MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

♯1255 日本が抱える問題とは

2018年12月26日 | テレビ番組


 2018年もあと数日を残すのみとなり、師走の風も一段と厳しさを増しています。

 新聞の紙面を覗けば、経済面を中心に「幻と化す新世界秩序」とか「米中協議、合意は困難」とか、「世界市場動揺続く」などといった厳しい論調の見出しが目につきます。

 日本漢字能力検定協会は今年の漢字に「災」の一字を充てました。この字の「く」の字が三つ並んだような上部は川をせき止める様子を指しており、火によって道が塞がれ動きがとれない様子を表しているということです。

 周囲りからいろいろな困難が押し寄せてくるが逃げ道はない。目前に広がる濁流を前に、自ら火中に飛び込むしかないという状況でしょうか。

 今年相次いだ台風や地震なとの自然災害ばかりでなく、米国のトランプ大統領を台風の眼として、アメリカばかりでなくヨーロッパや東アジアなどでも国際協調に大きな混乱が生まれ、大きな「災い」を呼ぶ気配が感じられます。

 好調な世界経済に支えられ、平成の時代をあれこれと迷いながらも何とか持ちこたえてきた島国日本も、いよいよ衰えた体に鞭打って新しい環境に立ち向かって行かなければならない時を迎えているのかもしれません。

 そんな折、あるテレビの情報番組(BS11「寺島実郎の未来先見塾」12月21日放送)で、「現在の日本が抱えている大きな問題」に関するファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏と評論家の寺島実郎氏の対談を目にしました。

 この対談において寺島氏は、最近、海外から帰ってくると、海外の緊張感と日本国内の感覚のギャップに驚かされると話しています。

 それは、激動の荒れた状況に突き進んでいこうとしている世界の状況に対し、日本の社会が(いつまでも)「まったり」した常温に浸っているような空気を纏っていることだということです。

 振り返れば1929年に大恐慌が起こり、1930年代には世界は自国利害中心のナショナリズムの時代に入ってヒトラーやムッソリーニのような怪物を生み出した。そして、日本もそうしたエネルギーの中で迷走していってしまったという経験を持つと寺島氏はしています。

 現在の国際社会は、既に分断の空気に覆われ始めている。我々は、よほど気を付けないと80年前と同じ轍を踏むことになりかねないということです。

 一方、柳井氏は、日本の社会は今も(昔も)同調圧力が極めて強く、何よりも安心や安定を選ぶという決まり切ったストーリーがあって、そのストーリー通りでないと満足しないという風潮が強まっていると指摘しています。

 そうした状況に「飛躍」が生まれることはなく、クリエイティブなものも生まれない。そういう社会になっていることは非常に危険な兆候である。何故なら「安定」は「衰退」の前兆だからだというのが、現在の日本の置かれた状況に対する柳井氏の認識です。

 確かに、世界中を歩いても、日本以外に(国を挙げて)「働き方改革」などと言っている国はないと、寺島氏はここで指摘しています。

 日本人は、何かと理由を付けて(あたかも)なるべく働かないで済む「安全安心」な社会を作ろうとしているかのように見える。しかし、(氏によれば)日本の様な技術と人間の英知で生きていかなければいけない島国では、生き延びるために自分の職業に対する生真面目さを持つのは当たり前の話だということです。

 若い世代が自分の人生や知識・経験の蓄積ために死に物狂いで生きていく時間を持つのはいつの時代にも必要なことで、それを否定するのは「一生成長するな」と言っているのと同じことだと寺島氏は言います。

 柳井氏もまた、人生はいろいろな知識・体験の蓄積や様々な人との交わりの連続であり、そうした積み重ねが人を成長させると話しています。企業も同じで、様々な環境に出て行って、見知らぬ人たちとタフな交渉を繰り返す中で成長するということです。

 寺島氏によれば、最近のトランプイズムに対して、国内ではなるべく穏便に、ここを凌げばやがて春の日が来るかのようなムードがあるということです。

 しかし、現実を直視すれば、トランプなるものが登場してきたこと自体がアメリカや世界の変質を象徴している。それに対して向き合っていくには、日本自身も眦(まなじり)を決して、世界に自国のアイデンティティを示していく必要があると寺島氏は説明しています。

 気が付けば、世界には現在の日本をアメリカの「周辺国」や「属国」として見る向きが増えている、世界の人々の(日本や日本人に対する)敬意が失われているというのが氏の強く懸念するところです。

 日本人が戦後なる時代を生き抜き、その中から知恵と努力で一つのビジネスモデルを作り上げてきたという誇りに立って、国際社会へのきちんとしたメッセージを打ち出すべきだと寺島氏は主張しています。

 米中冷戦時代の到来とも言われる大きな変化が予想される来年という年は、日本の真価が問われる年になるのではないかというのが氏の考えるところです。

 一方、こうした状況に臨む日本人に対し、柳井氏は「日本だけが違う」という幻想を(そろそろいい加減に)捨てる必要があるのではないいかと話しています。

 日本人や日本の企業はもっと海外に出て、海外の事情や日本の立ち位置をもっとよく知らなければならない。「グローバル化」と言われるが、実際のところ日本人はどんどん「内向き」になっているのではないかということです。

 このまま放っておけば、日本は多くの人がパスポートを持たない(トランプの支持層が集まる)アメリカ中西部のラストベルトのような国になってしまうのではないかというのが柳井氏の指摘するところです。

 さて、柳井氏の考える「グローバル化」の本質は、まさに「行動」にあるということでしょう。

 実際に自分が出かけて行って現地の人と商売をし、ものの考え方を知り、生活を体験すれば、(そうしたことでしか得られない)様々な貴重なプレゼントを受け取ることができる。リスクのないところにチャンスはないし、成長もない。

 そう信じて突き進み、わずが20年ほどの間に海外に1000本もの旗を立て、企画、生産から販売まで一貫して海外の人と一緒に働いているのが柳井正という稀有な経営者だということでしょう。

 「世界のユニクロ」を率いるトップリーダーであればこそ、その言葉の重みを私も改めて感じたところです。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