メイサと7人の外国人たち

アラサー元お水とキャラの濃い外国人達の冒険記

二度目のビデオコール。窓と彼の手

2018-10-19 23:33:54 | 咲人
「Hi, long time no see」


と、いつものクソかっこいい声と気取った言い方で咲人は挨拶した。
私も小首を傾げて可愛らしく応戦した。
今日は久しぶりにビデオコールをしている。
すごく稀なことに、2人の休日が合ったのだ。
週に何度も会話しているせいで緊張感はゼロだが、そういえば咲人の顔を見るのはこれがやっと2度目だった。


「今日はちゃんと着てるのね」

「勿論」

「もちろん?誰だったかしら、初めてだってのに日本人の可愛こちゃんと裸でビデオコールしたのは?」



咲人は笑ってそんな奴いるの?とすっとぼけた。
笑うと大きな目が細くなって目尻と目頭にたくさんシワが寄る。
クシャッとできるそれを好きな人は多いと思う。
私はそれも好きだけど、その間の高い鼻も結構好きだ。
それと、その国の人間にしては暗めの色の髪も。
咲人は一般的にはそこまでハンサムじゃない。
でも私のタイプの系統だった。


久しぶりにちゃんと顔見たけど、やっぱそんなカッコよくないなー。
でも好きなんだよね、咲人と話すの。


実際この日の会話はとても楽しかった。
私たちは真面目な話からどうでもいい話までたくさん話し、たくさん笑った。



「…メイサ、君は全然わかってないだろ」

「わ、わかってないけど、わかる必要があるの?」

「それは定かではないが。いいか、普通窓っていうのはこういう風に開くと思ってるだろ」


と言って咲人は手の平を真っ直ぐ立てて見せた。
そしてそれをクネクネと動かしながら


「俺の国の人間はほとんどがこの事を知らない。窓ってのは縦じゃなくて横斜めにも動くんだ」


ブーッ!と私は吹き出し、声に出して爆笑した。
私が散々笑っているのに、咲人は大真面目な顔で話を続けている。
君も知るべきだ、こうすれば変質者は入れない、と熱弁していた。


「ブハハハハ!!!」

「おい聞いてるか」

「聞いてないわよ!(笑)いや、聞いてるけど、あんたのそのアクション…ハハハハハ」

「オッケーわかった。今度うちの窓でgif作って送ってやる」

「(いらねー!笑)わかった、楽しみにしてる。ハハハハハ」



咲人は本当に変わっている。
私は“変わっている人”自体はそんなに嫌いじゃない。
ユニークじゃないけど意地悪な人なんかいっぱいいるから、それよりずっとマシだし。
彼は本当に優しかった。
話題はいつしか、梓の話になった。




「あれからもう一度連絡したわ」

「おう、熱心だな」

「勿論よ。私は彼のこと友達として大好きなの、彼を失えないわ」

「ほうほう。で、どうだった?」

「返事なしよ」



Oh no...と同情の声が上がった。私はシクシクと泣き顔を作って見せた。



「はぁぁぁぁ〜」

「ま、しょうがないな」

「そうだけどぉぉぉ」



あまりに私が凹んでいるので、咲人はこんなことを訊ねた。



「メイサは、今まで男をその……何て言うんだ」



英語が出てこないらしくも又しても手のひらを立ててクネクネ動かした。
笑かさないでくれ。



「振った事はないのか?」

「そら、あるわよ。でも大抵私に寄ってくる男の子はもっとわかりやすいって言うか、直接的って言うか。
情熱的?なんていうの、手が早いって言うか…」

「ほー。」

「だから私が彼らを振った時は、彼らはまだなんでもない関係の人たちだったの。
友達じゃないわ。
でも梓はもっと気遣いがあるし慎重な人だから…彼は私の大切な友達なのよ」



咲人は、そりゃ全然違うな、と頷いた。
窓の話も、梓の話も。
それからお互いの仕事の話も。
私達は本当に色々なことを話した。
できればもっともっと話したかったけど、休みとはいえお互い他の予定もある。



