詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

鹿の角

2016年01月24日 | 
近頃、鹿の角がよく目に入る
痛いでしょうって?
そりゃあ痛いです
白さが
灰色がかっているのに
雪とは違う
ごろり、ざらり
手ざわりが白い
白い白い
そう思うんです
そう思うのはなぜなのか
考えてみたんです
答えなんて首を傾げて
ちょっと思い巡らしてみれば簡単なんです
でもそうしないんです
脳の生地を斜めにひっぱる力があって
ちょっと考えればわかることを
考えないようにさせるんです
でもちょっと考えればわかるんです
なぜ白いかではなく
なぜ白いと思うのかがわかるんです
角が骨に似ているからだとわかるんです

私は何を鹿の角と見ていたのか
二、三、兄さん、兄さん
考えるとわからないんです
二、三、鹿の角を見つけたのは確かなんです
それがいつのまにか
二、三、死後
積み上がっているんです
角の枝が絡まって
持ち上げるとひとつながりで
長い蛇腹ができそうなほどなんです

鹿の角を見た
印象がころげていて
がらがらがらがら
音がします
木琴の端から端まで
ばちを流れ星みたいに滑らせたり
鍵盤の一本一本は
骨でできているかもしれないし

友だちに骨を拾わせるなんて
ひどい奴です
奴ののどの骨は
私の頭を叩いて
自分の話し声を演奏させました
グリッサンドみたいに
だらららら~んと

落差を忘れちゃいけない
落差を忘れないでくれ

そうか
慣れるということは
落差がなくなるということなんだ
平らにならすということなんだ
慣れなきゃ生きるのは支離滅裂
だけどならされてもならされても
あかず落差を作り続けるべきことって
確かに、ある

おい、おれのこと、
そんなに悲しまなくてもいいよ
だけどさ、その落差を忘れないでくれよ
おれがいたってこと
そしておれがいなくなったってこと
そのとき、何が見えた?
なあ、こういう話をさ、
もっとしたかったんだよ
なあ、切り立った崖が見えたんだろう?
それとも深い亀裂が見えたんだろう?
絶望でも虚無でもなく
自分の立っていると思っていた地面と
現実らしさの地面とが
ぜんぜん違う高さになっていることに
ただただあ然としたんだろう?
そのことを、どうかたまにでいいから
思い出してくれよな
人が死ぬって、
お前が死ぬって、
そういうことなんだって
忘れないでくれよな
流れ落ちるエネルギーを
感じていてほしいんだ

そしていま、思い出したんだろう?
世界の蓋が開き
地平の先に馬のひづめの形で
うっすらと青みがかってくる
夜明けのような突端に
小さな黒い影になって
同じような人々と立っていた夢
そこにおれもいたってこと
いまわかっただろう?
感じることができただろう?
そしてもはやそれはおれでもなく
他の誰でもあって
他の誰でもない
ということ
夜明けのように蓋が開いたのは
この夢を思い出した瞬間の
お前の気持ちのほう
だったのかもしれないね

そう鹿の角が
青空に枝ぶりを誇らしく立て
裸の冬の木が
言う




鹿の角でだしをとる
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