MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1041 シリアで起きていること (2)

2018年04月13日 | 国際・政治

 
 作家の橘玲氏のコラム「日々刻々」から、内戦に疲弊するシリアの現状を引き続き整理していきたいと思います。

 軍事クーデターによりアサド政権が権力を手にしてから既に半世紀。長年の圧制に苦しんできた(国民の7割を占める)スンニ派の人々のアサド一族への憎悪は深く、いったん立場が逆転すれば旧体制への徹底した報復が行なわれるのは明らかだと橘氏は見ています。

 現政権もそのことを熟知しており、反政府軍を「皆殺し」にする以外に生き延びる道はないと考えるのは当然です。なので、10万人規模の平和維持軍を送り込み内戦終結後の治安維持を保障でもしない限り、この状況は打開できないだろうというのが今後のシリア情勢に関する氏の感覚です。

 しかし、イラクでの失敗の後、アメリカも含めどこもそんな火中の栗を拾おうとは思いません。2013年には首都ダマスカス近郊で化学兵器が使用され、サリンと見られる神経ガスにより市民など1300人以上が死亡する悲劇が起こったとされましたが、米国主導の大規模な空爆は(結局)回避されています。

 (先にも述べたように)宗教的少数派であるアサド政権は、権力を失えば「皆殺し」にされるので神経ガスでもなんでも使って敵を「皆殺し」にするしかない。EUやヨーロッパ諸国は、「シリアを民主化する」という大義のもとに反政府勢力に大量の武器を渡しましたが、結局のところ戦況を激化させただけだったと氏は指摘しています。

 その結果、混乱に乗じてIS(イスラム国)が勢力を伸ばし、シリア北部のラッカを首都に国家の樹立を宣言するに至りました。そこに白人を含む多くの若者たちが集まり、彼らがヨーロッパでテロを繰り返すようになった。そしてヨーロッパ各地で「移民排斥」を叫ぶ極右が台頭するなど、その後の様々な動きが(根っこで)シリア問題につながっているというのが橘氏の見解です。

 ISが暴虐のかぎりをつくすようになった原因はシリアの内戦なのですから、これを収束させるには大規模な地上軍を派遣するしかないと、橘氏は重ねて指摘しています。

 しかし、ヨーロッパの政治家たちは犠牲が避けられない軍事行動を決断できず、効果の薄い空爆をひたすら続けるしかなかった。

 その結果、(広く知られているように)生活の糧を失ったシリアの人々が次々と故郷を捨て、あるものは徒歩で、またある者はボートに乗ってヨーロッパに殺到するという状況を生み出したということです。

 一方、これに驚いたEUは、シリア難民支援の名目でトルコに60億ユーロ(約7800億円)を支払うことで「防波堤」とし、現在は小康状態を保っていると氏は説明しています。

 トルコ国内の難民キャンプの環境は劣悪だといわれていますが、「人権」をなによりも重視するEU政府にも、これを問題視したりする余裕はないようです。氏はこれを、トルコを怒らせ、難民がふたたび流入するようなことになるのを恐れているからだと指摘しています。

 ロシアとイランの支援を受け態勢を挽回したアサド政権は、首都ダマスカス近郊で大規模な空爆を行ない、子どもたちを含む多数の犠牲者が出ていると報じられています。

 4月7日には(前述のように)政府軍により再び化学兵器が使用された疑いが強いと報道されたこともあり、今後の米国や英・仏各国の軍事的な動向が注目されているところです。

 橘氏によれば、現在のシリアの状況に対しユニセフ(国連児童基金)は、「殺された子供たち、その父母、そして彼らが愛した人々のことを正しく言い表せる言葉がない」という一文のみの異例の声明を発表し、筆舌に尽くしがたい惨状への怒りを表現しているということです。

 ところが、ここでもEUはなんの行動も起こそうとしないばかりか、アサド政権への批判すら控えていると橘氏は指摘しています。これは、シリア国内でどれだけ死傷者が出ようとも、アサド政権が権力を維持したほうが難民の発生を抑えられると考えているからではないかというのが、現状に対して氏の懸念するところです。

 現在、米国は英仏などと共同で、アサド政権に対する直接的な軍事行動を検討していると伝えられています。

 混迷するシリア情勢ですが、関係各国の思惑の中で(無力と言わざるを得ない)シリア国民はいったいどこに連れて行かれようとしているのか。

 残念なことに、ほとんどの場合人は過去の失敗に学ぶことができない。しかしこれには例外もあって、ちゃんと学べることもあるはずだと結ばれた橘氏の指摘を、私も改めて重く受け止めたところです。




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