「じゃ、メイサ。そろそろ切ろうか」



咲人にそう言われると、途端に悲しくなってしまった。
もっと話したいし、もっと………





違うことも話したいし




違うことも聞きたい





「………咲人」




私が名前を呼ぶと、咲人もメイサ、と答えた。
なに?と言うと、君が呼んだから答えただけだよと笑った。
ど、どうしよう。
言うの?
えっと、えっと、えぇぇぇぇっとぉぉぉぉぉ




「咲人」

「Yes?」

「わ、わたし」



咲人は目を丸くして待っていた。



「あ、あ、あなたに、あの日本語の文章を言ってもらいたいんだけど……っ」



勇気を出してそう言った私に、咲人は



「うん?サヨナラ?」



(T▼T)



「違うわー!!(号泣)」

「へ?じゃ、何?」




もぉぉぉぉう!!
言ったれ!!





意を決して、私は声高に希望を突き付けた。






「わ、私のこと好きって日本語で言って!!」





咲人は目を見開いた。





続きます。

心を開いて

2018-10-17 00:01:41 | 
「梓!」



カフェに入ると、すぐにいつもの彼を見つけた。
軽く手を振って笑顔を見せる彼のもとへ行かんと、ズカズカとカフェの奥へ入った。
まだ彼が行動を起こす前の話だ。

席に着きながら私は訊いた。



「今日、風超強くない?もー髪ボサボサ」

「あぁ、そうだね。3日前くらいから風強いよね」

「もぉーひどいわひどいわ」



と髪を直す私に、大丈夫そうだよと彼は言った。



「本当に?本当に?」

「うん、全然」

「私の髪オッケー?」

「もちろん」

「目が可愛い?」



ブー!と梓は吹き出した。
よし、笑かした。と私は満足して一緒に笑った。
梓はしばらく笑ってから、そうだね、と答えて、また笑った。




「鼻が小さいけどね(笑)」

「うるさい。あ、来た来た♡」



注文したのはオープンサンドだ。
2人とも同じものを選んだ。
こんがりと焼かれたライ麦パンの上にスライスしたアボカドが載っている。
隣に鎮座する目玉焼きは黄身がツヤツヤで、ナイフを入れたらセクシーなことになるんだろうなと妄想させられた。
私がヨイショ、と目玉焼きをパンにのせたのとほぼ同時に、梓も全く同じことをしていた。
爆笑した。



「真似しないでよ」

「メイサがしたんだろ。俺の方が早かったよ」



それもそうね、と面白くなさそうな顔をする私を見て、梓は笑った。
そんな思い出を何度も思い出した。
そしてその度に、きっと大丈夫、と思った。
梓は、私が連絡している誰の話をしても、面白そうに聞いていた。
でも、そんな彼の態度に100パーセント安心していたわけじゃなかった。
だから、ディナーを振る舞うと家に誘われても、ずっと上手に避けていた。
ようやく初めて訪問した時もまだ不安だったから、しっかり色気を消して行った。




「メイサ、じゃぁこれも微塵切りにして」




と渡された赤ピーマンを掴み、OKと私は笑った。
彼が振る舞うと言ったはずのディナーをなぜか私も一緒に作っていた。
予想外に働く羽目になった彼は、準備できなかったのだ。



「ごめん」

「いーよいーよ。働いてたらしょうがないわよ」

「そう、俺メイサのために料理教室してあげようと思ったんだよ」

「おいコラ」



笑いの絶えないキッチンで、私は雅留が待ち合わせ場所にカッコつけて現れた話をした。



「で、あたしが図書館に着いたら彼先にドアのとこにいて」







「Hi Lady」



「マジで?」

「そうなのよ。思わず “一体いつからこのポーズで待っていたんだろう…”って思っちゃったわよ」



梓はボウルでドレッシングを混ぜながら吹き出した。



「ま、雅留はハンサムだからポーズ的には似合うんだけどさ。そういう問題じゃないじゃん」

「そういう問題じゃないな。でも良いんじゃない?メイサも何かポーズ仕返してあげれば?」

「何よ、それ?」



私が振り向くと、梓は椅子の上に右足を乗せてストレッチしていた。



「ちょっと、人の話真面目に聞きなさいよ!(笑)」

「え、何?今ポージングの話してたんだよね?合ってるじゃん」

「そぉだけど!」



梓は真顔でボウルを混ぜ続けながら足を替えて言った。



「ちなみに左足も同様に伸ばした方がいいぞ」

「うるさいわ!(笑)」



その日のディナーはすごく美味しかった。
味は日本料理と全然違うから、よくわからないところもあった。
でも、気持ちが悪いとご飯はまずい。
梓と食べるご飯はとても美味しかった。




