MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1429 定年制と働き方(その1)

2019年08月15日 | 社会・経済


 老後資金「2000万円問題」が国会で問題視される中、人生100年時代を迎え定年退職後の数十年間の生活をそれぞれがどのように支えていくかの議論が広くなされるようになっています。

 金融庁の報告書は(勿論その目的からして)年金で足りなければ投資や貯蓄によって補うことを推奨するものなので仕方ないにしても、それぞれがリタイヤまでに2000万円貯めておかなければならないというのもつらい話です。

 もとより高齢になっても働き続けることで収入を得られればそれに越したことはありませんが、現実問題としてそこには「定年制」という壁があるのも事実です。

 厚生労働省の行った「就労条件総合調査(2017)」によれば、回答のあった4,432社のうち定年制を設けている会社は95.5%に達しています。そして、そのうちの約8割(79.3%)が「60歳」を定年と定めているということです。

 もちろん、定年を65歳未満としている会社では、(その多くで)希望者が65歳まで雇用を続けられるよう、「勤務延長制度」か「再雇用制度」が用意されています。

 実際、厚生労働省の調査(「平成29年高年齢者の雇用状況」2017.10)でも60歳定年に到達した人の84.1%が継続雇用され、希望したが継続雇用されなかったのはわずか0.2%に過ぎないということです。

 因みに、勤務延長制度は定年到達者を引き続き雇用するもので、身分は正社員のままですが(役職定年などの形で)給与は何割か引き下げられることが多いということです。また、再雇用制度は、定年に到達したら、いったん退職する形をとり(退職金を支払ったうえで)翌日から改めて契約社員や嘱託社員などとして雇用する形態を指します。

 前述の「就労条件総合調査」によれば、定年後も雇用を継続する企業の約7割(72.2%)が再雇用制度を採用しており、勤務延長制度を採用している企業は約1割(9.0%)にすぎないということです。

 本格的な少子高齢社会の到来やそれに伴う人手不足などが問題化する中、現在、企業に注目されているのは(これまで思うように進んでこなかった)「定年延長」「定年廃止」の導入です。

  厚生労働省の「高年齢者の雇用状況」調査によると、従業員31人以上の会社(15万6113社)のうち、定年を65歳以上に設定している企業は17.0%(2017年6月時点)で定年制度を廃止した企業が2.6%と、合計で約2割の19.6%に達しているとされています。

 2007年には65歳以上を定年とする企業が8.6%、定年廃止は1.9%の合計10.5%に過ぎなかったということですから、ここ10年ほどで約2倍に増えている(2017年6月時点)で計算です。

 もしも定年が延長されれば従業員にとっては次の仕事を考えなくても済むし、その後の生活への心配も少なくなります。多少給料が減ったとしても、長い一生を考えれば安心には代えられないというところでしょう。

 そう考えれば、(我が身を省みても)これまでサラリーマンの人生を縛ってきた「定年制」がなくなるのは良いことづくめのような気がしますが、専門家の間にはまた違った意見もあるようです。

 6月20日の日経新聞の紙面では、能力開発のコンサルティングなどを行う「ジンザイ株式会社」代表取締役の名取敏(なとり・さとし)氏が、「定年延長に安住するな」と題する寄稿により厳しい視点を向けています。

 人手不足が顕在化する中、65歳までの定年延長を検討する企業が増えているようだが、私はこの流れにも問題があると感じると氏はこの論考の冒頭に記しています。

 定年延長となれば、スキル(技能)や経験を生かせ、雇用が安定、職探しの必要がなく安心して仕事が継続できる。給料も継続雇用より多くもらえるなど雇用企業のメリットは大きいと氏はしています。

 しかし、60歳で可能であった仕事も65歳では一段とハードルが高くなることも忘れる訳にはいかない。会社に活力をもたらすのは並大抵ではなく、企業の本音は(あくまで)「少しでも若い人を採りたい」というところにあるということです。

 定年延長は(実は)企業のメリットも少ないと名取氏は指摘しています。

 従業員の平均年齢が上昇すれば、総人件費も増える。年功的な処遇ではこれからを担う若手や中堅社員に報いきれず、組織や仕事へのロイヤリティを失って離れていくリスクも増えるということです。

 さらに、これまでの再雇用制度とは違って定年延長で高齢の正社員が増えるとすれば、シニアはあくまで戦力としてその活躍に期待されることになります。若い人のモチベーションばかりでなく、40年、50年と同じ職場で働く本人たちの会社への貢献意欲を保ち続けさせるのも大変かもしれません。

 定年延長や定年の廃止は、そうした様々な視点から考える必要のある複合化した問題であることを、この論考で名取が示した論点から私も改めて感じた次第です。



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