先日、印泥の再生・メンテナンスについてのブログを載せました。正直、印泥にこだわったり、印泥そのものを使う人が世の中にどれだけいるかと考えると、印泥の蘊蓄などなんの役にも立たないのであります。毎日憑かれたように篆刻にはまっているワタシですら、印泥はまず使いません。頻繁に出来具合を試して押印しながら印を彫るので、その都度印泥を用いるのは面倒ですし、高い印泥が減るのも困るからです。
市販されているシャチハタの朱肉スタンプ、これが一番。黒く丸いプラスチック容器で、表面に布が張られていて銀行の窓口に置いているやつです。奇麗に均等に印影が確認できます。
書道家さんはユーザーではありますが、そうそうは落款印など捺しません。年に何回か出品したり揮毫したりするのに捺すのですから、頻度はせいぜい数十回、だとすると印泥が一つあれば10年以上もちます。篆刻家さんはその点、毎日何十回となく押印するのですが、やはりいちいち印泥は使わないだろうと思います。印面をふき取るのも手間がかかります。こうした人たちは、(練り)印肉を使っているようです。昭和の時代はこれが一般的でした。丸い容器に朱色の顔料と艾・ひまし油などで作られていて、質の悪いのは印に植物繊維がくっついてきました。押した後は判の形がそのまま残り、年数がたつと固まって使えなくなりました。
印泥と朱肉の中間に位置するのが「朱泥」「印朱」などと呼ばれるものです。作品の落款用に作られているので、質が変わらず、メンテナンスしやすく、そんなに高くないものです。ワタシ達レベルではこれで十分、篆刻家さんたちの所有物と思しきヤフオクの出品物の印泥の中に、度々この手の印肉・朱泥が紛れているのがその証拠です。原料や外観で印泥と印肉、朱肉で違いがあるのですがすでに何度か触れておりますから今日は割愛いたします。
印肉の中で書画の落款印として開発販売されるのは国産では「寧楽印朱」(画面中央)が、中国では「金石印寶」(画面左)が有名です。右のものは銘柄不明ですが10両装で24千円ほどの印肉、やや赤色が強いものですが練習用は勿論、作品にも十分通用します。これだけでおそらく死ぬまで使いきれないでしょう。
というわけで、ブログでもオークションでも、なにも印泥などにこだわる必要は無いのですが、そこは「蒐集家」、その道に詳しい印泥研究の端くれとしてワタシはあくまで印泥集めを怠らず、その良し悪しを究めたいと思うのです。
昨夜は目をつけていた印泥6点の入札期限でした。中に、年代物の漳州八宝印泥 「貢品」、大観印泥「箭鏃 (せんぞく)」、高式熊(こうしきう)印泥「珍品」が含まれていたのでなんとしても欲しいと思いました。いずれも数十年前の製造でかなり使いこんでいるのですが、印泥だけは古い方が良質である確率が高いのです。高式熊の珍品(最上級)などはヤフオクでも滅多に拝めません。量は少なく表面に埃か黴が出ていましたが、本当に大珍品なのです。ざっとみてその3個だけでも、3万円以上の価値があると見ました。
12千円の上限で入札して、例によって落札期限まで起きてられずに就寝したところ、12,500円で他人様に落札されていました。しまった、と思っても遅かりしです。では13千円にしていたら落札出来たと考えるのは浅はかです。欲しい人は更に値を上げて入札してくるので一騎打ちでどんどん吊り上がるというのを何度も見てきました。縁が無かったと諦めるのが肝要であります。そんなこともあろうかと、別の出品印泥「蘇州姜序堂八宝印泥」(未使用おそらく2両装)を3千円で落札していたのであります。一般的な姜序堂朱磦印泥でも1万円以上致しますから、売値はその倍以上の値段、なかなかお買い得なのです。
ワタシの所有する印泥の中で、良質で「つきがいい」印泥は、高式熊李耘萍(リウンピョウ)印泥 、章州八宝印泥 「貢品」・缶盧(うろ)印泥と、この蘇州姜序堂です。プロの方が高く評価する姜序堂の中で最も高級な八宝印泥が入手できたので良しといたしましょう。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます