本日は近所の神社で戎祭りでありました。ワタシも地元の祭礼の評議員なのですが、祭り自体を好いているわけでは無く、倅たちが評議員なのに当地に居住していない為、やむなくワタシが代理を務めているだけなのです。当然えびすさんには悪いけれど欠席いたしました。この手の集まりはお酒が入り、餅まき等で密になるのが嫌なのです。
そうして、待ちに待った「湘南平塚寄席」の開催日でもありました。今まで落語家さんの噺は2.3回個人的な席で聴いたことがありましたが、数人参加する本格的な寄席は初体験でした。二月ほど前に偶然公民館に置かれていたチラシで催されることを知って、なんとかチケットを手に入れました。春風亭小朝・三遊亭円楽・立川ぜん馬各師匠と、有名どころが揃っておりました。
その時に思いついた計画が、篆刻印を彫って差し上げよう、というある意味突飛なアイデアでした。見ず知らずの噺家さん、しかも名人と言われるような人ばかりなのに、篆刻印を彫ってどうするの?という疑問は置いといて、単純に篆刻の技術を磨きたい、という意図であります。
お三方が喜ぶか、受け取るかははなはだ疑問でありますし、そもそも会場で誰かに渡せるかどうかもわかりません。月並みな言い方では「当たって砕けろ」でありますね。印材は腐るほどあるので、数千円以上するような印材、しかも色合いが師匠方にぴったりのを選びました。彫ってみてまぁまぁなら、あとは箱と手提げだけの出費なのでどうということもありません。ひと月ほどかけて暇なときに彫りました。
これを昨日と今朝修正し仕上げて、その印影をワタシの印を捺したものと一緒にして出来上がりです。
会場には早めに付き、そこらの誘導案内の女性(平塚市の職員)に伝えると、案の定「コロナで差し入れは受け取り出来ない。預かれません」と仰います。ワタシも想定済みなので、これは差し入れでは無く篆刻印のプレゼントだと説明し、別の偉そうな女性が出てきました。お菓子程度のものなら断って済むとはいえ、上等な麻の布箱に収納し、東急ハンズで買った高めの手提げ袋に入れておいたので、ちょっと「値段の張るもの」らしいと思ったのでしょう、大柄な「代理店」かプロモーターさんの関係者らしき人物に取り次いでくれました。
その人は、プレゼントには手馴れているらしく「お知り合いの方ですね」と言いながら受け取りました。お役人の手前、そういうことにしたかったのでしょう。そこから先は存じません。ゴミ箱にポイか持ち帰ってどこかに置いたままになるか。ワタシにとっては自分の計画が成就したのに満足し、安心して落語を聞くことが出来ました。
さて、「三遊亭楽太」という前座の後、小朝さんが登場。さすが落語界でも一時は最も人気があった名人です。立て板に水、飽きさせず「出まかせみたいな、源義経と那須与一の噺を面白おかしく語ってくれました。最近はテレビでもあまり見かけないのですが、いろいろ事情があるんでしょう。去年のお正月の定例公演はコロナのせいで、延べ数十人しかお客さんが入らず、会場使用料を半分取られ、数百人のスタッフや落語家で分けたら数百円だった、といホントか嘘かわからない話で笑わせました。
次がぜん馬さん、大病を乗り越え不死身のごとく蘇っている方らしいです。声がかすれ気味なのはそのせいかもしれませんが、テレビの寄席チャンネルで何度も見ていますのでその声は知っております。そうしたら落ち着き払って始めた演目は「ねずみ」、どうやらぜん馬さん、この噺がお好きみたいです。没落した旅館ねずみやに逗留した左甚五郎さんが彫ったねずみが評判になり、お向かいの「とらや」(ねずみやの主人が乗っ取られた旅館)からお客が離れた、これをまずいとおもったとらやが、「虎」の木彫りを置いたら甚五郎さんのネズミが動かなくなった。甚五郎さんが鼠に問うと、下手な木彫りで虎を大きな猫に間違えたというオチになります。師匠は寅年にちなんでこの噺をしたのかもしれません。
トリを持ったのが円楽さんでした。ぜん馬さん同様ガンを何度も繰り返し現在も闘病中なんです。お二人でやっていないガンは「子宮がんと乳がん」とか言ってましたが、もはやこれは、「マクラ」での決まり文句のようであります。お題は、先代円楽さんも好んだ「藪入り」。古典落語で、人情噺といっていいでしょう。奉公に出した息子が帰ってくるのに、貧乏暮らしの父親はまんじりとも出来ず、帰ってきた息子をまともに見ることも出来ない。やっと銭湯にいかせた時、母親が息子の財布を覗き見ると15円という大金が入っていたのでてっきり「店の金に手を出した」と勘違いします。
実は、息子さんがネズミ捕りをしてお小遣い稼ぎをしていたが、その時に貰った紙で懸賞金が当たったのでした。
腹黒いで名の通った円楽さんですが、病気仲間のぜん馬さんをリスペクトして鼠繋がりの演目にしたのか、あるいはぜん馬さんの競輪好きを知って「当たりくじ」を出したのかもしれません。実はとても優しい人なのでしょう。
いずれにせよ、非日常的な空間で余計なことを一切忘れて一流の噺家さんの話芸を堪能し、まことに心豊かな時間を過ごすことが出来ました。「また見に行こう」が家内との意見と一致しました。
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