MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1040 シリアで起きていること (1)

2018年04月12日 | 国際・政治


 北にトルコ、東にイラク、南にヨルダン、西にレバノンと国境を接し、いわばアラビア半島の「根元」に位置する国がシリアです。

 日本人にとってあまりなじみ深いとは言えませんが、四大河文明の一つである古代メソポタミア文明に端を発する(世界でも最も古い)歴史を有し、185200㎢と日本の約半分の広さの国土を持つこの国に、現在約1800万人の人々が暮らしています。

 広く知られているように、このシリアでは2011年から7年間にわたり内戦が続いています。多数の反政府勢力が離合集散を繰り返しながら、そのせん滅を目指すアサド政権指揮下の政府軍と(市民を巻き込んだ)戦いを繰り広げています。

 一時は、第3勢力として過激派組織(IS=イスラミックステート)が勢いづいた時期もありましたが、基本的に政府軍と抵抗する反政府勢力という構図は変わっていないようです。

 この7年間の内戦での死者は、既に35万人を超えているとされています。アサド政権は、今年の2月から首都ダマスカス近郊の反政府勢力の拠点「東グータ地区」に激しい空爆や砲撃を行っており、その9割以上を制圧したということです。

 一方、この地区に対し4月7日に行われた政府軍による空爆において化学兵器が使用された兆候が示されているとの報道に、(関係国を巻き込み)事態は緊迫しています。

 呼吸困難に陥る人たちが相次ぎ、多くの女性や子どもが床に倒れ、口から泡を吹くなどして苦しむ様子が映像などで伝えられており(現地の医療団体のまとめでは)少なくとも49人が死亡し多数のけが人が出ているとされています。

 言うまでもなく化学兵器の使用は国際法違反で、反政府勢力は「アサド政権が化学兵器を使った」と非難しています。しかし、政権側はこれをでっちあげとして強く否定しており、平行線をたどっています。

 昨年の4月に、(やはり)政府軍により化学兵器を使われた疑いが浮上した際、トランプ大統領は、シリアの軍事施設を地中海上の艦船から発射した巡航ミサイルで攻撃し世界を驚かせました。

 トランプ米大統領が4月11日、ツイッターに化学兵器使用疑惑があるシリアに「ミサイルが来る」と投稿したことから、どうやら米国は今回も再び攻撃に踏み切るのではないかとの見方が広がっているようです。

 さて、そうした現状は伝わってくるのですが、何しろ遠い中東での出来事ということもあって、日本に暮らす私たちには一体何が原因でそういうことになっているのかがピンと来ないのも事実です。

 そこで、今、シリアで起きていることを、国際情勢に詳しい作家の橘玲氏のwebサイトに掲載されているコラム(「日々刻々」(2013.9.17~2018.3.19))から一度整理しておきたいと思います

 第一次世界大戦でオスマントルコが崩壊した後、中東はヨーロッパ列強の支配下に置かれ、歴史や文化、民族構成とは無関係に(列強の都合で)分割されることとなりました。そしてこの時期に、フランスの委任統治領だった地域が現在のシリアになったということです。

 同国内ではアラブ人が人口の9割を占めていますがその他にもクルド人やアルメニア人もおり、国民の7割がイスラム教スンニ派を信仰する一方で、2割はシーア派、1割はキリスト教徒だとされています。

 一方、現在のシリアの政治権力を独占しているのは少数派のシーア派で、なかでも少数派のアラウィー派に属するアサド一族のハーフィズ・アル=アサドが1970年にクーデターで権力を掌握し、以来、親子2代にわたって独裁政権を維持してきたと橘氏は説明しています。

 宗教的少数派であるアサド一族は、宗派を超えてアラブ民族の栄光を取り戻すことを目指す(汎アラブ主義の)「バアス党」を基盤に、イスラム主義による政教一致を求める多数派(スンニ派)のムスリム同胞団を徹底して弾圧してきたということです。

 こうしたことから、アラウィー派のバアス党員で構成された最精鋭のシリア政府軍や共秘密警察は、「イスラム原理主義者」からアサド一族を守るための組織として機能してきたと氏は指摘しています。

 氏によれば、独裁政権による弾圧のなかで最大のものは1982年の「ハマー虐殺」とされており、ムスリム同胞団の拠点ハマーを攻撃した政府軍の手により、1~4万人と言われる一般市民が犠牲になったということです。

 シリアの内戦は(いわゆる)「宗教戦争」化しており、シーア派のアサド一族の後ろ盾には同じくシーア派のイランとヒズボラ(←レバノンのシーア派武装組織)、そしてその背後にはロシアがいて、これに対抗する反政府勢力はサウジアラビアなどスンニ派の大国と英・米・仏などの“反イラン”の西欧諸国の支援を受けていると氏はしています。

 そして双方が武器を容易に調達できる(同盟国等から供給される)状況にあるため、いつまでたっても決着はつかず、戦闘員の最後の一人まで戦い続けることが可能な状況となっているというのが現状に対する橘氏の認識です。

 国際社会を巻き込み、市民を巻き込んで泥沼化するシリアの内戦。化学兵器の使用が事実かどうか、事実だとしたら誰がどのような目的で使用したかはわかりませんが、戦乱の背景には(やはり)歴史によって隔てられた宗教的な対立と大国の思惑があることを、改めて思い知らされるところです。

(♯1041「シリアで起きていること(2)」に続く)




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