『よ。今メイサは電話できる?』
咲人からのメッセージに、私はつれなく返信した。
『彼女忙しいんじゃない』
『ふーん?じゃぁ誰が返信してるの?』
『さぁね』
『今かけるよ』
ピピピピピピ
すぐに通話ボタンを押したけど、何も言う気になれなかった。
短い沈黙の後、咲人は、よ、とつぶやいた。
「…で?電話に出てるのはメイサなの?それとも違う誰か?」
私は咲人に聞こえるかないかの ため息をついて、多分メイサじゃない?と答えた。
「そう?でも君の声から察するに、違いそうだけど」
「じゃ、違うんじゃない」
そうか、と言って咲人も黙った。
ぎこちない。
ていうか、私がもう何も特に話したいと思ってないからいけないんだろうな。
仲良くしようって気がない。
私は、今度はしっかりとため息をついた。
「で?何について話すの?」
しょうがなくそう訊ねると、君が決めろよと言われた。
あなたが電話することを提案したんだからあなたが決めれば、と返すと、
確かに、と咲人は唸った。
「あぁ、俺君に報告することがあるよ」
「何?」
「メイドに連絡とったんだ。でもまだ彼女から返信がない。
だから彼女の仲間に連絡したら、彼女は今ホリデイだって言われたよ」
「あらそ。」
「で、今は君の国にいるらしい」
すごい偶然だよな、とちょっと笑ったが、私はそうですね、とだけ答えた。
「あれは大事な人がくれたものなのよ」
「そう言ってたな」
「だから失くせないのよ」
「失くさないよ。見つかる、必ず」
「そう願うけど」
「100%、誓う」
絶対に君の家かあの部屋にあるはずだろ、路上や飛行機でなくすようなものじゃないだろ、と強く言われた。
たしかにまぁ、そうかも。。。
わかんないけど。
なくし物の話題が終わると、また静寂が流れた。
はぁ、と、今度は咲人がため息をついた。
なによ、と無気力に問った。
「俺、君に聞きたいことが、たくさんあったんだ」
「………。」
「でも…今一つも出て来ない」
いつもの偉そうな、トゲのある声じゃなかった。
攻撃力はゼロだ。
偏屈な彼は今、心の柔らかいところを見せている、小さい男の子みたいだった。
「なんでか理由はわかるの?」
「理由はたくさんあるだろう」
「そんな事ないと思うけど?」
「じゃぁ何だよ」
私はンッと脚を伸ばした。
床の上でストレッチをしている。
「あなたってすごく悪い癖を持ってるわね。問題解決に関して」
「………。」
「私はいつも凄くいい方法で解決するわ。
すごくたくさんの理由?ないわよ、少しならあるかもしれないけどね」
「じゃぁなんだよ。教えろよ」
「想像してみて」
今度は反対の脚を伸ばし始めた。
つま先を見つめ、私は続けた。
「今目の前にたくさんのモンスターがいるの。一番強いボスが1匹と、あとはその手下がうじゃうじゃ。
奴らを倒すために、その手下全部と戦うのは非効率じゃない?」
「そうだな」
「私達がやるべきなのは、その一番でかい奴を倒すこと。それが一番効率的だと思わない?」
「賛成」
「何かあった時は、一番大きい理由や問題にフォーカスするのよ。それが私の方法」
偏屈さんも納得したようで、君が正しい、とハッキリと言った。
「じゃ、考えてみて。どうしてそんなに質問があったはずなのに1つも浮かんでこないのか」
「うーん」
「一番大きい理由は見つけられるはずよ。すぐに」
咲人は少し脳内を探検した後、採点を望むように言った。
「もはや質問することに全然興味がないから?」
今一つ、ていうか今二つ。
「どうしてもう興味がないの?」
「うーん……今話してるから?」
「(バカだな)」
「何?知ってるなら教えてくれよ」
「知ってるわよ」
体を起こした。
「何で質問することにもう興味がないか。それは、あなたがもう満足しているからよ。
私と話せているから。それから、私の声を聞いているから…」
咲人は黙っていた。
「あなたは本当に私が大好きなのよ。違う?」
咲人は
そうだと思う、と答えた。
それから私は、これからどんな風に咲人に接するつもりなのか説明した。
咲人は湧き上がる疑問をその都度問いかけ、そのたびに私は丁寧に言葉を選んで説明した。
だいぶ上手くなったとはいえ、英語で説明するのはまだしんどい。
それでも今は頑張るべきだと思った。
彼との関係を良好に保つことは、私のエンタテイメントのために必要だった。
飛行機に乗らなければ会えないような彼を失わないようにケアするなんて、
ナンセンスだと思いますか?
