1月20日の総合情報サイト「J-CASTニュース」が、元トヨタ自動車副社長の栗岡完爾氏と中小企業団体中央会専門員の近藤宙時氏の共著「地域格差の正体」(クロスメディア・パブリッシング)の概要を紹介しています。
そのポイントは、「なぜ高速道路料金は高額なのか?」そして、「高速道路料金の定額化こそが、地方経済を経済活性化させるカギを握っている」というもの。読み進めるにつれ「さもありあん」と参考に感じるところが多かったので、備忘の意味で小欄でも内容に触れておきたいと思います。
栗岡氏はこの著書において、「モノの流れ」「人の流れ」の沈滞こそが地域間の格差の元凶であるとして、高速道路料金を「400円乗り放題」にするだけで、国内総生産(GDP)は35兆円増えると試算しています。
例えば、「Go To トラベルキャンペーン」が全国で注目されたように、コロナで沈む経済を活性化させる最大の起爆剤は観光にある。日本人はもっと国内旅行をしたがっているのに、いくつかの理由でそれができないからしていないだけだというのがこの論考における氏の認識です。
そもそも日本人は、ドイツ人やイギリス人の半分以下しか国内旅行をしていないと氏は指摘しています。氏によれば、自国民の国内宿泊数は日本が2億9188万泊であるのに対し、ドイツでは3億6640万泊。イギリスは3億7170万泊で、国内旅行の消費額も日本人が1年間に旅行で使う金額の合計が20.5兆円であるのに対し、ドイツは39.69兆円、イギリスは28.8兆円におよんでいるということです。
こうした状況に、氏は、日本人の国内旅行を阻むボトルネックを取り除けば飛躍的に伸びる余地があると話しています。そのボトルネックとなっているのが、 よく言われる休暇日数の少なさや鉄道環境、そしてずばり高額な「高速道路料金」だということです。
ドイツとイギリスが乗用車については基本的に無料であるのに対し、日本は1キロ当たり約25円もの料金を徴収している。JR東日本の鉄道料金1キロ当たり16.2円と比較しても、これはあまりにも高額だというのが氏の見解です。
自分の車にガソリンを入れて運転する高速道路料金が、乗るだけでいい鉄道料金より5割も高いのは確かにおかしい。そもそも東名高速道路の料金制度を決めた時、世界中で距離制の料金制度を採っていた国はなく、先行した首都高も定額制だった。振り返れば、現行の距離制制度には何らの理論的根拠はない、というのが氏の主張するところです。
さて、ここからが本著のキモとなる部分ですが、氏はそこで「定額制料金制」は今すぐにでも実現可能だと説いています。実際、2009年に、「土日だけ、ETCを搭載した乗用車に限る」という制限のもとに、上限1000円で走り放題の料金制度が試行された。ETCがさらに普及した現在では、(少なくとも)技術的な問題はほとんど生じないということです。
それでは、料金はいくらに設定できるのか。本著よれば、NEXCO3社の運行料金収入を通行台数で割り込むと、1台当たりの通行料(実績)はたったの800円だということです。(勘の良い方ならすぐにピンと来るかもしれないが)そこからわかるのは、実際の通行車両1台当たり800円しか通行料を払っていないのなら、最初から800円の乗り放題にできるということ。
乗った時払いのETCでどこまで行っても定額800円。そうすれば確実に利用者は増え、通行料収入は増える。出口での料金所は不要となり、渋滞も解消される。利用車両が増えても道路補修費を含めた維持管理費はたいして増えず、赤字を出すようなことはないというのが氏の見解です。
本著ではさらに、高速道路料金の70%以上は建設費償還のための元金利息であり、60年後の無料化を捨てれば普通車は200円で乗り放題になるという試算もしています。また、料金をその倍の400円にするだけでも、GDPは概ね35兆円増えるという試算もあるようです。
定額化によるメリットは多い。何よりも、定額化が物流コストを下げ、地方が活性化する。定額化で環境が改善され、経済効率はよくなり、交通事故死亡者も減ると、(ある意味)いいこと尽くめだというのが本著における氏の認識です。
確かに、コロナで傷ついた地域経済の復興を図るのであれば、多くが貯蓄に回ってしまいます。一人10万円の給付金を配ったり、「Go To トラベル」で旅行会社を儲けさせたりするよりも、高速道路定額制の実現可能性試してみた方がずっと(ポスト・コロナの)世の中のためになるかもしれません。
「バラマキ」と言われない経済活性化策はどこにあるのか。そうした視点から、今回の「高速道路の定額化で日本の動脈に血を通わす」という本著の提言を、私も大変興味深く読んだところです。
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