MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2374 交通政策のジレンマ(その2)

2023年03月03日 | 社会・経済

 「SMAP」と言えば、2016年に解散した日本人の誰もが知るジャニーズの国民的アイドルグループのグループ名。木村拓哉、中居正広などの5人のメンバーがそれぞれの個性を発揮して、歌にドラマにバラエティにと一世を風靡したのは記憶に新しいところです。

 グループ名の「SMAP」は、事務所社長のジャニー喜多川氏の命名で、「Sports Music Assemble People」の頭文字を取ったものとのこと。スポーツと音楽を融合し(歌と踊りだけでなく)芸能界で総合的に活躍できるグループを目指したとされています。

 一方、(話は変わって)交通政策の分野には、「SUMP」というよく似た名前があるそうです。1月24日の日本経済新聞の「やさしい経済学」では、関西大学教授の宇都宮浄人氏による連載「暮らしを支える交通政策」の第6回として、『「SUMP」が指針の欧州』と題する論考を掲載しています。

 1990年代以降、欧州の各都市では、「持続可能なまちづくり」という観点から交通体系の再構築を総合的に進めてきた。都市モビリティの新たな姿として、自動車の車線を規制したり、LRT(次世代型路面電車)導入などに力を入れてきたということです。

 そうした取り組みの一環として、欧州連合(EU)は各都市の経験も踏まえ、2013年に「持続可能な都市モビリティー計画」(Sustainable Urban Mobility Plan)、通称「SUMP(サンプ)」という指針を示したと氏はこの論考に記しています。

 「SUMP」とは、「人」のモビリティー(移動可能性)に焦点を当て、公共交通ネットワークや運賃体系をハード、ソフト両面で再構築するための計画のこと。氏によれば、このSUMPで興味深いのはその内容が交通機関・体系にとどまらず、各種シェアサービスから歩道の整備まで、あらゆる人のアクセシビリティーと生活の質向上を目指していることだということです。

 さらにSUMPのもうひとつの特徴は、(まず初めに)目標を設定し、そこから逆算することで計画の実現を担保する「バックキャスティング」の手法を採っていることだと、氏はこの論考で指摘しています。

 SUMPでは、環境制約や社会政策の観点を考慮しつつ、目指す将来について初めに市民も含めた関係者の合意形成を行い、次に目標値や具体的な施策を決めるという手法を採ることとしている。目標値として特に重視されるのは、「交通手段分担率」で、SUMPのガイドラインは「交通手段分担率を見ればどんな都市かがわかる」と述べているということです。

 施策を講じるうえで、費用対効果の検証は欠かせない。その点SUMPでは、コストの引き下げではなく、効果を最大限発揮させるための関連施策の整合性を強調しているというのが、氏の指摘するところです。

 日本の場合、公共交通と中心市街地の再生をうたいつつ、(一方で)市街地における駐車場や道路の整備をさらに進めるという、バランスを欠いた総花的な計画が少なくないと氏は言います。これに対しSUMPは、施策の「統合」という言葉を用いて、全体最適を求めようとしているというのが氏の認識です。

 2019年に公表されたSUMPのガイドライン第2版では、新たな移動サービスの動向も考慮したうえで、「(モビリティ政策に)肝要な点は、新技術に振り回されるのではなく、必要に応じて新技術を上手に利用できるようにすること」と記されていると、氏はこの論考に綴っています。これなどは、移動手段ばかりに目を向け(何かと言えば)新しい技術に飛びつきがちな日本の行政担当者には、耳の痛い話かもしれません。

 各モビリティの担う役割を都市の機能とともに総合的に考え、最小のコストで最大の効果を狙うこと。「立派な道路ができた」「電車の本数が減った」と、それぞれに一喜一憂するのではなく、地域ごとに都市間交流や都市計画にモビリティを融合させた、総合的な姿を議論していく必要があるのだろうなと、宇都宮氏の論考を読んで私も改めて感じた次第です。



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