詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

2016年07月19日 | 
ゆかりのひとにもらった
映画のチラシは四つ折りにして
バッグに入れたまま時が経ち
折られた角が弱く白くなった

白くなって
ベロのように巻き上がる
残像がカタカタカタ
という音とともに脳裏に焼き付く

「きおく」という形を記録している
「ぼうきゃく」という形を音にしている

使い古された英語の辞書の
薄紙のページをめくり
She turned down a narrow street.
彼女は角を曲がって狭い通りに入っていった。

煉瓦の壁面が押し寄せる
石畳の狭い通りに入っていった
スカートが揺れて
見えなくなった

黒猫が一匹
軽やかに後を追いかけた
その後を帽子を目深に被った影が追いかけた

石畳の上を
音もなくすべる影
タバコの煙
香り
後をたどり
空白になる
鑑賞者の来歴

ニュースペーパーが丸まって
道端で風に吹かれている
なにげないふうを装って
重大な転機を伝える
無言のインク

計画された予想外の展開に
計画通りひきずりこまれていく
ポップコーンを食べていた手が
忘れられて
保たれて
浮いている

日常をすべって
光の筋の中の
煙のような埃の群れの向こうの
スクリーンの流れに入り込み

意味の枠に収められない
日々の連なりに倦んだひとびとに
かならず意味のある
表情、動き、カット、シーン、ストリーム

長い時間をかけて
まるで見てきた歴史のように
ひとりの中に一本の透明な流れが
生まれている
本人にさえ
自覚されないほどひっそりと
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