灰色だった人々の顔に血が通い始めて
冬の曇りも晴れものびのびとしのびこむ部屋で
書きたいことがすみれ色にわだかまって
霜が降り枝分かれしてしまったノートを
どうしたらいいか迷っている
それまで日記を書いていた茶色のノートは
その日をまたぐことなく
その空白を見るのがなんだか怖い
その前の何も知らない私を読むのも
それは多少はかわいそうに思うけれど
その後の空白のほうが
あの喪失を思い出させて苦しい
あの日から数日後
その人のためのノートを用意した
黒のノート
言いたかったこと
すればよかったと思うこと
いま感じていること
会いたいということ
ごめんなさいごめんなさい
二冊になった
洗面所や風呂場の黄色い電気がチカチカしたり
胸の奥底を通って抜けてしまう先があるらしく
誰かのちょっとした言葉が
私の感覚よりも速く駆けていって
肩にタッチ
戻ってきて
私の背中や右脚の脛や左頬に
さわっと寒い毛を走らせる
聞き流していた歌や
友だちとの何気ないやりとりに
いちいち涙が出たり
いない感触はたんこぶのように
私の外にあって
眺めたり
突ついたり
撫でまわしたり
していたけれど
盛りあがった形がくずれて鳥の群れになり
ひとしきりさえずったあと
深い呼吸で吸い込まれて巣をつくり
体のどこか隅のほうで
静かな営みを続けることができるようになった
そしてただ日々のことを書くときに
茶色のノート
黒のノート
どちらに先を続けたらいいのか
散らばってしまう言葉は
行き先を決めかねて
今夜は満月
そういう人は立つとき横にひろがらない
上にすっと立つ
さみしさを生きた人なので
冬の曇りも晴れものびのびとしのびこむ部屋で
書きたいことがすみれ色にわだかまって
霜が降り枝分かれしてしまったノートを
どうしたらいいか迷っている
それまで日記を書いていた茶色のノートは
その日をまたぐことなく
その空白を見るのがなんだか怖い
その前の何も知らない私を読むのも
それは多少はかわいそうに思うけれど
その後の空白のほうが
あの喪失を思い出させて苦しい
あの日から数日後
その人のためのノートを用意した
黒のノート
言いたかったこと
すればよかったと思うこと
いま感じていること
会いたいということ
ごめんなさいごめんなさい
二冊になった
洗面所や風呂場の黄色い電気がチカチカしたり
胸の奥底を通って抜けてしまう先があるらしく
誰かのちょっとした言葉が
私の感覚よりも速く駆けていって
肩にタッチ
戻ってきて
私の背中や右脚の脛や左頬に
さわっと寒い毛を走らせる
聞き流していた歌や
友だちとの何気ないやりとりに
いちいち涙が出たり
いない感触はたんこぶのように
私の外にあって
眺めたり
突ついたり
撫でまわしたり
していたけれど
盛りあがった形がくずれて鳥の群れになり
ひとしきりさえずったあと
深い呼吸で吸い込まれて巣をつくり
体のどこか隅のほうで
静かな営みを続けることができるようになった
そしてただ日々のことを書くときに
茶色のノート
黒のノート
どちらに先を続けたらいいのか
散らばってしまう言葉は
行き先を決めかねて
今夜は満月
そういう人は立つとき横にひろがらない
上にすっと立つ
さみしさを生きた人なので