安倍政権は今年10月に予定している消費税増税への経済対策として、クレジットカードやQRコードなどでキャッシュレス決済した際に5%のポイント還元を行う仕組みを導入する考えを示しています。
10月1日から2020年夏の東京五輪前までの9カ月間実施し、8%から10%への税率アップに伴う(2%の)増税幅を3%上回る負担軽減によって景気を下支えするとともに、キャッシュレス社会に向けた環境整備を急ぐという「一石2鳥」を狙った政策と説明されています。
キャッシュレス決済によるポイント還元は(基本的には)中小小売店での購入分を対象とするとされていますが、(チェーン店のスーパーやコンビニをどうするかなど)その詳細は未だ明確にされていません。
キャッシュレス決済にかかるポイントは発行するカード会社などを通じて還元され、会社の負担分を国が補助する仕組みと報じられています。また、店舗が決済に必要な機材を導入するための費用やシステム改修に必要な費用なども、政府により補填されるということです。
一方、このポイント還元について、政府は企業が中小店舗から買う商品などを対象に含めると説明しているようです。(1月15日日経新聞ほか)
こうした制度設計では、消費税の納税が免除されている零細事業者は税金が手元に残る「益税」に加え5%分のポイントも得られることになるとの指摘もあり、10月からの実施に向け制度の乱用を防ぐ手立てなどが急がれるところです。
さて、こうして関心を呼んでいる政府のポイント還元政策に関し、1月26日の日経新聞は「消費税ポイント還元への疑問」と題する記事を掲載し、制度の実施に伴う様々な疑問点を挙げています。
記事はまず、2%の税率引き上げに5%のポイント還元では何のための増税かわからないと指摘しています。
そこは目をつぶるとしても、消費増税まで9カ月を切って詳細が固まっていないことを考えるとシステム対応が間に合うのか。10月の消費税増税までに各商店の準備が本当に整うのかが懸念といった実務的疑問も残るということです。
一方、準備ができたとしても、軽減税率と大手企業のフランチャイズチェーンでの2%還元も含めると、店頭には実質的に3%、5%、6%、8%、10%と5種類の税率が併存することになる。どこのお店で買ったら得なのかなど消費者にはわかりにくいことが多く、混乱は火を見るより明らかだと記事はしています。
ポイント還元を受けるのは消費者でカード手数料の負担は事業者だとすると、還元期間の「9カ月間」のために中小業者がカード機器を導入するのかという疑問もわく。
さらに、ポイント還元が大きな効果を発揮した場合には、駆け込み需要の反動が今年10月から来年7月へと後ろにずれこむことになり、これでは、東京オリンピック後にも予想される不況が深刻化するという指摘もあります。
加えて、この制度には、ポイント還元の恩恵が高所得者に集中する可能性が高いと記事は説明しています。
富裕層が愛用する高級料理店などはその多くがポイント還元率の高い中小企業であり、かつカード機器も完備しているためメリットは大きくなる。一方、庶民が普段通う(ファミレスなどの)外食チェーンは大企業が多く、加えて商店街の中小店舗にはカードが使えない店が多いことから、ポイント還元の対象になりにくいということです。
また、関係者の間には「キャッシュレス化はインバウンド(訪日外国人)観光対策として東京五輪までに進めるべきだ」という誤解があるというのが記事の認識です。
キャッシュレス化の目的は現金使用コストの削減や、脱税目的など現金不正使用の防止にあり、インバウンド対策ではないと記事は言います。
電子決済が普及した中国は現金もクレジットカードも使いにくく、外国人旅行者には大変不便。こうしたことからも分かるように、キャッシュレス化と消費税対策は区別して考える必要があるということです。
このような数多くの疑問点への検討がなぜ不十分なのか。政策が煮詰められていない背後には、一部官僚らが密室で決めた案が安易に「官邸の決定」になってしまう問題があるというのが記事の見解です。
誰かの思い付きが(よく検討されないままに)メディアに打ち出され、「官邸への忖度」によって後追いでつじつま合わせをしていくという構図がそこからは透けて見えます。
カードやQRコードによる決済など使った(使えた)人だけにポイントを配るというこの政策。そこでポイントとして配られるのは、消費税も含めた私たちの税金にほかなりません。
そう考えれば、小泉政権時代の経済財政諮問会議のように専門家も交えたオープンな場で政策を議論する仕組みの再生が強く求められると結ばれた記事の指摘を、私も改めて興味深く受け止めたところです。
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