MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1973 DXと女性の失業リスク

2021年09月22日 | 社会・経済


 2013年にイギリスのオックスフォード大学准教授のマイケル・A・オズボーン氏らが発表した論文「雇用の未来」で、AIなどのデジタル技術の浸透により「労働人口の47%が機械に置き換えられる」と予言されてから、既に8年の歳月が経とうとしています。2016年には経済産業省が、今後の日本でもAI等の普及により「30年度には735万人の雇用減となる」と発表し、若者たちの間に大きな不安が広がったのも記憶に新しいところです。

 当時、10年後には95%以上の確率でなくなるとされた仕事には、例えば「電話営業」「保険事務員」「データ入力係」「銀行窓口」「レストラン・カフェの店員」そしてその他大勢の「一般事務員」などがありました。さらに、「トラックドライバー」や「工場労働者」などに加え、「会計士・税理士」「システムエンジニア」などの専門職もやり玉に挙がっていたところです。

 そして、現在。実際、銀行の窓口などは次々と閉鎖され、DXの掛け声とともにデータ入力などの作業も自動化が進んでいます。昨今の税務業務は会計ソフトの普及とオンライン化の進展により、資格を持った専門家の業務はチェックや確認がメインになってきているようです。新型コロナの影響でレストランやカフェの店員、旅行の添乗員、バスガイドなどは次々と職を失っており、ヘアサロンやネイルサロンでも閑古鳥が鳴いているという話もよく聞きます。

 一昔前の日本であれば、読み・書き・算盤(計算)がある程度できて真面目でありさえすれば(少なくとも)「食うには困らない」と多くの人が考えていました。しかし、そうした義務教育で身に着けられるような能力や技術だけでは、もはや世の中を渡っていけない時代が訪れているということでしょうか。

 8月13日の日本経済新聞の特集「リスキリングで挑む~失業リスク、女性は3倍」によれば、これから先、こうした影響を大きく受けるのは、特に「女性」たちだということです。

 デジタル化によって働き手は変化を迫られており、従来の仕事がなくなることで、これまで培ってきた彼女たちの能力や知識は無用の長物になりかねないと、記事は警鐘を鳴らしています。IMFが公表したリポートでは、働く女性の14%が技術的失業リスクにさらされると試算している。これは男性の3倍超に及び、特に(現在)一般的な事務やサポート的な業務を担っている女性たちに変化を迫っているということです。

 これまでの日本では、結婚・出産などによるキャリアの中断などで、女性が非正規として働かざるを得ない状況を数多く生んできたと記事は言います。また、企業の側もそうした前提のもとに、意欲や能力が高い女性にも慣例的に補完的な業務を任せてきたということです。

 しかし、気が付けば現在の日本では、こうした(補完的な)業務が次々とデジタルに取って代わられる状況が既に生まれているというのが記事の認識です。規制が厳しい日本では、担当業務がなくなっても簡単に解雇はできない。なので、金融や商社などの大量に事務職女性を新卒採用してきた人事部は、危機感を募らせているのが現実だということです。

 さらに、今回のコロナ禍によって企業はデジタル化を加速させており、職のミスマッチが前倒しで起きる可能性があると記事は見ています。三菱総合研究所(山藤昌志主席研究員)の試算では、今から2年後の2023年には155万人の事務職が企業にとっての「余剰人員」となる可能性が示唆されている。そして、そのコストが生産性を押し下げ、日本企業の国際的な競争力を奪う可能性すらあるということです。

 そうした、ただでさえ生産年齢人口の減少が深刻な日本で、コロナ不況から経済を回復させるためにはどうしたらよいか。そこには、男性中心の社会構造を見直し、リスキリングなどを通じて女性がキャリアを続けられるようにする工夫が欠かせないと記事は指摘しています。なくなる仕事から、新たに必要となる仕事への労働移転を進めること。それができなければ企業は成長力を失い、世界の競争から取り残されるというのが記事の見解です。

 さて、かねてから日本企業は、全体の3割の社員が利潤を生んで残りの7割の人はサポートという名の定型処理をしていたと言われてきました。(世知辛い話にはなりますが)今後はこの7割をどうコストカットしていくかが、現場におけるDXの大きな目標のひとつとなっていくのは避けられなことのような気がします。

 記事も指摘するように、これから先、企業が進めるDXにより、まずは総務や経理といった部署の規模が縮小されていくのはおそらく間違いないでしょう。ただ、それはどこの企業も同じこと。今はまだ、「DXはよいことだ」「乗り遅れるな」と無邪気に旗を振っている経営者たちも、いずれ企業の「その後」を考え、競争に勝つためにはただ「コストを抑えていく」だけではダメだめなことに気が付くことでしょう。

 企業の、業界の構造変化にいかに対応し、生産性を上げていくか。(少なくともこの日本では)そのカギのひとつが女性社員の育成・活用にあることを、いち早く見抜いた企業が業績を上げていくのではないかと、私も改めて考えたところです。



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