5月10日に第20代大韓民国大統領に就任した尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏は、大統領就任式出席のために訪韓した林芳正外務大臣と会談し、日韓関係の改善に向け緊密に意思疎通を図ることで一致したと報じられています。
会談に当たり林氏は、「冷え切った日韓関係を発展させていくためには、旧朝鮮半島出身労働者(元徴用工)問題をはじめとする日韓間の懸案の解決が必要だ」と、新政権に軽いジャブを放ちました。これに対し尹氏は、「我々は日韓関係を重視しており、関係改善に向けて共に協力していきたい」と大人の対応で応じたとされています。
尹氏は、ウォールストリートジャーナルなどの外国メディアのインタビューにおいても「日本とも関係改善を目標」とすると発言しており、(少なくとも就任に当たっては)日韓関係を前向きに進める意欲を強く感じさせるところです。
同氏は、岸田文雄総理との電話会談でも、歴史問題よりも日韓の協力関係の強化を強く訴えており、かつて文在寅氏が大統領就任の翌日、安倍晋三前総理との電話会談で「(韓日)感情上、慰安婦合意の受け入れは難しい」と述べたのと比べ、状況は大きく異なります。
果たして、安倍政権が2019年に行った半導体材料の対韓輸出規制措置以降、一般韓国人の日本への嫌悪感とともに冷え切った観のある日韓関係は、新大統領の就任によって改善の方向に向かうのか。
振り返れば2018年後半以降、慰安婦問題日韓合意に基づく慰安婦財団の解散や韓国海軍艦艇による自衛隊機への火器管制レーダー照射などで日韓の対立は深刻化。さらに、徴用工訴訟で韓国大法院が日本企業に賠償を命ずる判決を下したことに反発した安倍政権は、その報復措置としてとして「輸出管理の強化」(=いわゆる『ホワイト国』外し)という荒業に打って出ました。
これに対し、(政府の扇動の下で)韓国世論は紛糾。「ノージャパン運動」と呼ばれる日本製品の不買運動やアニメや映画などの日本文化のボイコットが感情的に進んだのは記憶に新しいところです。
さて、それから3年の歳月を経た現在、今回の保守派新政権の誕生により、日本が輸出規制を維持していることは日米韓の協力強化路線に見合わないとの指摘も生まれてきそうな気配です。
そもそも、安倍政権が「単なる安全保障上の措置」とうそぶいた輸出規制に、どんな効果やメリットがあったのか。5月20日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」に、「対韓輸出規制という黒歴史」と題する興味深い一文が掲載されていたので、その概要を残しておきたいと思います。
間もなくバイデン米大統領が訪日する。北朝鮮の脅威が高まる中、影響力が高まる中国に対抗していくためにも、「日韓関係の改善」は米国の北東アジア政策の中でも優先順位が高いことは言を待たないと筆者はしています。
日韓間の争点には色々あるけれど、この機会に確認しておきたいことがある。それは3年前に実施した半導体材料の輸出規制は「失敗だった」ということだというのが、このコラムで筆者の指摘するところです。
2019年7月、日本政府はレジスト(感光材)などの、3種類の半導体材料の韓国向け輸出を制限した。表向きの理由は「輸出管理に不適切な事案があった」ため、簡略化していた手続きを以前の状態に戻すという決定だったということです。
当時の安倍晋三首相は「元徴用工訴訟で対応を示さない韓国政府への事実上の対抗措置」との認識を示していた。また「半導体材料という500億円程度の輸出を規制して、15兆円規模の韓国半導体産業全体に打撃を与えるレバレッジの高い制裁手段」との評価もあったと筆者はしています。
また、政治的には直後に参議院選挙が控えており、有権者の「反韓感情」に訴える狙いもあったことは想像に難くないというのが筆者の認識です。しかし、実際に韓国の半導体産業が受けた被害はさほどではなかった。それどころか、文在寅前大統領は5月9日の退任演説において、「日本の不当な輸出規制による危機を克服した」とアピールさえしていると筆者は指摘しています。
私たちはこの状況をどう受け止めるべきか。輸出規制が「効かなかった」ことよりも、相手国に道義的な優位性を与えたことを恥じるべきであろう。これは、日本の通商政策の歴史における、「黒歴史」と言っても過言ではないというのが筆者の見解です。
近ごろは、「エコノミック・ステーツクラフト」なる言葉が幅を利かせている。経済活動を利用して他国に影響力を行使するものだが、対ロシア制裁が思ったほど効果を上げていないことから見ても、その実現は簡単でないと筆者はしています。
複雑な経済の動きを単純な政治の意図に従わせることには土台、無理があると筆者は言います。「ビジネスを使って他国に圧力をかける」という発想自体、元来、わが国にはなかったもの。国連安全保障理事会や主要7カ国(G7)の制裁に足並みはそろえるが、2国間ベースでは行わない。「意地悪をされても仕返しはしない国」であったということです。
日本が信頼され、尊敬される貿易相手国であり続けるためには、政治を商売に持ち込まない、ルールを政治的に歪めないゆがめない誠実さが必要であるのは言うまでもありません。
10年間続いた安倍政権に、何やら子供じみた未熟さを今さらのように感じるのは、そうした(国の尊厳をかけて大切にしなければならない)最も基本的な部分を理解できていないところに尽きるのではないかと改めて考える所以です。
そうした視点に立ち、この国にとって自由貿易体制の維持こそが核心的利益であるのなら、経済安全保障においても「専守防衛」であるべきだとこのコラムを結び筆者の指摘を、私も重く受け止めたところです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます