モロッコ紀行を編集していたら携帯電話の元祖を発見した。
ガラスケースの中に展示された1910年製の手動電話機は、その古びた革ケースと金属部品が時の重みを感じさせる。小型で持ち運び可能な形状は、野戦通信や遠隔地での連絡手段として使用されていたのだろう。もし軍事用途で使われていたとすれば、まさに「携帯電話」の元祖ともいえる存在だ。
1910年当時、モロッコにとって電話は近代化の象徴であった。しかし同時に、それはフランスやその他の列強が行政や軍事を支配するためのインフラでもあった。展示されている1910年の手動電話機は、その背景に列強とモロッコの緊張関係を物語る貴重な証人といえる。
革ベルトの留め具やねじれたコードには、幾度もの使用を経た傷や擦れが刻まれており、当時の人々の生活や戦地での通信手段を想像させる。第一次世界大戦が勃発する数年前の時代背景を考えると、この手動電話機は軍用あるいは工事現場など、最前線で活躍した可能性が高い。
標示にはフランス語とアラビア語で「試験用手動電話」と記されており、当時の技術力がいかに進んでいたかを物語っている。革の質感、金属部品の輝き、手作業の温もりが感じられるこの一台は、通信の進化の歴史を現代に伝える貴重な遺産である。
100年後の現代ではスマートフォンが当たり前となっているが、このような機器があったからこそ、今の通信技術が築かれたのだと改めて気づかされる展示品である。