一般に「GMO(Genetically Modified Orgasnisms)」と言えば、遺伝子組換え技術を用いて遺伝的性質の改変が行われた作物のことを指します。食品衛生法では「組換えDNA技術応用作物」、農林水産省では「遺伝子組換え農産物」などの表記を使うこともあるようです。
Wikipediaによれば、GMOとは商業的に栽培されている農作物等に遺伝子操作を行い、新しい遺伝子を導入し発現させたり内在性の遺伝子の発現を促進・抑制したりすることによって、新たな形質が付与された作物のこと。
除草剤耐性、病害虫耐性、貯蔵性増大、などの生産者や流通業者にメリットのある遺伝子組換え技術や、食物の成分を改変することによって栄養価を高めたり医薬品として利用できるようにするなど、消費者の直接的な利益を重視した遺伝子組換え技術などがあるということです。
一方、農作物への遺伝子組換え技術の導入に関しては、賛成派と反対派の間に激しい論争があることが知られています。
反対派の主要な論点のひとつとしては、生態系などへの影響(ダメージ)が挙げられます。新たな特性を持った作物が食物連鎖などの自然界のバランスを崩し、植物の多様性を損なうという(いわゆる)「遺伝子汚染」の可能性があるというものです。
もちろん、その背景には遺伝子組み換え技術自体を「自然生態系に反するもの」「神の作った摂理に反するもの」とみなす情緒的な問題があり、「何が起こるかわからない」という人間や技術への不信感が人々の不安を助長していると言ってもよいかもしれません。
さらにGMOについては、しばしば遺伝子組換え操作自体が食品としての安全性を損なうという主張がなされています。
例えば、オーガニック食品を扱う企業「オルター・トレード・ジャパン(ATJ)」のホームページには、「遺伝子組み換え食品の割合が非常に高い米国では遺伝子組み換え食品の出現と共にガン、白血病、アレルギー、自閉症などの慢性疾患が急増している」と記されています。
「遺伝子組み換えと健康被害の結果が完全に立証される頃にはもう取り戻せない状況になっている可能性がある。そうする前に危険を避ける必要がある。」という主張がそこでは展開されています。
さて、農作物への遺伝子組み換え技術の安全性に関するこうした懸念に対し、元京都大学教授でNPO法人オール・アバウト・サイエンスジャパン代表理事の西川伸一氏が、1月19日のYahoo newsに「遺伝子組み換え食物の安全性論争と科学リテラシー」と題する論考を寄せています。
西川氏は、この論考の冒頭「生命科学者として過ごしてきた立場から言うと、(少なくとも)外来の遺伝子を導入する組み換え自体が食品としての危険性を生み出すとは思わない」と断じています。
もちろんGMOの無秩序な導入に多くの問題が伴うことは事実である。例えば今深刻なのは、殺虫剤グリフォサート耐性のGMO作物が出来た結果、殺虫剤の使用量が増えていること。例えば米国では、ホワイトカラーの体内のグリフォサート濃度が上昇していることが報告されているということです。
そしてもう一つ懸念されるのが、(前述のように)自然の生態系を破壊する可能性だと氏は言います。
様々な耐性を付与されたGMO自体が自然界に流出すると固有種を駆逐してしまう危険性があるし、農家が使用する殺虫剤や除草剤の量が上昇することで、自然界に新たな変異体が誘導されることも考えなければならないと氏はしています。
しかし、その一方で、遺伝子組み換えにより(あえて)毒性物質を合成させるという意図がない限り、GMO自体に消費者の健康への危険性はないと確信していると氏はこの論考に記しています。
実際、組み換えられたDNAを食べたところで膵液に含まれる核酸分解酵素でDNAはズタズタになり、他の核酸と区別できなくなる。ましてや、その遺伝子が私たちの体に機能を持ったまま侵入することはまずないというのが西川氏の見解です。
遺伝子を他の個体に導入することは簡単ではなく、食べたぐらいで簡単に移るなら遺伝子治療はずっと簡単になるはずだと氏は言います。
しかし、(政府や専門家がいくら「安全」を唱えても)一般の人々にはなかなか受け入れられない。GMOという科学技術への理解が進まない限り、食べ物そのものへの不安を抱く人々の疑心暗鬼を晴らすことはできないだろうということです。
ここで氏は、今年の1月14日にNature Human Behaviour誌に掲載された、コロラド大学、ワシントン大学、トロント大学、ペンシルバニア大学の3大学共同による遺伝子組み換え食物への意識に関する研究を紹介しています。
この研究では、GMO自体は安全だとする科学的見解に強硬に反対する人の科学知識レベルを客観的に評価するため、1000人の米国在住についてDNAへの知識とGMOへの考え方への相関を調査したということです。
その結果、(1)GMOに強硬に反対する人ほど自分では知識を持っていると自信を持っている。 (2)客観テストで科学知識を評価すると反対する程度が強い人ほど点数が低い…の2点が明確となったと西川氏は説明しています。
つまり、これは「GMO自体には問題はないと考えている人は、自分の科学知識は足りないと謙虚に評価するが、実は反対派の人より生物学的知識を持っている」ことがわかったということ。さらに、同じ調査をドイツやフランスでも行った結果、25カ国中20カ国で(米国と同じように)反対派ほど客観的知識がないことが確認されたということです。
こうした結果から分かるのは、GMO自体の安全性に疑問を抱く人たちにいくら科学的リテラシーを上げための努力をしても、(強硬に反対する人は自分は知識を十分持っていると信じているので)それには見向きもしないという現実だと氏は言います
いくら科学的なエビデンスについて説明しても、その安全性について彼ら(彼女ら)の納得を得ることは困難だということでしょう。
さて、(現実の世界では)トウモロコシや大豆では1980年代から遺伝子組み換え技術の導入が積極的に進められており、世界で生産されている大豆の8割、トウモロコシの3割、菜種の3割が既に遺伝子組換え品種で占められています。2017年現在、世界規模で見れば1億9000万ヘクタールの農地で遺伝子組換え作物が栽培されたということです。
勿論、GMOの無秩序な普及には、遺伝子組み換え農産物の食品としての安全性以外にも問題もあります。
農薬耐性品種の普及によって農薬の散布量が増え、残留農薬や自然環境への影響への懸念が増したり、遺伝子組み換え企業による種子の独占により、農業生産の支配が生まれる可能性などについても対策を講じる必要があるでしょう。
しかしながら、(だからと言って)ただ感情的に農業分野へのバイオ技術の導入反対を叫んでも、生産者、消費者の双方にそのニーズがある限り、そこから取り残されてしまうのは既に避けられないのが現実です。
で、あればこそ、GMOを選択するか否かは消費者の選択の問題であること、そのためにも(選択しないという)選択肢を確保しておく必要があること、そして、消費に当たってはエビデンスに基づいた冷静な分析や判断が求められることなどについて、議論の前提となるべき(一定の)共通理解を得ておく必要があることを、改めて感じるところです。
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