それでも彼がくれた一時の居場所は、とても居心地が良かったし、
そういう人に出会うのはとても難しいということをよく知っている。
加えて私は忙しかったから、簡単に会えない人の方が都合がよかったんだと思う。
だから、彼を手中に置いておきたかったけれど、
彼のことを思ってぐちゃぐちゃになるのは、もう嫌だった。
「咲人、私はあなたを信用できないと言っているんじゃないわ。
私は自分をコントロールして、あなたと良好な関係でいたいのよ。
だからあなたの矛盾や問題に備えておきたいの。
私達はこのままじゃ細かすぎるわ」
「つまり君は、衝突を避けたいってこと?」
「しょ…?」
咲人はすぐに、スペルを送るよ、と言った。
自分で調べる方が早かったけど、彼のこういうところが好きなんだと思い出した。
「そうよ。私達はお互いに傷つけ合いやすいわ」
「恐ろしいな」
「でしょう。だからわたしはこれからそうするわ」
「一つ質問がある」
「なに?」
「君はすべての人間の話をそんなに真剣に取るの?」
うーん、と考えを巡らせた。
咲人は、咲人の発言は矛盾が過ぎると責めたのが気になっていた。
もう忘れてしまったけど、咲人はキザで細やかで親切な人なものの、
ちょっと子供っぽいというか、自己中心的というか、
現実的な見解なしに発言してしまうところがあった。
考えたものの、なかなか答えが出そうになかったので、思うままに答えた。
もう本当に脳みそ使いすぎなんだってば。
「人とシチュエーションによるわ」
「どんな」
「あなたに興味があるから、あんなにあなたの一言一言に固執したのよ」
「……。」
「あなたが好きだからよ」
咲人は間髪入れずに訊ねた。
「じゃぁもう俺に興味がないから、俺の話を話半分に聞くのか?」
「違うわよ」
「じゃぁ何だよ」
「あなたとの関係を良好にすることにフォーカスし始めたの。あなたが好きだからよ」
咲人は完全に混乱していた。
そう、咲人は知的なんだけど、そこまで頭が良いタイプでもなかったんだよなぁ。。。
「一つ目の好きと二つ目の好きは何が違うの?」
「さしてかわらないけど…。一つ目はもっと感情的な感じ。
二つ目はもっと、なんて言うのかしら、頭を使ってるっていうか…えっと…」
クソ、単語が出て来ない。
「分別がある?とか?」
「いやわかった。理性的、だろう」
「そう、それよ。その英単語知らなかったわ」
「じゃぁわかった。パーセンテージで教えてよ。その2つの違い」
は?数字で!?と問うと、咲人は素直に自分の心臓に言わせてみろよと答えた。
えーーーー超面倒くさい。
咲人って本当に変な人っていうか細かいっていうか…。
そんなもん数字で聞いてどうすんの?
「どっちの数値も変わらないわ。一つ目の時は脳は半分寝ていたけど、二つ目の時は脳が完全に動いてる、ただそれだけよ」
「ふん。オッケーわかった」
ほんまかいな…
今日のところはもう質問はない、と言うので、ふぅ、タフだったわと呟いた。
「君、もう眠いんだろう」
「え、そんなことないわよ。疲れただけよ」
「俺のせいで?」
「いいえ、英語のせいよ」
実際、これだけ気を遣って英語を話すのは久しぶりだった。
私は全然流暢じゃないけれど、ちゃんと友達ができて彼氏として好きになってくれる人がいて、
大抵の日常は問題なくこなせるくらいにはできた。
けれど、大事な会話っていうのは母国語でさえ難しい時がある。
人と人は簡単に誤解できる。
それをこんなリスニングもスピーキングも不安な言語でやらなきゃいけないなんて、酷な話だ。
少なくとも私にとってはしんどかった。
咲人は私の英語力を、彼のそれより下なものの大差ないと言った。
けれどそれは事実じゃない。
英語で話していた時の私は、日本語の時よりもずっとバカに見えただろう。
難しい単語はなかなか使えないし、小さなミステイクは多いし。
それでも会話はコミュニケーションだから、人となりやそれで何とかなってるだけで、
本当はすごく大変だった。
「今でも大変なのよ。多分あなたには想像できないと思うわ。まぁやるしかないんだけど…」
「時間もあるぜ」
「は?」
「君の努力だけじゃなくて、時間もいっしょに解決してくれるだろ。
そしたら君は、もうこれ以上苦しまなくて良くなる」
私は首を傾げた。
「あなた、私を元気付けてるの?」
「トライしてる」
「ありがと」
続きます。
咲人からのメッセージに、私はつれなく返信した。
