米国共和党の大統領選候補者選びのための、予備選挙に向けた熱気が高まっているようです。ドナルド・トランプ前大統領が(相変わらず)支持率で首位を独走する中、2番手につけてきたロン・デサンティス・フロリダ州知事の支持率が伸び悩みを見せ、マイク・ペンス前副大統領など他の候補の出馬宣言が相次いでいるとされています。
ポルノ女優に不倫の口止め料を支払ったとされる問題で訴追されるなど、相変わらず話題に事欠かないトランプ前大統領。しかし、(この無茶苦茶な)トランプ氏に批判の刃を向ける他の候補者たちが何やら小粒に見えるのは、どうやら私だけではないようです。
6月7日の日本経済新聞が、5月30日付の英紙「FINANCIAL TIMES」に掲載された同紙インターナショナル・ポリティクス・コメンテーターのジャナン・ガネシュ氏による「響かぬデサンティス氏」と題する論考を掲載していたので、参考までに小欄にその概要を残しておきたいと思います。
大統領選に向け、共和党候補の指名争いに名乗りを上げたデサンティス・フロリダ州知事。彼が大統領選で前大統領にとって代われるかどうかは、ポピュリズム(大衆迎合主義)の基本的な性質を彼がどれだけ理解しているかにかかっているというのが、この論考におけるガネシュ氏の認識です。
デサンティス氏は「本選での勝ち目」と「行政能力の高さ」を売りにしているが、党の予備選で有権者が(もしも)こうしたものを重視しているのなら、勝負はもうついたようなものだとガネシュ氏はこの論考に綴っています。
実際、デサンティス氏やニッキー・ヘイリー元国連大使の方が大統領選でよい結果を残せると内心思っているトランプ支持者はきっと多いに違いない。しかし、それでも(現実には)前大統領への支持は揺らいでいない。なぜなら、デサンティス氏やヘイリー氏は仲間意識を授けてはくれないし、前大統領ほどリベラル層を怒らせることもないからだと氏は言います。
デサンティス氏が誇る行政能力は、(そうしたトランプ支持者の前では)ほとんど意味を持たないというのがこの論考でガネシュ氏の指摘するところです。メキシコ国境の壁を建設できなかったことで、前大統領はどれだけ支持基盤を失ったというのか。国民が記憶する限り最大規模の保護主義的な法案の成立に感謝して、前大統領の支持者がどれほどバイデン大統領に乗り換えたというのか…。
そう考えれば、デサンティス氏は気の毒なほど論理的だと氏は続けます。彼は、政治とは「何かを成し遂げること」だと考えている。こうした合理的な思考のせいで、かつての教会や労働組合に代わって人々の帰属意識を高めることがいかに大事かに気づいておらず、この一点においてその思考はリベラル層と変わらないというのがガネシュ氏の見解です。
おそらく最初のうちは、ポピュリズムの原動力は(確かに)具体的な物への不満だったかもしれない。ところが2016年ごろから国民の分断が深まると、(政策の中身よりも)どの集団に属するかの方が重要になり始めた。そして前大統領は、それをライバルの誰よりも強く感じ取っていると氏は指摘しています。
そうした中では、デサンティス氏がいかに誠実で実行力のあるポピュリストだということを主張し証明しても、それは大した問題にはならない。大きな州を率いてきた実績さえ不利に働くだろうということです。
本当のポピュリストは、官僚のように忍耐強くデサンティス氏の報告書に目を通したり、考えを実行に移したりしはしないと氏は言います。(氏の弁によれば)共和党候補者選びのテレビ討論会で、デサンティス氏と相対した前大統領が米人気アニメ「ザ・シンプソンズ」の主人公のように、「ナード(ださい奴)」と大声で毒づく姿が目に浮かぶようだということです。
筋金入りの右派で、前大統領よりはるかに質素な環境で育ったにもかかわらず、デサンティス氏はまるでブッシュ家(注:比較的穏やかな主張を掲げる裕福な共和党の政治家一族)の子孫のようにみなされているとガネシュ氏は話しています。
トランプ前大統領の支持層にとって、(そのような彼が)世の中に受け入れられそうな政策を掲げているうちは決して救世主とはなり得ない。虐げられている我々を導いてくれるのは、この(ろくでもない)世の中の破壊者だけだということでしょうか。
そうした中、デサンティス氏がトランプ氏に勝つためには、(ポスト・トランプを担う者として)自分に期待されている役割やポジションを冷静に見極める必要があると氏はしています。
トランプ支持者の心を動かすのはビジョンや政策などではない。現代の政治とは「何かを成し遂げること」と考えているうちはトランプにとって代わることはできないだろうと話すガネシュ氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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