時間をもてあましていた大学4年の夏。昼近くに目が覚めると、夕べは確か仕舞い時の銭湯に駆け込んだはずなのに、Tシャツがどうにも汗臭い。
4畳半の下宿には当然エアコンなどあるはずもなく、これば駄目だと高田馬場まで出て、冷房の効きすぎた名画座で「ディアハンター」を観る。ベトナム戦争、アメリカの憂鬱、ロシアンルーレット、そしてサイゴンの喧騒。かなり長い映画だった。
タバコ臭い館内の一番後ろの席でディープな世界に入り込み、多少ぐったりしながら映画館を出ると外はもう真っ暗。盛り場もすっかり夜の装いで、客引きのお兄さんなんかがぼちぼち通りに出て、サラリーマンに声をかけたりしている。
サークルのたまり場に3日ぶりに顔を出すと、8時にもなろうと言うのに同期の仲間が何人かクダを巻いていて、「あいつ、内定出たんだってよ」なんてだらけた世間話を30分ほど。
そういうつもりもなかったのだけれど、メンツが集まったので「じゃ、そろそろ」と1時間50円の雀荘に繰り出し、晩飯のカレーライスを食べながら半チャン4回。ひとりがバイトの時間だと言うので「そんじゃ」なんて言いながら精算すると、「あ、今日もプラマイゼロか。お前、いつも手堅いねえ…」なんて言われてムッとする。
夜になっても蒸し暑い。都電の駅までぶらぶら歩いて終電近い空いた車内に乗り込み、窓に寄りかかって外を見る。面影橋を過ぎると大きく揺れて左にカーブ。正面に完成間近かのサンシャイン60の黒い影が見えてくる。屋上で赤いライトがゆっくりと点滅しているのがよくわかる。
近所にできたばかりのコンビニで缶ビールのロング缶を1本買って、レジ袋をぶら下げながら下宿の階段をギシギシ上がる。熱気がたまった部屋の窓を開け、窓際に腰掛けながら煙草を吸うと、ああ今日も一日終わったな…と妙に納得したりする。
それからかれこれ30年。こうしたひとつひとつの瞬間が確実に自分に積み上がっていることがちょっと不思議でちょっと嬉しい。同じ銘柄のロング缶を開けながら、それをとても「ありがたいこと」だと思う自分が、今、ここにいるということ。
何で急にそんな事を思い出したのか自分でもよくわからないのだけれど、過去のどうでもいいような毎日が、一日がバタバタと過ぎていく現在にもきちんと繋がっていることを確認してみたかったのかもしれない。
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