『彼女忙しいんじゃない』
『ふーん?じゃぁ誰が返信してるの?』
『さぁね』
『今かけるよ』
ピピピピピピ
すぐに通話ボタンを押したけど、何も言う気になれなかった。
短い沈黙の後、咲人は、よ、とつぶやいた。
「…で?電話に出てるのはメイサなの?それとも違う誰か?」
私は咲人に聞こえるかないかの ため息をついて、多分メイサじゃない?と答えた。
「そう?でも君の声から察するに、違いそうだけど」
「じゃ、違うんじゃない」
そうか、と言って咲人も黙った。
ぎこちない。
ていうか、私がもう何も特に話したいと思ってないからいけないんだろうな。
仲良くしようって気がない。
私は、今度はしっかりとため息をついた。
「で?何について話すの?」
しょうがなくそう訊ねると、君が決めろよと言われた。
あなたが電話することを提案したんだからあなたが決めれば、と返すと、
確かに、と咲人は唸った。
「あぁ、俺君に報告することがあるよ」
「何?」
「メイドに連絡とったんだ。でもまだ彼女から返信がない。
だから彼女の仲間に連絡したら、彼女は今ホリデイだって言われたよ」
「あらそ。」
「で、今は君の国にいるらしい」
すごい偶然だよな、とちょっと笑ったが、私はそうですね、とだけ答えた。
「あれは大事な人がくれたものなのよ」
「そう言ってたな」
「だから失くせないのよ」
「失くさないよ。見つかる、必ず」
「そう願うけど」
「100%、誓う」
絶対に君の家かあの部屋にあるはずだろ、路上や飛行機でなくすようなものじゃないだろ、と強く言われた。
たしかにまぁ、そうかも。。。
わかんないけど。
なくし物の話題が終わると、また静寂が流れた。
はぁ、と、今度は咲人がため息をついた。
なによ、と無気力に問った。
「俺、君に聞きたいことが、たくさんあったんだ」
「………。」
「でも…今一つも出て来ない」
いつもの偉そうな、トゲのある声じゃなかった。
攻撃力はゼロだ。
偏屈な彼は今、心の柔らかいところを見せている、小さい男の子みたいだった。
「なんでか理由はわかるの?」
「理由はたくさんあるだろう」
「そんな事ないと思うけど?」
「じゃぁ何だよ」
私はンッと脚を伸ばした。
床の上でストレッチをしている。
「あなたってすごく悪い癖を持ってるわね。問題解決に関して」
「………。」
「私はいつも凄くいい方法で解決するわ。
すごくたくさんの理由?ないわよ、少しならあるかもしれないけどね」
「じゃぁなんだよ。教えろよ」
「想像してみて」
今度は反対の脚を伸ばし始めた。
つま先を見つめ、私は続けた。
「今目の前にたくさんのモンスターがいるの。一番強いボスが1匹と、あとはその手下がうじゃうじゃ。
奴らを倒すために、その手下全部と戦うのは非効率じゃない?」
「そうだな」
「私達がやるべきなのは、その一番でかい奴を倒すこと。それが一番効率的だと思わない?」
「賛成」
「何かあった時は、一番大きい理由や問題にフォーカスするのよ。それが私の方法」
偏屈さんも納得したようで、君が正しい、とハッキリと言った。
「じゃ、考えてみて。どうしてそんなに質問があったはずなのに1つも浮かんでこないのか」
「うーん」
「一番大きい理由は見つけられるはずよ。すぐに」
咲人は少し脳内を探検した後、採点を望むように言った。
「もはや質問することに全然興味がないから?」
今一つ、ていうか今二つ。
「どうしてもう興味がないの?」
「うーん……今話してるから?」
「(バカだな)」
「何?知ってるなら教えてくれよ」
「知ってるわよ」
体を起こした。
「何で質問することにもう興味がないか。それは、あなたがもう満足しているからよ。
私と話せているから。それから、私の声を聞いているから…」
咲人は黙っていた。
「あなたは本当に私が大好きなのよ。違う?」
咲人は
そうだと思う、と答えた。
それから私は、これからどんな風に咲人に接するつもりなのか説明した。
咲人は湧き上がる疑問をその都度問いかけ、そのたびに私は丁寧に言葉を選んで説明した。
だいぶ上手くなったとはいえ、英語で説明するのはまだしんどい。
それでも今は頑張るべきだと思った。
彼との関係を良好に保つことは、私のエンタテイメントのために必要だった。
飛行機に乗らなければ会えないような彼を失わないようにケアするなんて、
ナンセンスだと思いますか?
