MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1167 池上彰×子供×ニュース

2018年09月17日 | テレビ番組


 9月7日に放送された、ジャーナリストの池上彰氏をパーソナリティとするフジテレビ系列のテレビ番組で、スタジオにゲストとして招かれていた小中学生約70人のうち少なくとも20人以上が芸能プロダクションから派遣された子役タレントだったことが分かり、ネット上が「炎上」の様相を呈しているということです。

 番組では「大人は決して口に出せない...奇想天外なギモン」とのテロップを掲げ、子供から募った疑問として(例えば)「日本はアメリカのご機嫌取りばかりに見えるのはなぜ?」というテーマを取り上げていました。

 私も(たまたま)リアルタイムでこの番組を見ていたのですが、この質問を行った小6の出演者は、「トランプさんが校長先生で、安倍さんがなんか担任の先生みたい」と述べ、日本も「忖度ばっかりしているんじゃなくて、なんかちゃんと意見を言った方がアメリカも気持ちが分かる」と意見を述べていました。

 その後、スタジオに集められた多くの小中学生らから「ハイ、ハイ、ハイ」とたくさんの手が上がり、池上氏に当てられた子供たちは皆マイクを持つと(言われてみれば、確かに原稿があるかのように)随分としっかりと答えていたのが印象的でした。

 報道によれば、番組の制作陣に対しツイッター上などでは「一般の小中学生に思わせる印象操作にならないのか」「台本的な仕込みのヤラセがあるようにも思えて不快だ」といった内容の意見が相次いでいるということです。

 さらにこの問題をきっかけとして、ネットを中心に「有識者に対する池上彰さんの番組取材姿勢に非常に問題がある」という指摘が繰り返し掲載されるようになり、こちらも大きな話題となっています。

 番組スタッフとされる人物が有識者から取材を行った際に、取材内容を池上本人の意見として紹介することに同意を求められたというものです

 さて、事の真相はわかりませんが、私もこの番組を見ていて(「なんとなく」ですが)テレビを消してしまいたくなるような「居心地の悪さ」(のような違和感)を感じていたのは事実です。

 もちろんスタジオに集められているのは普通の小中学生だと思っていましたから、最近の子供はこんなに「大人びた」(言い方を変えれば「斜に構えた」)ものの考え方をするんだとか、(もしかしたら「尺」を意識していたのかもしれませんが)随分と端的に要点を抑えて話ができるんだと驚かされていました。

 しかし何より気になったのは、司会者の前にバラエティ番組の「ひな壇芸人」のように並べられた彼らが、まさに大人が(そして番組制作者が)期待するような質問や意見を「どうだ」という感じで開陳し、池上氏に「いい質問ですね」などと褒められると得意げに周りを睥睨する様なスタジオの独特な「空気感」でした。

 なんか「大人が喜びそうなこと」を言っている、「大人の期待」に応えている…彼らの立ち振る舞いにそうした悪びれなさを感じて、どうにもいたたまれない気分になったのは事実です。

 そうした印象のままこの番組を見ていた私でしたが、子供たちから池上氏への最後の「疑問」やそのやり取りの中に、(少し安心したというか)記憶に残るものがありましたので、ここに敢えて記しておきたいと思います。

 それは、中学2年生の女子から発せられた「なぜ大人になったら働かなきゃいけないの?」という素朴な疑問でした。

 スタジオの子供たちの間からは、「働かないとちゃんと食べていけないと思う」という真面目な意見が出る一方で、「ニートでも生きていける」とか「(無理やり働かされるような)『社畜』にはなりたくない」などといった素直な主張もなされていました。

 池上氏はこの問いに対し、そもそも「働く」意味とは「働いて自分は社会のために役に立っているんだ、自分はこの社会で必要とされている人間なんだと思えること。」だと答えています。

 給料がもらえるというのも勿論だけれど、「自分が働くことで世の中の誰かが喜んでくれている、あるいは人の命を助けることができている、それが「生きがい」になるんじゃないかと思う。」ということです。

 果たして、これが「大人になったら働かなければいけない理由」の答えになっているかどうかは微妙なところですが、氏の主張するのは「お金のためだけに働いても人は幸せになれない」、つまり「幸せに生きるために生きがいを持って働くのが大人だ」ということでしょう。

 さて、そこで、私ならどのように答えるだろうかと(このやり取りを聞いて)改めて考えてしまったわけです。なぜ、大人は働かなくてはならないのか?

 まず、そもそも「大人」というのはただ「齢を重ねる」だけでなるものではないということが挙げられるでしょう。

 年をとっても、犯罪を重ねるばかりの人もいれば、何もせずただぶらぶらしているだけで人生を費やす人も大勢いる。いわゆる「高等遊民」のように、お金持ちの中には消費だけして過ごす「大人になる必要のない人」もいるかもしれません。

 一般に「子供じみた」人とは、自分のことだけを考え、当面の利害だけでしか物事を判断できない人を指すことが多いようです。イメージで言えば、他者を慮ったりすることができず、感情の赴くままに癇癪を起こしたり人を傷つけたりするタイプでしょうか。

 そう考えると、大人のひとつの形は、自分の立場を(いわゆる「メタ認知」として)俯瞰的に認識し、求められる役割を演じることができる人と言えるかもしれません。

 そしてさらに言えば、大人とは、自分の周囲の人々に「価値」を生み出すことができる人ということもできるかもしれません。

 それは、(言い方を変えれば)自分の立場をわきまえ、自分のためばかりでなく社会や他者の役に立つ人のこと。

 勿論、その(「役に立つ」方法の)在り様は、給料をもらえるような「仕事」ばかりではないでしょう。子育てだったり、家事だったり、芸術だったり、人の話を聞いてあげることだったり、そこにいるだけで周りを安心させるという人というのもいるかもしれません。

 いずれにしても、詰まるところ「大人になったら仕事をしなくてはいけない」のではなく、「仕事をして社会に価値を生み出し、貢献することで初めて大人になれる」のではないかということです。

 だから、(大人にならなくても辛くなければ)一生子供のままでいてもいいわけで、実際にそういう人はたくさんいる。でも、多くの人は他者に評価されないことがしんどくて、人の役に立てないことが辛くて、幸せになるために何か仕事をして「価値」を生み出したいと思うのではないでしょうか。

 さて、そこでですが、敢えて言えば、子供でなければできない発想を楽しみに(番組の視聴者である)大人たちはこの番組にチャンネルを合わせていたはずです。

 で、あればこそ、(君たちは)大人の期待などを気にせず素直に自分の感想や疑問をぶつければよいのではないかと、池上氏の番組を見て感じたところです。



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