MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2175 「シン・ウルトラマン」の真(シン)の狙い

2022年06月07日 | 映画

 エヴァンゲリオンシリーズを監修した庵野秀明氏が企画・脚本を担当するということで、かねてから注目されていた映画「シン・ウルトラマン」がいよいよ劇場公開され話題を呼んでいます。

 公開から3日間で9.9億円の興行収入をたたき出したこの作品。これは2016年に公開され社会現象を巻き起こした『シン・ゴジラ』の初日3日間の1.2倍の数字ということで、期待の高さがうかがわれます。

 その後も観客動員数は順調に伸びているようで、6月5日には公開から24日間で200万人を超え、興行収入は31.8億円を突破したとの報道もありました。

 庵野作品についてはひと通りチェックしてきた私も、(たまたま身体の空いていた)5月13日の劇場公開初日に大スクリーンが売りのIMAXシアターに足を運びましたが、その完成度は庵野ファンの期待に沿うものと言ってよいと感じました。

 ネットの反応などを見るかぎり、「シン・ゴジラ」の持っていた重厚さなどを期待する向きには、その軽さやオタクっぽいマニアックさが物足りなく見えたかもしれません。

 しかし、もともと「正規の味方」が宇宙人の侵略から地球を守るといった荒唐無稽な話なのですから、お楽しみはもっと別のところにあると考えるべき。昭和の高度成長期の子どもたちに夢を与えた「ウルトラマン」のオマージュとして、映像の美しさに感心したり、ちょっとしたウィットにニヤリとしたりするのが、この作品の楽しみ方だと心得たところです。

 そんな折、5月28日の東洋経済ONLINEに、ネットメディアを中心に幅広い評論活動を行う(評論家の)スージー鈴木氏が、「シン・ウルトラマン=おっさんホイホイの理由」と題する興味深い解説を寄せいていたので、参考までに小欄で紹介しておきたいと思います。

 長年温められてきた庵野作品として公開前から話題となっていた「シン・ウルトラマン」ですが、同じく、脚本:庵野秀明、監督:樋口真嗣による『シン・ゴジラ』(2016年)のヘビーな仕上がりから、(観に行く前は)重々しい作品になるだろうと少しばかり緊張していたと氏はこの寄稿に記しています。

 しかし、そうした予想も良い意味で裏切られた。途中からは思わず笑ってしまうシーンもチラホラ出てきて、(気が付けば氏は)マスクの下で「おいおい」「マジかよ」「あちゃー」と小声でつぶやきながらスクリーンを観ていたと氏はしています。

 そして、「これは我々、中高年男性が、理屈抜きに楽しめる映画なのではないか」と思い直した。言わば、おっさん世代がいとも簡単に吸引される「おっさんホイホイ」として成立しているのがこの『シン・ウルトラマン』だというのが氏の感想です。

 今回、氏が最も注目した「おっさんホイホイ」性は、作品の持つ喜劇性。皮肉の効いた「コント性」のようなものだと氏は説明しています。

 言い換えれば、「ショートコント『日本のおっさん社会』」といったようなもの。特に後半は、おっさんのパロディ化をおっさんが笑う、極めて優秀な「コント」だったというのが氏の見解です。

 例えば、首相や大臣、官僚など、絶えず集団でウロウロ動いているネクタイ組が、何事も主体的に判断せず、ザラブやメフィラスにいとも簡単に騙されてしまうところ。このあたりは、昭和のサラリーマン喜劇映画によく出てくる、態度は横柄なのに中身がポンコツな上司の姿とダブると氏は言います。

 このメフィラス(山本耕史、好演)がまた最高で、「メフィラス」と書かれた縦書きの名刺を差し出したり、「河岸(かし)を変えよう」という劇的に昭和なセリフを放って、神永(斎藤工)と一緒に浅草の居酒屋で交渉を始めたりと、昭和サラリーマンのパロディのような展開がいよいよ極まる。

 極めつけは、巨大化する浅見(長澤まさみ)で、巨大化したその姿はセクシャルというよりはいたってコミカル。氏にはその様子が、「この映画は笑っていいんだ」という信号のように感じられたということです。

 「私は、この映画は同世代の中高年男性と、酒を飲みながら笑いながら観たい映画だと思った」と、氏はこの寄稿に綴っています。

 「おっさんホイホイ」には、3種類のとりもちが塗られている。それは、①原作への忠実性、③テーマの現代性、③喜劇性(コント性)の3つで、これらが黄金比率で調合された香りは、中高年男性を十分に惹き付ける魅力的なものだというのが氏の見解です。

 映画作品と言っても、自宅において「早送り」で観ることが一般化されつつあるこの時代。あえて映画館で観ようという映画には、必要以上にシリアスかつ大仰なものとなる傾向(そして期待)が生まれているのかもしれないと、氏はこの寄稿の最後に指摘しています。

 当然、作品への評価・批評も硬派で濃厚な論調が主流となる。そうした中、もっとシリアスにもできたはずなのに、なぜ庵野氏はこの作品をこのような「軽い」風味にまとめあげたのか。一方、本来、映画の楽しみ方は、そんな堅苦しいものばかりではないはず。もっと力を抜いて楽しめる、無邪気さがあって良いと私も感じます。

 日本映画を巡る現在の状況に、一石を投じる形で世に出された今回の「シン・ウルトラマン」。それが「期せられた」のものなのか、「期せずして」のものなのかはわかりませんが、何とも世知辛いこの時代、おじさんたちが気楽に笑い楽しめる良作にまとまっているのではないかと、私も(ホイホイ釣られた)一人として改めて感じているところです。

 



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