それでも彼がくれた一時の居場所は、とても居心地が良かったし、
そういう人に出会うのはとても難しいということをよく知っている。
加えて私は忙しかったから、簡単に会えない人の方が都合がよかったんだと思う。
だから、彼を手中に置いておきたかったけれど、
彼のことを思ってぐちゃぐちゃになるのは、もう嫌だった。
「咲人、私はあなたを信用できないと言っているんじゃないわ。
私は自分をコントロールして、あなたと良好な関係でいたいのよ。
だからあなたの矛盾や問題に備えておきたいの。
私達はこのままじゃ細かすぎるわ」
「つまり君は、衝突を避けたいってこと?」
「しょ…?」
咲人はすぐに、スペルを送るよ、と言った。
自分で調べる方が早かったけど、彼のこういうところが好きなんだと思い出した。
「そうよ。私達はお互いに傷つけ合いやすいわ」
「恐ろしいな」
「でしょう。だからわたしはこれからそうするわ」
「一つ質問がある」
「なに?」
「君はすべての人間の話をそんなに真剣に取るの?」
うーん、と考えを巡らせた。
咲人は、咲人の発言は矛盾が過ぎると責めたのが気になっていた。
もう忘れてしまったけど、咲人はキザで細やかで親切な人なものの、
ちょっと子供っぽいというか、自己中心的というか、
現実的な見解なしに発言してしまうところがあった。
考えたものの、なかなか答えが出そうになかったので、思うままに答えた。
もう本当に脳みそ使いすぎなんだってば。
「人とシチュエーションによるわ」
「どんな」
「あなたに興味があるから、あんなにあなたの一言一言に固執したのよ」
「……。」
「あなたが好きだからよ」
咲人は間髪入れずに訊ねた。
「じゃぁもう俺に興味がないから、俺の話を話半分に聞くのか?」
「違うわよ」
「じゃぁ何だよ」
「あなたとの関係を良好にすることにフォーカスし始めたの。あなたが好きだからよ」
咲人は完全に混乱していた。
そう、咲人は知的なんだけど、そこまで頭が良いタイプでもなかったんだよなぁ。。。
「一つ目の好きと二つ目の好きは何が違うの?」
「さしてかわらないけど…。一つ目はもっと感情的な感じ。
二つ目はもっと、なんて言うのかしら、頭を使ってるっていうか…えっと…」
クソ、単語が出て来ない。
「分別がある?とか?」
「いやわかった。理性的、だろう」
「そう、それよ。その英単語知らなかったわ」
「じゃぁわかった。パーセンテージで教えてよ。その2つの違い」
は?数字で!?と問うと、咲人は素直に自分の心臓に言わせてみろよと答えた。
えーーーー超面倒くさい。
咲人って本当に変な人っていうか細かいっていうか…。
そんなもん数字で聞いてどうすんの?
「どっちの数値も変わらないわ。一つ目の時は脳は半分寝ていたけど、二つ目の時は脳が完全に動いてる、ただそれだけよ」
「ふん。オッケーわかった」
ほんまかいな…
今日のところはもう質問はない、と言うので、ふぅ、タフだったわと呟いた。
「君、もう眠いんだろう」
「え、そんなことないわよ。疲れただけよ」
「俺のせいで?」
「いいえ、英語のせいよ」
実際、これだけ気を遣って英語を話すのは久しぶりだった。
私は全然流暢じゃないけれど、ちゃんと友達ができて彼氏として好きになってくれる人がいて、
大抵の日常は問題なくこなせるくらいにはできた。
けれど、大事な会話っていうのは母国語でさえ難しい時がある。
人と人は簡単に誤解できる。
それをこんなリスニングもスピーキングも不安な言語でやらなきゃいけないなんて、酷な話だ。
少なくとも私にとってはしんどかった。
咲人は私の英語力を、彼のそれより下なものの大差ないと言った。
けれどそれは事実じゃない。
英語で話していた時の私は、日本語の時よりもずっとバカに見えただろう。
難しい単語はなかなか使えないし、小さなミステイクは多いし。
それでも会話はコミュニケーションだから、人となりやそれで何とかなってるだけで、
本当はすごく大変だった。
「今でも大変なのよ。多分あなたには想像できないと思うわ。まぁやるしかないんだけど…」
「時間もあるぜ」
「は?」
「君の努力だけじゃなくて、時間もいっしょに解決してくれるだろ。
そしたら君は、もうこれ以上苦しまなくて良くなる」
私は首を傾げた。
「あなた、私を元気付けてるの?」
「トライしてる」
「ありがと」
続きます。
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