大企業の残業時間の上限が法律で規制される中、政府の進める「働き方改革」によって減った残業代(2019年4~6月期)を約半数の企業が社員に還元していないことが判ったと12月30日の日本経済新聞が伝えています。
国内主要企業を対象に同紙が調査を実施したところ、回答のあった145社のうち残業時間が減ったと答えたのは全体の3割で、このうち従業員に何らかの形で還元している企業は7社(14.0%)に過ぎず、11社(22.0%)は検討中で、還元していない企業が25社(50.0%)を占めたということです。
従業員への還元を実施中か検討中と答えた企業の具体策(複数回答)は「ボーナスへの上乗せ」が22.2%で最も多く、「基本給への上乗せ」「各種手当の支給」がともに16.7%で続いたと記事はしています。
多くの企業において、残業を減らしながら生産性を高め、それに寄与した社員に報いるという循環に至っていないこうした現実に対し、12月31日のYahoo newsに経営コンサルタントの横山信弘氏が「【悲報】働き方改革で減った残業代が、5割以上の大企業でまったく社員に還元されていなかった」と題する論評を寄せています。
2019年4月に施行され、企業に「残業上限規制」の新ルール(大企業のみ。中小企業は2020年4月から)を課した「働き方改革関連法」ですが、この法律の最大の特徴は、違反すれば罰則(事業主に30万円以下の罰金または6ヵ月以上の懲役が科せられる可能性)が付くところにあると、氏は説明しています。
そこで、今年度に入り、多くの企業(特に大企業)で業務の効率化や生産性アップの取り組みが、(多少の無理は承知の上で)それこそ加速度的に行われるようになったということです。
たかが残業削減と思う人もいるかもしれなませんが、経営コンサルタントである横山氏の目で見ても、(売上・利益目標の達成ほどではないにろ)これはかなり難易度が高い課題だと氏はこの論考で指摘しています。
なぜなら残業削減は「業務改革」ではなく「組織改革」だから。そこには人間の思考パターンそのものを変えるための地道なケアやアレンジメントが必要とされるため、理屈だけではなかなか上手くいかない作業になるということです。
結果を出さなくてもいいのなら、いくらでも労働時間は減らせるかもしれない。しかし、結果を維持、もしくは増やしつつ、投入する労働量を抑えるのは一筋縄ではいかないと氏は言います。
例えば、「練習量を20%削減して、でも例年通りに県大会でベスト8はめざせ」と言われた高校野球の監督どうすればよいか…そうしたことだというのが氏の説明するところです。
その一筋縄ではいかないことを(努力して)実現したのに、大半の企業はそれを従業員に還元していないのだから、現場の若い人材は残業代が減って労働意欲を落としていることだろうと氏は懸念を示しています。
さらに、その若者たちをマネジメントする中間管理職の負担は、それ以上に増えているに違いないというのがこうした状況に対する横山氏の認識です。
還元のカタチは、もちろん給与や賞与のアップのみではないだろう。福利厚生や社員育成など、いろいろなカタチがあっていいと氏はしています。
いろいろなカタチがあっていいが、企業側はキッチリ明確に報いることだ。そうでなければ「働き方改革法」を利用した人件費削減と捉えられかねない。
2020年4月からは、中小企業も含めすべての企業が「残業上限規制」の対象となるが、従業員の労働意欲をダウンさせるような働き方改革では意味がないと氏は言います。
そのためにも、企業はもっと現場に目を向け、生産性向上の難易度を正しく計測する必要がある。そしその努力に報いるよう、柔軟な制度改革を早期にすべきだと、横山氏はこの論考を結んでいます。
さて、本当のところ、この論評を読むまで私としては「働き方改革」の恩恵を手当や福利厚生によって従業員に還元すべきとの発想はありませんでした。
しかし、言われてみれば、(仕事の量は変わらない中)労働時間の削減ばかりを強いられる従業員にとって、働き方改革へのモチベーションを保つのは確かに容易ではないでしょう。 ただ闇雲に「残業時間の削減」を従業員に強いるのであれば、それは「改革」に名を借りた「労働強化」に過ぎません。
もしも、企業が「働き方改革」によって人件費やその他の固定費を削減できたのであれば、その部分をきちんと従業員に還元することで、さらなる生産性のアップにつながっていくのではないかと、私も改めて感じたところです。
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