メイサと7人の外国人たち

アラサー元お水とキャラの濃い外国人達の冒険記

最後の電話

2019-04-05 20:54:27 | 咲人
私たちの話題は、語学の話になった。



「私はあなたにとても感謝してるわ。母国語じゃないのに、私にたくさん練習させてくれるから…。」

「なんで俺がこんなに君に親切なのか、君は知ってるだろ」

「え?なんで?」

「(笑)」

「わからないわ、教えて。」

「おいおい、分からないふりしてるだけだろ。教えないぞ」

「お願い」

「君が好きだからだよ」




笑みがこぼれた。
咲人は誤魔化すように続けた。



「……と、俺も日本語勉強したいから。これが二つ目の理由」

「一つ目の理由、もう一回言って。」

「やだよ。」

「お願い、教えて。」

「オシエテ?なんて言ったの?」

「let me know って言ったの。」

「オシエテ……(メモしてる)」

「そう。お願い、教えて。」

「何度も言ったのにまだ聞きたいのかよ」

「お伝えしました通り、何度も言われてませんので」




今まで幾度となく咲人に繰り返されたスキの言葉。
でもいつも現実的な話はなかったから、
あの夜と翌朝に、ようやく、初めて、信じられるスキを聞いたと思った。
それを咲人にも伝えていた。


私の主張を理解したのか、それとも言いたかっただけなのか、
咲人はちょっと声を大にして言った。




「す、き、だ、よ!」

「爆笑」

「こういうこと得意じゃないんだ。君みたいにはできないんだよ。」

「(笑)」

「おい、笑うなよ。笑うの止めろよ、今すぐ」

「あはははは!!
はは……一つだけ笑いを止める方法があるけど?」

「嫌だ、聞きたくない」

「もう一回言うと……笑」

「絶対また笑うだろ」

「笑わないわ、約束する」

「出た!メイサの約束!守られないアレだろ!」

「約束するわよ〜信じてよ」

「うそだろ。ちなみに日本語でなんて言うの?」

「約束する、よ」

「ヤクソクスル」

「ね、お願い、言って。笑わないわ、約束する」

「………君が好きだからだよ」






微笑みが



溢れて仕方ないのは




私だけなのかな。






「私も」

「……あ、そ。」



彼のブスっとした顔が想像できる。
咲人は、居心地が悪そうにため息をついた。




「で、日本語の好きと大好きの違いって何なの?」

「まぁ、基本的にはlikeとlike a lot 程度の違いよ」

「ふーん。そうですか」

「ちなみに、I love ice cream だったら、loveだけどアイスクリームが大好き!って翻訳できるわね」

「男が男に言うのはありなの?」




プッ。
相変わらず変な着眼点持ってるな。




いくらか説明してあげたし、上手くできたと思ったけど、
やはり細かすぎる偏屈(な上に思ったより賢くなかった)彼は「あーしんどい」と私を真似た。
私はニヤニヤしながら言った。




「わかるわぁー、母国語じゃない英語で、日本語を学んでるんですものね。
かぁわいそー咲人」

「へ、可哀想なメイサ。母国語じゃない英語で、そんな生徒を教えなきゃいけないなんてな」

「あら、私にとってはそんなに辛くないわよ」

「そらそうだよ。少なくとも母国語を教えてんだから」

「そういう意味じゃないわよ」

「じゃぁ何だよ」




にっこり微笑んだ。




「私は私の生徒のことが大好きだから、楽しんでるわよ」

「……本当に?」




訝しげな声が面白かった。
私は窓の外を見上げた。真っ暗な空だ。




「勿論。今、すごく彼に会いたいのよ」

「………。」

「彼が欲しいのよ」

「…そういうこと言うなよ」

「なんで?」




咲人のやるせない表情が蘇った。




「距離があるんだぜ」

「あらそ?知らなかったわ。じゃ、私にもうそういうこと言わないでほしいのね」

「いや言ってほしい」



思わず吹き出した。
咲人のこういうところが好きだ。
私が黙ってニヤニヤしていると、咲人はさらに言った。



「俺も今、君が欲しいんだよ」




私は言った。



「私、あなたはもっと賢いかと思ってたわ。」

「そら間違いだったな」

「本当。もっと冷静かと思ったし」

「俺冷静じゃない?」

「私といる時は全然冷静じゃないじゃない。自分をコントロールできないくらい、好き過ぎるんでしょ」




俺のせいじゃないよ、とエラそうに答え、君の落ち度だ、と続けた。




「私の落ち度じゃないわよ」

「君のだろ」

「私の成功、よ」




Success?と唸った。



「いや、成功とは呼べない」

「なんで?」

「成功っていうには悪いことが多すぎるだろ。
それをもってしても余りあるいいことがある時だけ、成功って呼ぶんだ」



悪いことって何かしら?
私は首を傾げたが、聞くと恐ろしく話が長くなるので聞かなかった。
私はウンと伸びをして窓の外を見た。
街灯に仄暗く照らされた樹が目に入ると、あの日、公園で教えた”木漏れ日”が蘇った。




「影があるから光があるのよん」

「その陽の光と影の割合を教えろよ」

「今すっごくキラキラしてまーす」

「昨日は?」

「昨日はこっちは雨ね」

「(茶化してやがる…)先週は?」

「すっごく暑かったわ、あなたの街。
あなたのところは?」

「は?」




今、と私は答えた。




「キラキラしてないの?」

「……月しか見えないよ」

「綺麗な月?」

「そうでもない。見えるけど、たくさんの雲に隠れてるよ」

「じゃぁ咲人、もっと見たくなっちゃうわね」

「………。」

「彼女のことをもっと見たい、知りたい、って、思っちゃうでしょ」




咲人は少し黙って、また質問した。



「どうしたら、彼女はその姿を全部見せるの」



私はあっけらかんと答えた。



「シンプルよ。あなたの手で雲を全部どけて、抱きしめれば?」

「………。」

「捕まえて」

「………君は、捕まえられたいの?」

「もちろん。今すぐ」




言ったじゃないあなたが恋しいって、と軽く続けると、
なるほどね、と偏屈な声がした。

そこで不意に、





電話が切れた。




続きます!


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