詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

柔らかい

2016年09月16日 | 
この雨の音が森の中なら、と思ってみる。柔らかい腐葉土を踏んでいる。ひんやりとした空気が、木々を含んだ空気が奥行になる。手のひらは濡れた木の皮。花は落ちていく匂い。

人のいないところでは、自分から発する声は柔らかい反響となって戻ってくるのみ。だから、とても親しい。

雨の音は、叩いたものの高さや、手ざわりを伝える。森の中では。 立体的な地図を広げるように。 練習不足の木の子たちが、好き勝手に打ち鳴らしているように聴こえる。ぱちぱち。ぱち。音が、ひとつひとつ音の姿をしている。白い靄の中からうっそりと、出てくる。 それを、静けさ、と言うのかもしれない。

森の中ではないから、傘をさしている。傘をさしているから、下を向いている。下を向いているから、道路にできた水たまりとそれをかきみだす斑紋が世界だ。視野いっぱいの。

人のたくさんいるところで発する声は、あちこちの目には見えない固いところにぶつかって、ギザギザになって返ってきたりするから、自分がとても歪んで見えたりする。それに焦ってジタバタすると反射はもっとコンランして色が散乱する。

長く時を過ごすと同じひとの肌はなめらかになって、すべすべに削った木製の器のよう。 声も言葉も思いもつるんとまるくなる。何を発しても角が取れて、まるでうろの中。たくさん栗を拾って蓄える。冬に備えて。深い、雪の、白さ。それから逃れるために、それを利用する。くるまるように。
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