MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯195 アナ雪症候群(シンドローム)

2014年07月10日 | 映画

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 ウォルトディズニー・アニメーション・スタジオズの製作によるアニメーション映画『アナと雪の女王』が爆発的にヒットしています。昨年秋に全米で公開され、既にアニメ映画としては歴代世界トップの興行収入を塗り変えたということです。

 日本での興行収入も、7月1日時点で既に242億円を突破。累計の観客動員数も既に1800万人を超えており、「ハリー・ポッターと賢者の石」を上回る日本歴代3位、世界歴代5位と、今世紀最高の興行記録となることは確実と期待されているようです。

 アイドル評論家を標榜している作家の中森明夫氏がこの「アナ雪」こと、「アナと雪の女王」の人気の理由を読み解いた論評が、「中央公論」誌への掲載を断られたという評判とも相まって、現在Web上で話題を呼んでいます。

 御覧になった方も多いと思いますが このディズニー映画「アナと雪の女王」は非常に高度なCGを駆使したアニメ作品で、実写と見まごうばかりの美しい背景のもとで立体的なキャラクターが歌い踊る、アニメのイメージを一新する新しいタイプのミュージカル作品として見事な完成度を示しています。

 この「アナ雪」。これまでのディズニーアニメの定番であった、「スノー・ホワイト(白雪姫)」や「リトル・マーメイド(人魚姫)」に代表される「王子様」と「お姫様」のラブストーリーとは少し毛色が違う、「雪の女王」である王位継承者の姉エルザと、自由で純粋に生きてきた「妹」アナの姉妹の関係を基調とした人間ドラマであることが特徴です。

 中森氏は、この「アナ雪」の王子様の存在価値を否定するストーリー展開を、大きな驚きをもって受け止めたということです。

 「アナと雪の女王」のメッセージはある意味明白だと中森氏は言います。王子様なんかいらない。いや、王子様こそ極悪人だ。こんな過激なメッセージを持つ物語がなんとディズニーアニメとして作られ、記録を塗り変える爆発的大ヒットを記録している。「アナ雪」は世界中の将来世代の(特に女性の)意識の中に、強くそのメッセージを刻み込むことになるだろうと中森氏は指摘しています。

 さらに中森氏が驚いたのは、観客たちの反応だということです。客層の7割程度が女性であり、映画が終わって館内の灯りがつくと、年配の方から子供たちまで世代の異なる女性たちが、みんな実に生き生きとした顔をしていたと中森氏は言います。

 明らかにこの映画の受け止め方には、男女差があるというのが中森氏の認識です。劇中で最も盛り上がるテーマ曲の「レット・イット・ゴー」が流れるシーンで、観客たち間に「ありのままで行こう」という大合唱が巻き起こる様子は、これまでの映画鑑賞の枠を超えた印象的なものであったと中森氏は感慨を持って述べています。

 確かに、私も、一般的に言って映画のテーマ曲はエンディングやクライマックスに流れるものだと認識していました。しかし、確かにこの「レット・イット・ゴー」はストーリーの中盤、姉のエルサが王国を追放され、山奥で自らの魔力を全開にするシーンで(「えっ、ここ?」という感じで)流れる曲なのです。

 これは実に示唆的なポイントだと中森氏は指摘しています。雪の女王エルサと妹のアナは、見かけは姉妹だが「実は一人の女の内にある二つの人格なのではないか」というのが、この論評における中森氏の見解の眼目です。

 あらゆる女性の心の内に「エルサ」と「アナ」は共存している。中森氏によれば、「雪の女王」が象徴しているのは、自らの能力を制御なく発揮する女性の姿ではないかと中森氏は指摘しています。

 幼い頃、思いきり能力を発揮していた女たちは、ある日突然「そんなことは女の子らしくないからやめなさい」と禁止される。傷ついた彼女らは、自らの能力(=魔力)を封印して、凡庸な少女アナとして生きるしかない。そうして押さえられてきた自らの思いが姉のエルザの姿とダブり、「レット・イット・ゴー』の歌とともに多くの女性達の中で昇華されていくのではないかという見解です。

 女は誰もが自らの内なる「雪の女王」を抑圧し、王子様を待つ凡庸な少女として生きることを強いられている。エルサとアナに引き裂かれた女性の人格の有り様(ありよう)を、私は「アナ雪症候群」と呼んでみたいと中森氏は言います。

 この映画は、女性達に「ありのままに生きる」ための勇気を与えることに成功している。これからの時代、世界中の女性達が、高らかに「レット・イット・ゴー」を唄うことで、自らの内なる雪の女王を「ありのまま」解放するその様子を是非見つめていきたいと期待する中森氏の論評を、今回、大変興味深く読んだところです。


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