デザートを食べる少し前に、私は自分のバックグラウンドについて彼に話した。
私は日本が恋しくなかった。
会いたい友達はいる。
でも家族に会いたいとは微塵も思わなかった。
私にとってHOMEと呼べるところはなかった。


大抵は遅すぎる反抗期か気の毒な人のように判断されるこの話を
梓は一言、分かると言って聞いてくれた。




「そういえば梓は、家族には会ってるの?お兄さんがいるんだよね?」



梓はこの国の人間じゃない。
そして家族の話は、私が始めの頃に訊いたきり聞いたことがなかった。
梓はちょっと笑ってから、OK話すよ、と始めた。



「俺には年の離れた兄貴がいるんだけど、俺はあいつとも両親とももう何年も連絡をとってない」



私は目を丸くした。


梓は一般的に高給取りと言われる職業のお父さんと、専業主婦のお母さん、
ひとまわり離れたお兄さんと暮らしていた。
でも梓が中学生の時に、突然他の3人が異国へ引っ越すことになった。
梓には、週に何回か来るだけのお手伝いさんが1人充てがわれた。
ご近所さんが面倒見てくれたりもしたけど、基本的に1人だった。
当然中学生の男の子がひとりぼっちにされて、真面目に学校に通うわけがなかった。


でもまた突然、その異国へ呼ばれた。
そこで今度は全然習慣が違う学校に突っ込まれた。
家の中には押しかけて来た兄貴の彼女と兄貴、それから両親が同居していて、
思春期真っ盛りの彼には自分に部屋がなかった。
家の中は、兄貴カップル対両親で険悪だった。
梓は間を取り持つ役に回っていた。
家にも学校にも居場所がなかった。


大学生になる時、この国に来る機会を見つけた。
高給取りだと思ったお父さんは不正が見つかって不遇の時で、親の援助は受けられない。
梓は才能と努力で奨学金を得て、大学を卒業した。
誰にも助けてもらえないから、自分で自分のために努力した。




「兄貴は彼女と結婚した。でも、別れた。おまけに、働いてない。
俺は働き出した。
で、両親に兄貴と彼らにお金を送れって言われたんだ」



梓は家族を援助した。
でもお兄さんは働く様子がなく、助けてもらってる側のお父さんは梓に説教をする。
お母さんは自分というものがなく、お父さんの言いなり。
何年も我慢して助けてから、ついに我慢の限界が来て、梓は




「モウイヤダ。家族ダヨ?って思った」



と、日本語のフレーズを口にした。
私は聞きながら、梓をハグしてあげるべきなんじゃないかと思った。
泣きたくなった。



「メイサの話を聞いて、全部わかると思った。
家族なのに、家族じゃないんだ」

「そうね…」

「で、彼らは永遠に自分の非を認めない」

「そうね…」

「でもメイサに言う通りで、そうやって距離を置いていると罪悪感がある。
自分のことを悪い人間なんじゃないかって思って」




そうなんだよね、と私はため息をついた。
あぁそうか。
何もかもが似ていて楽しかった私たちは、こんなところまで同じだったんだね。
梓はとっても素敵な人だから、ご家族も素敵なんだと思っていた。
私とは違うんだろうなって、思ってたよ。


でも今こうして考えてみれば、それくらい不遇の時代があったから
梓は人に優しく厳しく接することができるんじゃないかとも思った。
言葉の端々に彼のリアリストな面が垣間見えていたけど、納得した。
これは私の意見だけど、何かに不自由なく生きて来ると、人間はそれをありがたいと思えない。
思えない分大切にできないから、人にそれを奪われたり侵されてもあまり気にしない。
お金持ちの甘ちゃん、とかいう類の言葉はそういうところから来てるんじゃなかろうか。


梓が見せた意外な一面は、彼が私に心を開いてくれていると感じさせた。



続きます。









私にとって大切な人

2018-10-16 10:22:38 | 
ある日のことだった。



「君はよくやってるよ。君の言う通り、気が合う友達に出会うのは簡単なことじゃないしさ」



私はもぐもぐとアスパラを噛みながら頷いた。
今夜も咲人と長電話しながら料理中だ。
私はとにかく食べたいし、作りたい。
コショウを足しながら私は答えた。



「ありがと。日本人相手でも難しいのに、ここで素敵な友達ができて幸せだわ」

「頑張ったな」

「……でも、今私は一つ大きな問題を抱えているの」



どうした?と咲人は驚いた。
一ヶ月前、私は梓の家を真夜中に飛び出した
やっと一歩踏み出した優しい彼を置き去りにして。
ため息が溢れる。



「私の、ここでの一番の友達覚えてる?」

「んー、あの国の男だっけ?」

「そう。私の一番の友達で、私の唯一の男友達…(あ、咲人入れないと失礼かな)」

「(俺は何なんだ)そいつがどうかしたの」

「私は彼のこと本当にいい友達だと思ってたんだけど…彼は違ったみたい」

「え、何で?」

「……私は彼にとって友達じゃなかったみたい」




一呼吸置いて、あぁーわかった、と咲人は声を上げた。
私はため息混じりにマッシュルームを切り刻んだ。




「彼はなんか言ったの?何つーんだ、何か決定的なことを?」

「まぁその…分かることをした」

「あ、そう。。。で、君はどうしたの」

「私はそれを受け入れなくて、それで……」




それから、何通かメールしたけど、すぐに返事が途絶えた。
何事もなかったように、どうでもいいメールを少し間を空けて2通送った。
梓は返事をしなかった。
そしてそのまま今日に至る。
あっという間に一ヶ月が経った。




「私は彼を失わんとしているの。はぁぁぁぁ」




それはしょうがないぜ、と咲人は言った。




「もう前みたいには戻れないのかなぁ〜〜〜〜〜」

「うーん、それはまぁ男によるけど。でもま、基本的には無理だろうな」



バッサリ



「えぇぇぇぇ!?(涙声)」

「ま、待て待て。基本的には、って言ったんだよ」

「イヤァァァァ(号泣)」




フライパンを振るいながら嘆く私を咲人はなだめた。




「そいつが良い男なら君の気持ちを理解してくれるんじゃないの」

「そうだね…梓は本当に素晴らしい人なのよ。だから…そう期待したいけど…
でもまぁ彼が私を諦めるにしろ、諦めないにしろ、私は彼を傷つけたんだからすごく悪い気がするわ」

「それはしょうがないだろ」

「私は彼のこと友達として大好きなのよ。好きな人を傷つけて、しょうがないなんて言えないわ」

「ふん、まぁ、な」



オリーブオイルとニンニクと一緒に炒まったマッシュルームは香りが最高。
米と白ワイン、牛乳を注いで火力を上げた。
フツフツ言うフライパンを混ぜながら言った。



「まぁ、何にせよ今は彼には時間が必要だと思うの」

「そうだな」

「彼の気持ちを考えるなら、私が今できることはただ待つだけ」

「いいんじゃない」

「はぁぁあ〜。。。」




深いため息をつく私に、咲人は質問した。




「君は気づかなかったの?そいつの気持ちに」

「うーん…随分前にもしかしたらとは思ったのよ。だから牽制したの」

「いいじゃん」

「でもそれはもう前のことで…彼は慎重な人だからそれ以降特に動かなかったから、私も油断していたの」

「なるほどね」



しつこくため息をつく私にウンザリしたのか、咲人は何やら提案し始めた。



「メイサ、そういう時は他の男の写真を見せて『この人が私の好きな人なの♡』とか言っとくべきだったんだよ」

「はぁ?そんな写真持ってないわよ」

「用意するんだよ。ウソでも」


イヤだよ


何でわざわざそんな事しなきゃなんないんだよ!(笑)


相変わらずどこかズレている咲人の提案はバッサリ切ってやった。
バッサリついでに聞いてみた。


「あなたは?こういう経験ないの?両思いだと勘違いしてしまった事」

「うーん……あるよ」

「その時はどうしたの?」

「学んだよ。また同じこと繰り返さないように慎重になったと思う。
楽しい出来事じゃないからな」



ですよね、と私は味見用スプーンを咥えた。
うん、あとは余熱でいいや。
火を止め、始めのアスパラを散らしてからフタをとじた。
明日のお弁当はリゾットだ。



一ヶ月の間、色々なことがあった。
梓には無視され、仁とは連絡が再開したけど私の気持ちは前とは違っていて。
どんどん咲人に惹かれていく自分に気がついた。
梓に申し訳ない気持ちもあった。
でも心のどこかで梓はまた何事もなかったように返事をくれるんじゃないかと思っていた。
だって、彼は今までずっと、本当にずっと、優しかったから。
私の拙い英語も、くだらないバカ話も、爆笑する顔も、全部受け止めてくれた。
この街で色々なところへ連れて行ってくれた。
いろんなことを教えてくれた。
一度も偉そうにも、恩着せがましくもせず。
ただスマートで、優しかった。
私のことを大切にしてくれた。



その理由は友情じゃなくて恋だったけど。




「メイサの今日の服、いいね」



雪の降る日だった。
ブランチを食べに出かけた私は、ダウンの下にグレーのワンピースを着て行った。
テーブルについてコートを脱いだ瞬間、梓がハッとしたのに気づいた。
でもやっと彼がそう言ったのは、店を出る時だった。
ありがとうと微笑んでから、あなたも着たい?と聞くと、笑った。



「残念ながら俺には似合わないと思うよ」

「恥ずかしがらないでいいのよ♡」

「ま、サイズが合わない(笑)」



確かに!と声を上げて笑った私は、本当に彼のことが大好きだった。
少ししか一緒にいられなかったけど、また会うのが楽しみだった。
それからも梓は頻繁に私の服を褒めてくれた。
典型的な女子らしく、クローゼットがパンパンな私は彼と会う時の服を選ぶのも楽しかった。
会う数日前から楽しみだったのだ。



続きます。



意地悪されたいんでしょ?

2018-10-06 02:03:59 | 咲人
「咲人、なんで、そんなこと言ったの?」




私は強張る唇から何とか言葉を紡いだ。
咲人は間髪入れずに答えた。




「いつも新しい言葉を習ったら、君の名前で練習するだろ」




う、うそつき!!!

だって

もし本当にただそれだけだったら

今、私の質問の意味、わからなかったと思う!!




「ウソつき!」

「ウソつきじゃないよ。じゃ、寝…」

「さ、咲人、今日は意地悪過ぎ!」

「そんな事ないよ」

「あるよ!」

「ま、ちょっと、そうかもね」




咲人はこともなげに、を装って続けた。




「でもそれは、君が意地悪されるのが好きだからだろ」

「そんな事ないわ!(笑)」

「あ、そう?ごめんね(笑)」




もうぅ〜〜〜と私は目を覆った。
あんなこと言われて、普通になんて話せない。
四肢と唇を動かす能力を失ったみたい。
いつもの咲人なら、私がウ〜ンと唸っているのを聞いたら笑いそうなものだったが、
彼はいつもの偉そうな態度を見せなかった。
彼はただ黙っていた。



「……じゃ、メイサ」

「……はい」

「また明日」



また明日話すの?



「うん。また明日ね…」

「うん……」



何だか変雰囲気だ。
私は言葉を絞り出した。



「おやすみ」



咲人も、日本語で答えた。




「オヤスミ」




バイバイ、と言って電話を切った後で
私はまだドキドキする気持ちを止められずに両手で頬を覆った。
私のほっぺ、きっと紅い。。。
だって。
だって。
だって。。。。。。



ベッドに向かいながら、そっと携帯を見ると、ふと、忘れていた事を思い出した。
そうだ。
仁からメッセージが届いていたんだ…



返事するのなんて





忘れてた。





続きます。

好きと言われた話

2018-10-05 22:00:11 | 咲人
その晩、咲人からなかなか返事が来なかったので、私は中毒者のように携帯を携帯したり周りをゴロゴロしたりしていた。
彼から『こんばんは。家に着いたよ』と返事が来た時にはすっかり夜だった。
咲人は忙しい人だった。





『おかえり。あとで話せる?』

『勿論。楽しみにしてる』

『いつなら良い?私は今晩ってつもりで言ったんだけど』

『俺もだよ。十分後にかける』





ピピピピピピ




「Hey」



ヤバい。
声聞くだけでにやける。
冷静を装い、You called me just in 10minutes と鼻で笑ってやった。
彼もいつもの偉そうな声色で Of course, why not?と答えた。
すこし他愛もない会話をした後、彼は私に訊ねた。



「ところで、週末に何をするかは決めたの?」

「(えっ!?そ、それはあなたと一緒に計画するんだったのでは…!?)まだだけど」

「えー、まだなの」



(΄◉◞౪◟◉`)



お、お前が一緒に考えようって言ったんだろーーーーー!!!




