えくぼ

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凶器にもなる電話

2013-12-01 14:30:10 | 歌う

         「凶器にもなる電話」

☁ 鳴っている電話の受話器を取りかねる凶器に変わることだってある (松井多絵子)

 今年の9月、台東区の女性(88)に電話があり、若い男の声で「会社の小切手が入ったカバンを電車に忘れちゃって」と言う。近くに住む会社員の孫(27)の名を呼ぶと「そうだよ。オレ」と応えた。切迫した声。女性は「1200万円位はあるよ」と言ってしまった。すぐに「孫の同僚」と名乗る男がやってきた。茶封筒に入れたお金を玄関先で渡すと姿を消した。この1200万円は知的障害のある長女(60)の将来を案じて貯めていた大切なお金。この電話はまさに凶器だ。

 だまされた女性はオレオレ詐欺には気をつけていたそうである。だます人間は計画的にぬかりなく事を運ぶ。がだまされる方は不意打ちだ。無防備である。電話は顔が見えない。声も肉声とは少し違う。孫といわれれば孫におもえて相手のペースに巻かれてしまうのだ。

 NHK『短歌』11月号に「塔」の選者の花山多佳子さんが電話について書いていられる。

~ケータイがあるのは便利ですが、便利すぎて失われたものが多いような気がします。相手を思っている時間も短くなってきたかもしれません。

 ✿ 赤電話におどおどとせる言い訳は都電の音をまじへとどきゐむ  上田 三四二

 これは昭和37年作。「赤電話」に「都電の音」、今はどちらもなくなり、なつかしいかぎりです

 ✿ 振り返り見れば夜道にわがむすめ携帯電話に凭りかかるやう  花山 多佳子

 家族と夜歩いているときに携帯電話でしゃべって遅れがちな娘。しゃべっているのを見ると、身体を傾けて、この小さな物体に全身で凭れているよう。夜道の娘が何か儚く見えました。※ これれは十代の頃。今や花山周子さんは新進の歌人です。   12月1日  松井多絵子