徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:ピエール・ルメートル著、『英雄』(ドイツ語版) (Klett Cotta)

2022年08月25日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

ピエール・ルメートルはフランス人作家なので、邦訳がなければフランス語原文で読むべきなのでしょうが、この短編『英雄(Un héros)』のドイツ語版の電子書籍で99セントで販売されていたので安さに惹かれて買ってしまいました。

1929年のフランスの片田舎 Saint-Sauveur サン・ソベールの Isidore Chartier イシドール・シャルティエ市長が再選を目指して、その村出身の唯一の有名人 Paul-Rémy Delprat ポール・レミ・デルプラという詩人(?)の遺骨をハンガリー・ブダペストから50キロ北にあるミシュコルツという街から取り戻す事業に取りかかります。

市長が様々な外交手続きを済ませた後、墓堀人 Joseph Merlin ジョセフ・メルランが実際に遺骨を取りに行くことになります。物語はこの墓堀人の苦労物語のようなものです。フランス語がほとんど通じないハンガリーでは持たされた書類もほとんど意味をなさず、フランス語が片言しか分からない現地人と大変な思いをしてデルプラの遺骨を手に入れますが、棺桶を用意したにもかかわらず、実際にはたった6個の骨だけでした。

これを箱に納めてサン・ソベールへ持ち帰ればいいだけの話なのに、おかしな事件や事故に遭って無駄に苦労する羽目になります。
一方、シャルティエ市長はおらが村の英雄の遺骨を迎え入れるべくセレモニーの準備を着々と進めていきます。

この両者のちぐはぐさと結末がなんとも皮肉です。
そもそもそんな大事な任務をたった一人の墓堀人に一任するか?とツッコミせざるを得ないようなオチです。むしろそこがこの小話の面白さと言えるかもしれません。


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