「引きこもり」(英social withdrawal)とは、ざっくり言ってしまえば、仕事や学校に行けず家に籠り、家族以外と交流がない(社会関係資本を持たない)状況またはそうした生活をしている人のことを指す言葉とのこと。
内閣府の今年の3月に公表された調査結果を見ると、国内には(自室または自宅から出ず、近所のコンビニエンスストアなどや趣味の用事などだけは外出するといった状態が6カ月以上続いている)引きこもり状態の人が15~64歳でおよそ146万人、実に50人に1人の割合でいるということです。
「引きこもり」と言えば、高校生から30代くらいまでの(実家暮らしの)男性というイメージが強いですが、引きこもりが長期化したり、中年以降に引きこもったりする人ももちろんおり、2018年の12月に行われた内閣府の調査では、40歳-64歳の中高年層で引きこもり状態にある人は、若年層の54万1000人より多い61万3000人に及ぶと推計されています。
特に就職氷河期の影響をモロに受けた40-44歳の層では、20-24歳の時期にひきこもりが始まった人が目立つとのこと。引きこもりの期間については、中高年引きこもりの約約36.1%が「10年以上」とされており、その内30年以上引きこもっている人も約17.7%に及ぶということです。
最近のテレビアニメでは、若い頃にいじめにあって20年以上も引きこもっていたおじさんが「魔界」に転生して大活躍するという(いわゆる)「異世界もの」が流行しているようですが、それだけこの分野には(大きな)市場があるということでしょうか。
とは言え、これまで個々の過程の中で隠されてきた「引きこもり」の存在に、徐々に光が当たるようになってきたのもまた事実。これまでよくわからなかったその実態も、少しずつ明らかにされつつあるようです。
そんな折、4月5日の朝日新聞(デジタル)に『中高年のひきこもり、半数超が女性 国の調査に「ようやく実態が…」』と題する記事が掲載されていたので、参考までに小欄にその概要を残しておきたいと思います。
15~64歳でひきこもり状態にある人は全国で推計146万人とされるが、内閣府が3月末に発表した調査結果をみると、中高年(40~64歳)に限れば、その過半を女性が占めていることが判ったと記事は報じています。
こうした調査結果を受け、当事者団体は、これまでひきこもりとみなされていなかった女性たちの存在がいよいよ「可視化」された、と指摘。性別を問わず支援する必要があると訴えているということです。
こども家庭庁の発表を具体的に見てみると、40-64歳の中高年でひきこもり状態にある人のうち、女性は52・3%で半数を超えたとのこと。15-39歳でも女性が45・1%を占めたとのことで、このデータは(ともすれば)男性のイメージで語られがちだった引きこもり問題のひとつのエポックになるというのが記事の認識です。
自身がひきこもりの経験者で、一般社団法人「ひきこもりUX会議」代表理事の林恭子氏によれば、女性の当事者の中にはDV(家庭内暴力)や性被害の経験を持つ女性も多く、実態の解明は簡単ではではないとのこと。役所の支援窓口が男性職員だったり当事者の集まりが男性中心だったりすると、相談しにくいという人も少なくないということです。
さて、最近になってようやく明らかにされ始めた「男女が半々」という引きこもりの実態。実はそれには理由があって、国のひきこもりの統計はこれまで「主婦(夫)」や「家事・手伝い」を除外していたが、4年前の前回調査から、直近の半年間に家族以外との会話がほぼなかった場合を含めるようになったからとのこと。
例えひとつ屋根の下で一緒に暮らしている夫や子供、親兄弟などがいたとしても、個々の家族とはほとんど接触せず、自室を中心に生活している女性が、数万、数十万といった単位でいるということなのでしょう。
「家事手伝い」のはっきりとした定義はつとに聞きませんが、「洗濯や掃除・食事の支度、介護など日常生活に必要な仕事を手伝う人」のことを指すことが多いようです。一般に無職または無就学の未婚女性に対して用いられる言葉で、主婦や外で働いている人はもとより、学生なども含まれないのが普通です。
女性が外で働くことが少なかった昭和の時代、この言葉には、花嫁修業の一環として専業主婦の母親から洗濯や掃除・食事の支度などの家事全般を学んでいる若い女性(お嬢さん)のイメージがありました。しかし、今ではそれも大昔の話。「なんじゃそれ?」と、いぶかる若者もきっと多いことでしょう。
いずれにしても、男女を問わず「引きこもり」は、昨日今日に始まった存在ではないはずです。これまでは「家族の問題」として蓋をされてきた問題が、核家族化や孤立化の中で明らかにされるようになっただけのこと。
引きこもり生活がもたらす孤立や困窮は、個人としての機会損失ばかりでなく、社会全体の不健全さや不安にもつながるもの。暗がりにあるその存在を明るみに出し、社会制度によって支援していくべきものと改めて感じているところです。
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