MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2167 昆虫食の可能性

2022年05月28日 | 環境

 先日、所用で静岡県の寸又峡に赴いた際、食堂のメニューの中に「寸又名物はちこ飯」というものを見つけました。残念ながら「季節限定」ということで実食は叶わなかったのですが、お店のおかみさんによれば、なんでも地蜂の幼虫をご飯に炊きこんだ料理とのこと。白いご飯の中にぷちぷちと幼虫がうごめいている姿を想像して、思わずマゾヒスティックな鳥肌をたててしまったところです。

 魚や動物などと違い、「虫を食べる」というのはなぜか抵抗感のあるもの。カニやエビなら喜んで、タコやイカは日常的に、ホヤやウニまで有難がって食べる日本人でも、昆虫ばかりはやはり「ゲテモノ食い」の域を出ないようです。

 (日本人の大好きな)カニやエビと極めて近い種類とはいえ、足や羽の生えた「虫」をそのまま口に入れるのは管理されつくした現代人には流石に厳しいものがある。そう心得ていたのですが、最近では街中で昆虫料理のお店が増えてきているという話もよく聞きます。

 若い女性などには、コオロギやタガメ、ハチの蛹などが人気だそうで、カラカラに炒ったその口当たりは、サクラエビなどに似た香りや香ばしさがあるということ。そういえば、以前中国の広州で食したゲンゴロウも、そんな感じのスナック感があったなと思いだしたところです。

 4月19日の健康食品の業界紙「健康産業新聞」は、昆虫食は現在、世界的なサステナブル志向で市場規模は拡大傾向にあり、2030年度には市場規模が8000億円に到達するとの試算もあると解説しています。

 FAO(国際連合食糧農業機関)は、2013年に発表した報告書において「近い将来、人口増加に伴い動物性たんぱく質の需要が増し、食糧や家畜の飼料が不足する」と指摘。「昆虫食は栄養価が高く、家畜に比べて低コストで飼育でき、地球環境と人々の健康に貢献する」と提唱したことで、市場形成が本格化したということです。

 一方、国内市場の起爆剤となったのは良品計画の「コオロギせんべい」という商品で、即日完売したことが話題となり食用昆虫の認知度が高まったとのこと。その後、昆虫食市場に参入する企業が相次ぎ、100円ショップ・ダイソーでは「コオロギせんべい」を昨年11月から販売し人気を博しているということです。

 さて、こうして我々日本人にとっても身近になりつつある昆虫食について、4月14日の日本経済新聞に早稲田大学准教授の下川哲氏が「昆虫食が秘める多くの可能性」と題する一文を寄せているので、この機会に紹介しておきたいと思います。

 「虫を食べるなんて……」と最初から拒絶する人も多いかもしれないが、昆虫食は現在、肉に代わるタンパク質源として世界的に注目され始めている。それは、同じ量のタンパク質を生産するために必要な自然資源(飼料、水、土地など)と温暖化ガス排出量が牛肉と比べて5分の1から10分の1と少なく、環境にやさしいからだと氏はコラムに綴っています。

 生産に当たって農地を必要としないのも大きな利点となる。実際、簡単な設備さえあれば、自宅アパートの押し入れを使い、1.5カ月で約20キログラムのコオロギを生産することも可能だということです。

 (寸又峡の例に見るように)日本では昔からポピュラーだった昆虫食ですが、最近の新しい動向として注目されているものに、「食用昆虫の養殖」と「家畜の飼料としての利用」があると氏はここで指摘しています。

 現在、世界で食べられている昆虫の90%以上は野生の昆虫だが、養殖化すれば、より安全な昆虫を安定的に供給できるようになる。また、昆虫を飼料とすることで、飼料穀物を生産する農地を節約でき、食肉生産による環境的負荷を減らせるというメリットもあるということです。

 そうした中、現在、特に注目されている食用昆虫は、コオロギとミズアブだと、氏はこの論考に記しています。これら昆虫のメリットは、食性が扱いやすく養素の含有量も豊富であること。

 (他の食用昆虫に比べて)タンパク質含有率が高く、ミネラルも豊富であることに加え、コオロギは雑食性でミズアブは腐食性(腐ったものを食べる)なので、食品ロスなどを餌にして容易に育てることができる。このため、密集飼育しても共食いしないようにするなど、事業化に向け様々な工夫と技術改良が始まっているということです。

 そしてこの日本でも、「京都こおろぎ」や「群馬こおろぎ」のように、ご当地グルメ的にコオロギの種類や味付けがちがう商品が出始めていると氏はしています。

 見た目が気になる人でも、粉状にしたコオロギを混ぜた商品なら食べることに違和感はない。さらに、家畜飼料としての利用であれば、人が食べるのは食肉のままだということです。

 昆虫を口に入れるか入れないかは、あくまで歴史的に培われた食習慣の問題。従って、おいしく食べられるよう加工さえできれば昆虫だからと構えて接する必要はないのでしょう。

 一方、消費へのハードルは「慣れ」が解決してくれるとしても、事業化にはコストや施設などの供給の安定化も重要な要素です。(ともすれば「ゲテモノ扱い」されやすい事業分野であり)新規の事業化にはそれなりの勇気も必要となることでしょう。

 そうした観点もあってのことか、現状では、(まずは)生産者の確保や法整備などが、供給拡大のボトルネックになっていると話す氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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