詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

冷たい空き地

2016年08月21日 | 
草むらに置き去りにされた自転車に
車輪をつたって蔓草が這いのぼる
劇的な動きを時間の停止と見てしまう
悲しい知識がまとわりついている

すぐ横の敷地に建つ
スクラップ工場の曇った窓に
とかげの足指のような
とまどい、いいよどみ、
ことばにならなかったコト葉……
蔦のぷちぷちした吸盤が
ため息のように這いのぼる

アパートの一戸となりなだけで
ベランダから見える空き地の形はまるで変わり
荒れ放題の空き地が暗躍する
コの字がクの字に
クの字がホの字に
流れていた時間をぐっとつかみ
ゆがませる
さっと放って笑う

寝転がってテレビを見る父さんの
高々と組まれたすねのような芋を洗う母さん
だんだんと数が減っていく金魚を
金だらいに移し
金魚鉢の水を入れ替えるわたし
坊主頭をじっとして
きれいな尾ひれを目と指で追いかける弟

ベランダに干し切れなかった洗濯物が
竿一本で片付くようになったこと
さみしいとも豊かとも思うわたし
湯を沸かし急須に入れる茶っ葉の量を
わかるようになった
定年退職して幾年も経つ夫
食卓もひとまわり小さくなった

立ちあがるのにも苦労する
おなかをさすると誇らしく
その庇のほのかな日陰を見るわたし
今日も遅くなるだろう
携帯電話を少し忘れていたかった夫
向かいの部屋の明かりが
消えていくのを見ながら
タバコをすう

捨てられている傘やサンダル
まぎらせる草はつやつやしている
特徴のない木々の枝ぶりももう覚えている
丈高い木々が押し上げるので
空がずっと遠くに見える
森にいるかのように
澄んだ声で高らかに鳴く
姿の見えない鳥たちを
やさしく抱きあげている姿
電話が鳴る
ひとの言葉が耳にささやく
これから行くよ
シャワーを浴びる

捨てていった自覚もない生活の
音が拾われ続けている
もうすぐ空き地も捨てられる
車輪は輪切りのレモンのように
すっぱい汁を絞り
錆びついた夜をギコギコ回す
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