第一生命保険株式会社が毎年行っている、全国の小学生・中学生・高校生 計 3,000 人を対にした第 33 回「大人になったらなりたいもの」のアンケート調査結果が、今年も3月16日に発表になりました。
小学生・男子では、昨年に引き続き「会社員」が1位(9.6%)、「YouTuber/動画投稿者」が2位(9.3%)となり「サッカー選手」が8.1%で3位に続いています。一方、女子では「パティシエ」が前回と変わらず1位(13.2%)で、2位は昨年6位だった「看護師」と「幼稚園の先生/保育士」が7.2%で同着となっています。
これが中学生になるとぐっと現実味を増し、男子では会社員がぶっちぎりの19.1%の1位。以下、公務員(7.6%)、ITエンジニア/プログラマー(6.6%)と続きます。女子はこちらも会社員が11・8%と断トツの1位となったほか、2位は看護師の6.7%、3位は医師の6.0%といったところです。
因みに、社会人のリアリティがさらに増す高校生では、男子の1位・会社員の割合は22.8%とさらに高まり、2位の公務員(12.7%)、3位のITエンジニア/プログラマー(8.6%)、4位の教師(5.1%)まで加えれば、全体の約半数、上位5位までをサラリーマンが占める格好になります。高校生の女子も傾向は変わらず、1位は会社員の18.7%、2位は公務員の9.4%、3位が看護師の7.4%と、その堅実感は半端ありません。
この結果をどう見るかは人によって異なるかもしれませんが、少なくとも私にとって、漠然とした「サラリーマンという職業が、子供たちの目にそんなに魅力的に映っているというのは正直、驚きとしか言いようがありません。
選択肢の少ない子供のこと、起業家や投資家を目指せとは言いませんが、大工さんや床屋さん、レストランのシェフなどの身近な職業は、子供の目にはあまり魅力的に映らないのでしょうか。
そんなことを考えていた折、4月27日の「Newsweek日本版」に経済評論家の加谷珪一(かや・けいいち)氏が「なりたいもの第1位は「会社員」──ここに日本社会の「異常さ」が表れている」と題する一文を寄せているのが目に留まりました。
氏は今回の調査の結果について、諸外国で「あなたの仕事は?」と質問すれば、ほぼ100%、セールス、プログラマー、マーケティングなどの、「職種」で答えが返ってくるはずで、「会社に勤務している」といった「就業形態」を答える人はまずいないだろうと指摘しています。
ところが日本では会社員という「就業形態」を示す用語が、職種を説明する用語として機能している。自己紹介においても「会社員」は極めて標準的なパターンで、ビジネスパーソンの中には「上場企業です」あるいは「名もない小さな会社です」など、勤務する企業の大きさや社会的な地位などを紹介する人までいるということです。
日本のビジネスパーソンは「就職」ではなく「就社」するなどと揶揄されてきた。こうした自己紹介の在り方には、専門性が必要とされず、無難なゼネラリストが求められている日本独特の雇用環境が大きく反映されていると氏は話しています。
いわゆる日本型雇用の下では、自己紹介に会社の規模や地位などが入り込んでしまうのは普通のこと。そこには、それ(会社名や役職)がある種の身分として機能している現実があるということです。
実際、日本において、企業における賃金は(その多くは)業務ではなく帰属や年齢に対して支払われるため、人材の最適配置が進まないといった弊害が生まれていると氏はしています。
そこで、近年では業務に対して賃金を支払うという、いわゆるジョブ型雇用の導入を進める企業が増えてきている。業務に対して賃金を支払えば、理屈の上では、年功序列による昇給はなくなる。そのため今後は、(厳密には勤続年数などが考慮されるとしても)事実上の賃下げになる社員が増える可能性が高いというのが氏の認識です。
諸外国では業務に対して賃金を支払うのが常識であり、日本だけが特殊な雇用形態だったという現実を考えると、ジョブ型雇用への流れはほぼ不可避ではないかと氏は言います。そう考えれば、日本でもいずれ「会社員」という職種はなくなり、具体的な職種で自己紹介をする時代がやって来るかもしれないということです。
一方、(不思議なことに)このアンケート調査では、小学生の女子は、1位がパティシエ、2位が看護師だったので、典型的な職種回答となっている。無意識的なものかもしれないが、女子のほうが既にジョブ型雇用を意識しているとも言えるし、会社における男女格差についても何となく理解しており、手に職を付けたいとの希望の表れであるとも解釈できようと氏は話しています。
女の子たちは既に、現在の「会社員」が置かれている状況が自分たちにふさわしくないものと感じている。仕事は「与えられるもの」ではなく、「選び取るもの」だということを理解しているということでしょうか。
いずれにしても、労働市場が企業という狭い枠から抜け出し、「人材」を広く求める方向に大きくシフトしつつあるのは(おそらく)事実でしょう。そうした中では、機会均等という点も含め、男女間における職業意識の違いも大きくないほうが望ましいだろうとこの論考を結ぶ加谷氏の指摘を私も興味深く読んだところです。
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