MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2323 韓国の不動産バブルはどこへ行く

2022年12月25日 | 社会・経済

 政府の強力な不動産規制政策とコロナ禍による景気の不確実さにもかかわらず、都市部のマンションを中心に不動産価格が高騰を続けている韓国。宅地開発などを手がける土地住宅公社(LH)の職員らがソウル郊外の住宅開発地域の土地を不正に購入していた疑惑が発生し、若い世代が猛反発。文在寅前大統領の支持率が大幅に下落したのも記憶に新しいところです。

 市民団体である韓国経済定義実践市民連合が昨年1月に発表した報告書によると、ソウルの25坪のマンションの売買価格は、2003年1月の3.1憶ウォンから2020年12月時点で11.9億ウォンまで上昇。約18年間で3.8倍(8.8億ウォン)にまで値上がりしているということです。文在寅政府が誕生した2017年5月から2020年5月までの3年間だけを見ても、ソウルの25坪(82.5㎡)のマンションの売買価格の上昇率は53%に達するとされています。

 同団体の試算によると、毎年、年収の30%を貯蓄した韓国の一般的な労働者が、ソウルの25坪のマンションを購入するまでにかかる期間は実に118年。大統領が変わったタイミングでも状況に大きな変化はなく、これから家庭を持とうという若い世代のため息が聞こえてくるようです。

 しかし、(良い悪いは別にして)そんな韓国にも、いよいよ不動産バブル崩壊の兆しが見え始めているとの報道があるようです。11月29日の日本経済新聞(「韓国の不動産一転下落、利上げで逆風強まる」)によれば、同国における11月の不動産売買価格(全国平均)は、前月比1.1%下落。韓国銀行(中央銀行)の急速な利上げに伴い不動産市場への逆風が強まっているということです。

 経済成長が続いてきた韓国では、過去5年間でマンション価格がおよそ1.8倍に急騰。前月比1.1%の下落は、アジア通貨危機後の1998年6月以来となる24年ぶりの下げ幅となったと記事はしています。7月をピークに、8月の0.1%から9月0.2%、10月0.6%、11月1.1%と下落幅を広げ、人口が集中するソウル市では前月比0.9%下落したということです。

 市況の冷え込みをもたらしたのは、第一に金利の上昇とのこと。韓国銀行は6会合連続で利上げを実施し、政策金利を年3.25%に引き上げており、2021年8月以降の利上げ幅は累計で2.75ポイントにのぼると記事は記しています。

 結果的に9月末の平均貸出金利は4.79%と前年同月比で1.78ポイント上昇しており、利子負担が重いために住宅ローンが組みにくく、持ち家を購入しようという意欲が後退している。利上げ加速と値下がり予想で一般市民の購入意欲が萎縮しており、価格下落が長期化する可能性があるいうのが記事の見立てるところです。

 文在寅前政権下の5年間でマンション価格は全国で1.8倍、ソウル市では2.2倍に急騰。新型コロナウイルス下の金融緩和で不動産市場に資金が流入し、ソウル市のマンション平均価格は(日本円で)1億円を突破した。一方、このことで市民の不満が高まり、22年3月の大統領選での政権交代の引き金にもなったと記事は言います。そうした中、急激な価格高騰に伴って家計負債も急増。韓国銀行によると、21年末の家計負債額は1861兆ウォン(約190兆円)と16年末比で39%も増加したということです。

 さて、ここで問題になるのが、(市民による不動産購入資金の)8割超が変動金利による借り入れであることだと記事は指摘しています。不動産価格の継続的な値上がりを見越して収入に見合わない住宅ローンを組んだ世帯も少なくない。仮に5000万円の住宅ローンを変動金利で組んだ場合、現時点の利子負担は年240万円にのぼり、家計部門の負債が消費全体に大きな影を落とすことになるというのが記事の懸念するところです。

 さてさて、ここまで記事を読んで、ある種の「既視感」を感じる日本人は(もちろん)私だけではないでしょう。日本の「失われた30年」を教訓としていた彼の国も、気が付けば同じ轍を踏もうとしているのか。

 尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領はこの8月、規制緩和などで今後5年間で270万戸分の住宅を供給すると表明し、首都圏中心にマンション開発が進んでいると記事はしています。一方、下落局面に入ったとみられる不動産市場は、政府主導の住宅供給拡大によって価格の下落に拍車がかかる可能性もあるとのこと。諸物価高騰の折、無理して買った不動産だけが値下がりしていくのでは、「泣きっ面に蜂」といったところかもしれません。

 結局のところ、庶民が暮らしにくいのは日本も韓国も同じこと。尹大統領率いる政治リーダーの面々にも、いよいよ慎重なかじ取りが求められる局面が訪れているということでしょう。



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