昨日ヤフオクで落札した印材が届きました。3000円の4㎝弱の角印であります。上部が灰色がかっているのは、経年相当の汚れが染みついているとみてよさそうです。
ヤフオクで高値が付く、本当に価値がある田黄や鶏血石などの美しい希少石は、ごく一部の例外はあっても、ほとんどが100gに満たない小石であります。とりわけ田黄などは、同じ重量の金の価格と同じ値段と言われるくらい珍重されるのです。こんな大きい石は、だいたいがよくある石で相対的には価値が低いのです。
また、実際に篆刻する印は2㎝角程度が基本で、5cmを超えるような大きな石は、昔の官印・蔵書印くらいしか使い道が無いのです。ですから、古えから賞玩され、驚くような高い値段で売買される超高級石印材は、小さめの方が高い、というのが常識であります。もとが小さいから高い、数が少ないから欲しがられるという原理であります。もし、トラックに乗せて運ぶような巨岩であったら有難みは薄れますね。
今回の石はおそらく寿山石ですが、さほど高価な銘石でもなく、側面に施されている飾り彫は、とがったものでひっかいたような線描。印面は未刻でもあり、大して価値のあるものではありません。気に入った理由は、頭頂部にある控えめな紐で、短刀に巻物というみかけない珍しい構図でありました。一応「光緒年」の文字が説明書・側款にありましたから、それを信じれば、百数十年前の時代物ということになりますが(笑)。最近は、ちょっといいな、と思ってチェックを入れ中には応札しているものが、最終的には数万円から10万円越えとなるので、ワタシが入手できる価格帯には入りません。
結局は、①石そのものがどこにでもある駄石 ②紐や薄意という飾りの彫刻は、ドリル彫りとか素人がざっと作ったようなちゃちなもの ③せいぜいここ10年以内で産出される石・印材 ④篆刻の練習で彫った程度の印 といったレベルしか落札できません。まぁ千円~5千円程度の代物ですから文句も言えないのであります。
その前に落札したのがこれ。
6cm角で644gもある灰色半透明の石、牛角凍と見ました。さすがに、こちら
は逆に大きい分だけ重量加算されていて、6千円の落札となりました。上部に龍の紐があるだけで、一切の作款や文字が刻まれておりません。時代も新しいと見えます。灰色の凍石ならば「牛角凍」が最も代表的で、産出量が多い、中にはとても品格がある純粋な石質もある、彫りやすく壊れにくいといった長所があるのです。ワタシの文献や銘石の紹介にも牛角凍の逸品が必ず出てきます。
灰色の石で分類されるのはその牛角凍以外には、魚脳凍・凍油凍・仙草凍・老蛇湖などの寿山系、青田石の一種「松皮凍・夾板凍」があります。魚脳凍や仙草凍・天藍凍などは「水坑」で採れる石で、もともと産が少なく牛角凍より、はるかに高価で滅多にないものだそうです。最近入手した寿山石見本では灰色系の石は以下の通り、でありました。
ワタシの想像ですが、この大きな石は、印箱の傷み具合からみて20~30年くらい前に、福建省の石印材直販所で売られていたものではなかろうかと思います。少なくとも北京や上海の専門店で売るならば、説明文の刷り物で、由来(石の種類・作者・産地など)を明示し、箱もそれらしく設えるでしょう。買った人は、使い道もないまま未刻で保管していた、と思います。
あくまで参考(あてには出来ない)ながら、印面には「(品番) 5.9×5.9㎝、2200.-」とボールペン書きのラベルが貼られていました。これは普通は「正札」で最後の数字が販売価格と見るべきでしょう。中国から仕入れて日本で売られていたならば、少なくともどこかに日本語で商品名を書く、金額は¥を頭につけるか円を表示する、3桁ごとに「,」で区切りますね。
だとすれば2200は中国元(CNY)と見るべきで、換算レートが1元20円として44,000円という「定価」であったかもしれません。これを日本人観光客などのカモを見つけては「半額にしましょう」なんて言って、売りつけたのではないかと思うのです。なんせ、もとは山坑から切り出した巨石の角材、これを彫っただけ(つまり技術料+かかった時間にたいする人件費)とすれば、値段はいかようにもなるのです。
値段はともかく、石の様子はなかなかの逸品、細工も見事なのです。石は灰白色と薄い緑色が流れる半透明の灰色、上部の龍の上半身に「わずかな薄墨色と朱色の斑紋が混じっていて顔だけが白色(石英質か)と計算された彫刻でありました。こうした紐はだいたいドリルなどで機械を使って彫っていくものですが、それを感じさせない手彫り感がこだわりを思わせるのです。恐らく全く無名の石工さん、それはこの石を製造販売していたお店の身内でしょうね。
ついでに、ワタシが所蔵する灰色系の大型印はこれであります。
上二つは「牛角凍」でしょう。しかし下のものは、赤色が強く緑灰色の凍石で、細かな暗赤色の斑点が散っております。これは牛角凍ではなく、相当な値打ちものの石だと踏んでいるのですが、いまだその石の種類は特定できておりません。