引き続き、サラリーマンの日本型昇進システムに関しての話題です。
「インテリジェンスHITO総研」の研究員である森安亮介氏は、昨年8月のHITO総研メールマガジンの中で、日本に特有なこのような(「選別のタイミングが遅い」という)昇進システムの課題について興味深い指摘を行っています。
森安氏は、こうした日本型昇進システムのメリットを、
① 従業員のモチベーションに配慮していること
(長期間にわたり従業員のモチベーションを保つことができること)
② 従業員の能力評価を正確に行うことができること
(長期間にわたりじっくりと能力評価を行うことができること)
の二つに大きく括った上で、課題は特に、後者の「従業員の能力評価を正確に行うことができるかどうか」という部分にあるとしています。
確かに短期間での評価では運不運などに左右されることもあるでしょうし、そうした意味で「早期選抜」のシステムが誤った評価を下すリスクを孕んでいることは事実です。その点、「遅い昇進」は長い時間をかけ複数上司の評価を経た者が昇進するため、理論上は評価の精度を高めることができると考えられます。
しかし、(若干し古い話で恐縮ですが)昨年話題となったドラマ「半沢直樹」にも見られるように、こうしたシステムの下で昇進した幹部社員が、必ずしも職責に適任な人材であるとは言いきれないことは現実社会を見れば明らかです。
こうした状況について森安氏は、このドラマ(半沢直樹)を参考に、日本型昇進システムの「機能不全」の原因が以下の2点にあると指摘しています。
その一つは、評価に当たって「業績のみを見ている(業績に目がくらんで他のマイナスの要素やプラスの能力を見逃している)」という点です。ドラマの敵役であった(半沢の上司の)「浅野支店長」の行動に見られるように、
① 自らの業績をあげることに駆られて部下に無理な対応を迫る行為(や)
② 責任を全て部下に押し付けようとする姿勢(からは)
この組織における昇進に際しての評価尺度が「業績」だけになっていることが伺えます。つまりこの組織では、「手段は問わず業績さえ上げれば昇進できる」という企業風土が組織運営上大きな問題となっていると言わざるを得ないということです。
そしてもう一つの原因は、社員の情報が上司一人に囲い込まれているところにあるのではないかと森安氏は言います。本来、優秀な人材はその「部門」の資産ではなく「会社全体」の資産であるにもかかわらず、その情報や評価や人事が直属の上司一人に握られ、組織として共有されていないところに構造的な問題があるというものです。
実際、「半沢直樹」においても、(銀行マンは「人事が全て…」と言いながら)浅野支店長や副支店長の江島の意に沿う形で人事が動いていくことを当然の前提とて、ストーリーが展開されていきます。
このように考えると、ドラマの舞台となった世界第3位のメガバンク「東京中央銀行」の人事管理には、評価・処遇段階におけるこうした構造的な問題があったのではないかというのが森安氏の見解です。
「企業は人だ」とする経営者が多い中で、気がつけば「硬直的な人事」が会社の命運を分け、死活を決する要素ともなりかねません。自社内に半沢直樹のような人材を埋もれさせてしまっているのではないか。そして、もしかしたら支店長の浅野のような人物を昇進させてしまっているのではないか。組織を管理する立場にいる人は今一度「点検」してみる必要があるのではないかという森安氏のアドバイスに、苦笑している経営者も多いかもしれません。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます