非現実の王国で

ヘンリー・ダーガー。
ダーガー。ダージャー。ダージャァァ。
ダーガーと言う発音が正しいのか不明と言う内容から映画は始まる。
隣人によって証言された読み方だけで3つある。
これが、ダーガーを象徴しているように感じる。

彼の生い立ちと、彼のアートは密接だと思う。
おそらく幾たびかまたは強力なトラウマとして
首を絞められていたと思う。
その表れとして彼の描く絵に首を絞めらているモチーフが
何度も現れる。以前原美術館で観たときは、もしかして
そういった現場を垣間見たのかもしれないと感じたが
今回の映画を観て、たぶん彼の実体験だろうと思った。
文字による苦しさの言及があったからだ。

またヴィヴィアン・ガールズの腹を裂かれた絵は今回はじめてみた。
これもまた象徴的だ。
養子縁組を幾度も希望したダーガー。
神を敬い、呪ったダーガー。たった一枚の写真の為に。
望みが純粋ゆえに世の不条理は受け入れられないだろう。
それでも彼の仄暗い欲望をそこかしこに感じるのはなぜだろう。

さて、アートとは何か。表現とは何か。
観察者を介入させないとアートとはならないのか。
人はスタンドアローンな生き物ではない。
たしかにスタンドアローンでしかないが言語やその他の
いろんな技術によってスタンドアローンから離脱できるように
多大なる努力をしている。それが叶っているかどうかは
否定的だけれど、それでも言語はある程度の成果をあげている。不完全だが。

彼の芸術は他者を介在させない。ということは完全なるスタンドアローンなアート
となるだろう。それは自然にある景色などと同一の
存在意義をもつのではないだろうか。すなわち”そこにあること”
彼が数点程度しか描いていなければおそらくここまで知名度はあがらなかっただろう。
圧倒的な幻視は現実と同じなのだろうか。