総合情報サイト「文春オンライン」において、軍事アナリストの小泉 悠氏が各国で実用化されつつある無人兵器について解説しています。(「超ハイテク攻撃の衝撃 21世紀の戦争はこう変わる」2020/01/22)
2020年の中東情勢は、米軍によるイランのソレイマニ将軍暗殺という衝撃で幕を開けた。そのソレイマニ将軍を殺害したのは、対戦車ミサイルなどの武器を最大で1.7トン搭載して14時間は飛び続けられる性能を持つ米空軍のMQ-9リーパー無人機であったと氏は話しています。
偵察・監視から攻撃まで幅広い任務をこなせるこうした無人機は、今や中東の戦場を中心にあらゆる軍事作戦に(ごく普通に)投入されています。米軍ではCIA(中央情報局)の指揮下で重要人物の暗殺に使われることも多いとされており、日本の自衛隊も2035年をめどに人工知能(AI)を搭載した無人戦闘機の導入を目指すと表明しているところです。
こうした無人の新兵器開発はドローン以外でも広く進んでおり、ロシアは地上で戦う無人戦闘車両の開発に熱心で、その一部(小型戦車のようなキャタピラ式の戦闘ロボット「ウラン-9」等)はすでにシリアでの実戦にも投入されたということです。
また、米・中・露の三国は、それぞれ水中を長時間航行できる無人潜航艇計画を進めており、今後、無人兵器はありとあらゆる戦場に姿を現すことになりそうだと氏はこの論考に記しています。
ただし、一概に無人兵器といってもオールマイティではなく、その運用は意外と難しいというのが氏の認識です。現在実用化されている無人兵器は、基本的に人間が遠くから操作する遠隔操縦(リモコン)するタイプで、相応の数のオペレーターや強力な通信回線、整備要員など多種多様のインフラを必要とします。
そして遠隔操縦である以上、一旦電波が途切れると無人兵器は全く役立たたずとなり、各国が人工衛星に対する攻撃・妨害技術の開発を進めていることを考えると、無人兵器のコントロールに使われる衛星通信回線やGPSも有事にはアテにならない可能性が高いと氏はこの論考で指摘しています。
さて、そこで活躍が期待されているのが、個々にAIを搭載した自律型の無人戦闘兵器、いわゆるキラーロボットだとされています。
キラーロボットは、人工知能(AI)を搭載することで自ら攻撃目標を発見し、殺傷する兵器で、「自律型致死兵器システム(LAWS)」とも呼ばれているもの。まだ実際の戦場には配備されていないとされていますが、一定の自律性を持つ兵器の実戦投入はもは時間の問題と考えられているようです。
こうした無人兵器の開発が急速に進められている背景には、もちろん戦場に送り込む兵士の人的被害を減らすという期待があるわけですが、一方で感情を持たないロボットやドローンを敵地に送り込んで、敵と見るや自動的に攻撃しまくるという戦闘形態については、「人間が介在しない戦争」の倫理性などの問題が強く指摘されているところです。
「戦争」の在り方について私たちに根源的な議論を迫るこのキラーロボットの実践投入に関し、6月25日の日本経済新聞に「殺人ロボ、リビアで使用か」と題する(イスタンブール発の)記事が掲載されていました。
人工知能(AI)を搭載し、人間の判断を介さず自律的に標的を攻撃する「キラーロボット」が(ついに)リビア内戦で使用された疑いが浮上していると記事はその冒頭に記しています。
米ニューヨーク・タイムズなど複数のメディアは6月、2020年3月に内戦下のリビアでAIを搭載したドローンが、逃げる民兵らを追って攻撃した可能性があると報じている。ドローンは、内戦に軍事介入するトルコの軍事企業STM製の「カルグ2」で(製造した同社は疑惑を否定しているが)人間の手を介さずに攻撃を行ったのが事実なら、これは世界で初めてのことだということです。
3月に公表された国連専門家パネルの報告書では、カルグ2などのドローンを「自律的な殺人兵器」と断定し、「オペレーターとのデータ通信の必要なしに標的を攻撃するようプログラムされている」と説明されている。これは、キラーロボットとして使われたことを示唆しているものの、国連はこれ以上の詳細な見解は明らかにしていないと記事はしています。
こうした疑惑に対し、取材に応じたSTMのオズギュル・ギュレルユズCEOは、AIの能力は航行や標的の種類判別に限られ攻撃の判断はできないとしたうえで、「オペレーターがボタンを押さない限り、標的を選んで攻撃することはできない」と話しているということです。
真偽のほどは別にしても、多くの国や軍団が関与し地上では民兵らが実際の戦闘を繰り広げているリビア内戦は、すでに戦場にドローンが飛び交う次世代型の戦争の「実験場」と化していると記事は指摘しています。
リビア暫定政府を支援するトルコは(STMとは別の軍事企業である)バイカル防衛の「TB2」などを投入し、一方の敵対する武装組織「リビア国民軍(LNA)」側は、アラブ首長国連邦(UAE)から提供された中国製ドローンを使用したとされる。トルコ製ドローンはリビアでの実戦投入によりAIの性能が磨かれ、20年秋にはアゼルバイジャンがアルメニアを圧倒したナゴルノカラバフ紛争でも力を発揮したということです。
こうした中、キラーロボットを禁止・制限する国際的な合意は遅れていると記事は指摘しています。
各国や人権団体などは非人道的な兵器を規制する「特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)」の枠組みで2014年から議論してきたが、具体的な成果は上がっていない。途上国などが規制に積極的なのに対し、高い開発能力を持つ米国、中国、ロシアなどが慎重な姿勢を示してきたということです。
実際、米国などの大国の軍事企業にすれば、これからの戦争の在り方を変える自律型兵器のマーケットは極めて魅力的なものでしょう。また、自国の兵士の犠牲が社会問題化するリスクや消耗のコストなどを考えれば、戦場に兵士を送る必要のない機械任せの戦争は政府にとってもメリットが大きいといえるかもしれません。
しかし、ひとたび戦場になってしまった地域に暮らす人々にとっては、次々と送り込まれるロボットに追いかけられて何の躊躇もなく撃たれたり、無数に飛び交う無人のドローンから発射されたミサイルや爆弾によって、虫けらのように殺されたのではたまったものではありません。
この世界で最も恐ろしいのは、人の心を持たない殺戮者の存在と言えるでしょう。
スターウォーズやターミネータに登場する機会の兵士ではありませんが、かつてSFの中で描かれていたような非人道的な戦争が更にリアリティを増している現状を、私たちはもう少し深刻に受け止めるべきではないかと、記事を読んで改めて感じたところです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます