定の結論は出さず、反対論も含めた両論併記の形で2005年2月3日に終了。
③既存事業者に対し割り当てられるのは、NTTドコモに830~845MHz/875~890MHz、KDDIに815~830MHz/860~875MHzの、それぞれ15MHz×2(上り下り)となる。再編により、現在900MHzにまでまたがっている既存事業者の周波数帯を800MHz帯に集約し、隣接するバンドの干渉を避けるガードバンドを設置すること、などを定めた。2011年7月24日以降には、現在アナログTV放送で使用している700MHz帯と、それと対になっての利用が想定されている900MHz帯を携帯電話向けに確保する考え。
④検討会などで提出されたソフトバンクBBの再編案は、既存システムの制御チャネルを廃止するなどの問題点が多く、この方法では既存サービスの利用者に著しい支障が出るとともに、2012年7月までの周波数再編が完了できなくなる恐れがある、と指摘し否定。1.7GHz帯、2GHz帯などを新たに携帯電話用として使用可能にするよう準備をしており、新規事業者についてはこちらの周波数帯を割り当てていく。
⑤意見募集には32,851件の意見が寄せられ、そのうちの個人などからの意見は32,843件で、反対意見が32,151件だった。ソフトバンクBBと日本テレコム(ソフトバンクテレコム)が、自社サービス利用者に対して意見提出を呼びかけるメールを送ったあとに寄せられたもので、意見提出を求めるために利用者のメールアドレスを利用したことについて、個人情報の「収集・利用目的の特定」を求めた「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」に違反しているとして、総務省は両社に対して行政指導を行っている。
⑥1.7GHz帯の全国バンドを、最大2社の新規参入希望者に割り当てる方針を決めた。同帯域では15MHz幅が割り当て可能だが、当初は5MHz幅ずつ割り当て、利用者数の増加に応じて残りを割り当てていく方針だ。同時に、2GHz帯の周波数についても、1社に割り当てる。