「はぁ?あんた一緒に考えようって言いませんでしたっけ?」

「あぁ、言ったな」

「咲人は?週末は何か予定立てたの?」

「んー、俺は友達と会うけど、まぁ短時間だろうな」

「(えぇー!?何もないっつったじゃん!!)そ、そうですか…」

「で、何かやりたいこととかないの?」




そっ

そんなこと言われてもっっ………




つまり、咲人は一緒に計画しようとは言ったけど、
一緒に何かをしようとは思っていなかったのだ。
あくまで私の週末のついて一緒に考えてくれるだけのつもりだったのだ。
ちょっ、ホントそーゆーのやめて(涙)
変に期待させないでぇーーーーー(T▽T)



と、ゆーわけで



私の「もしかして嬉し恥ずかし初デート!?」と膨らんだハートはシナシナに空気が抜けてしまった。
何だよぉぉぉぉう(泣いてます)
まぁいつまでも凹んでいても仕方ないので、普通にいつも通りお喋りを始めた。
すっかりガッカリしてしまったのであまりテンションは上がらなかったけど。←しっかり引きずってる
話題はなるべくして、お互いの言語のことになった。




「咲人の国の言葉はほとんど知らないわ。すごく限られた言葉だけ」

「ふーん?例えば?」

「これとか」


私は仁に習った言葉を文章で送った。
言ってもいいのだけど、 文章で教わっただけなので、どう発音したらいいかわからないのだ。


「………あー。」

「"私はあなたがすごく好き"でしょう?」

「そう、だね」

「発音はこんな感じ?」

「そう」

「何にでも使えるんでしょ?例えば、えーと、私は寿司が好き(笑)」

「そう」

「私はキリンが好き。私は花が好き…」




私が最後の名詞を変えて練習するたびに、咲人はそれを彼の国の言葉に翻訳して教えた。
私は自分が好きなものを順々にあげていったけど、8個あげても、10個あげても、
冗談でも彼の名前をそこに挿入する事ができなかった。


そんなこと言ったら、気持ち悪いって思われないかな。
変なのって思われないかな?
気が早いとか思われたらイヤだな。
散々仲良くしているけど、後一歩を踏み出す勇気なんて全然なかった。
冗談にとれる間柄でもない気がした。
ひとしきり練習した後、私は明るい声で言った。



「うん、便利ね!何にでも使えそう」



一方で咲人は静かに「そうだな」と言っただけだった。
退屈したのか、それともこの話題について何か思っているのか……。
彼が饒舌じゃないので、私は明るく話しを続けることにした。



「ちなみに、日本語ではなんて言うか、知ってる?」

「いや……。教えて」

「えーとね。例えば……」




どうしようかな。
例文、誰が何を好きにしようかな……




言いたいことと
言って欲しい事があるけど



でも………………




「咲人は…………








猫が好き」




orz




この根性なし〜っっ(涙)

(しかも咲人猫好きじゃねぇし!)と思いながら、私はアハハッと意味不明に笑った。
しかし



咲人は




「じゃぁ















俺はメイサが好き って言っていいの」








(  ◉ ________ ◉ )







「……………。」

「ネコは、CATのことだろ。だから、そこ変えればいいんでしょ」

「そう、ね…」

「で、ネコガ?ネコダ?」





ガだよ、と答えながら、私は強張ったままの顔と心をどうにかしようとして
どうにもできずにいた。




どうしよう

何も言えない

体が、動くのを拒否している

だって、そんな事、言うなんて………!




私が黙っているので、一瞬の静寂が流れた。
咲人はそんな雰囲気を察してか、ややわざとらしく話し出した。



「じゃ、そろそろ寝ますか?スイートヴァンパイアさん」




私はそれに対して






「咲人








何で、そんなこと言ったの?」







続きます。