気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

たしかなこと (1)

2020-03-25 11:35:00 | ストーリー
たしかなこと (1)



私は 笹山香 29歳 会社員

今日は電車の遅延で出社がいつもより遅くなったけどなんとか間に合った


「笹山君。出勤早々で悪いね。君はこの会社の担当だったから渡しておくので目を通しておいて。」

白川部長に書類を渡された

「わかりました。」


白川部長は50歳なのにそこそこ背もあって肩幅もあってスタイルがとても良い

顔は本当に普通だけどスタイルの良さとイケボで格好良く感じる

おじさん好きな女子にはウケそうな人で私の父もあんな感じだと良いのにと思っていた

昔 引き抜きでうちの会社に入ってきたエリートだということは私も聞いていた

毎日手作りのお弁当を持参してるから奥さんはきっと良妻賢母の素敵な人なんだろう

仕事以外の話は一切しないから人だからプライベートは全く見えてこない

仕事は卒がなく 全体の業務の進行具合も見てる
私語厳禁という訳ではないけど気軽に話せる雰囲気が無い

しかも笑わないからか何となーく冷たい印象



そんなある日の夜 ーー

私は仕事帰りに付き合って三年の彼と待ち合わせをし食事に向かった


「俺達、もう三年か 。」

「うん。早いね~(笑)」

何か言いたげに落ち着かない様子に変わった彼
これはもしかして… プロポーズとか!?


まさかまさか こんな騒がしいお店で!?

え~♡ プロポーズだったら困っちゃうな♡
私の胸はドキドキしてきた


「どうしたの? ヒロ♡」

「あのさ、、俺… 転勤辞令が出たんだ… 」

思いもよらない話だった

「ど、どこに… 」

「福岡、なんだ。」
遠い… 嘘でしょ…


「いつ行くの!? 」

「二週間後。」

そんな…
ショックが大き過ぎて言葉も出なかった

彼の仕事は転勤が多いと以前から聞いてはいたけどまさか彼が転勤するなんて…

この時 転勤という言葉の重さをようやく実感した


彼は 結婚なんて今は全く考えていないけど 一緒に福岡までついてこないかという提案だった

私… 今年30になるんだよ
結婚の確約もなく今の仕事を辞めてまで新転地にはついて行けないよ…


ーーー

二週間後なんて あっという間に来てしまった

東京駅で新幹線に乗った彼を見送った
この年齢で遠距離交際を経験するなんて思ってもみなかった

辛い …


具体的に結婚を意識していた私と
結婚なんか1ミリも考えてなかった彼

離れてしまうことよりも彼が結婚を考えていなかったことの方がショックだった

失意の私は何をする気にもなれず
帰宅するため電車に乗った


ーーー


「あれ? 笹山… 君?」
電車の中で男性に声をかけられた

… 誰?
え? この声、、部長!?

会社で見る白川部長とは明らかに別人のような姿に驚いて全身を舐めるように見て確認した


髪は下ろしていて丸眼鏡
黒のトレンチに白のカジュアルシャツを少し開けていて
黒の細身パンツにブルーグリーンのローファー
ブルーの革のトートバッグという

どこかのショップオーナー?と思うイケオジ姿に
『なんで変装してるんですか!?』と口から出そうになった

部長のこのイケボを聞かないと誰も気付かないだろうね

「笹山君、あの、今から予定、入ってますか?」

予定は何もないけど今の私は気を遣う人に付き合う気にはなれない

「すみません、この後は予定が… 」

「そうか… 実は男の私一人では気が引ける買い物があって一緒に見てもらえないかと思ったんですが… 」


話を詳しく聞くと 娘さんのお誕生日に贈るプレゼントを買いに行くようだった

「御礼に貴女の食べたい物を何でもご馳走しますよ。」

食べたい物!? 美味しい物!!
じゃあ…

食い意地張ってる私は食べ物に釣られ部長の買い物のお付き合いをすることにした



デパートの化粧品売り場 ーー

私はブランドのリップにアイカラーを選んだ


「はぁ~! 助かりました… 」
まるで大仕事を終えて安堵したような部長に思わず笑った

「意外です(笑) 部長は何でも卒なくこなせる人なのにこういうのは苦手なんですね(笑) 」

「化粧品売り場は女性の聖域ですから、男の私が足を踏み入れるなど、とてもとても… 」
悩ましげに顔を振った

「ぷっ!(笑) 」“ 聖域 ” って!!(笑)

そのイケオジファッションに相反する真面目で天然の発言に吹き出した

もしかして部長… 天然だったのかな(笑)
化粧品売り場が聖域なら下着売り場はどうなるの?(笑)


「ところで。貴女の食べたいものは何かな?」
おっと!そうだった
ご馳走していただけるんだった


「何でも良いんですか?」

「もちろん構わないよ。」

「では… 」

私は厚かましくちょっとだけ良い焼き肉店を指定した



そして!焼き肉と言えばビールでしょう!

「焼き肉好きなんだね。」

「え~? 嫌いな人います~?(笑) 」
調子にのって飲んだせいでだいぶ酔ってきた

「私はこの歳なので食べ過ぎると翌日胃もたれする(笑) 」
胃を擦りながら少し苦笑いした

あ、部長が笑った!

「部長は毎日ヘルシーなお弁当ですよね!奥様は部長の身体を気にかけているんですね(笑)」

「あぁ、あれは自分で作っているよ。」

えっ!?
「奥様じゃないんですか??」

「元妻とは10年前に離婚をして私は今一人で暮らしています。」
あ… マズイこと聞いちゃった…


「気にすることではないよ。過ぎた話だからね。」
冷酒を一口飲んだ

「はぁ… 」
気にするなと言われても…

「笹山君は結婚 考えてないのかな?」


私との結婚を全く考えてくれていなかった彼の言葉を思い出し 我慢していた悲しみが吹き出して部長の前なのに泣いてしまった


「すまない、悪いこと聞いてしまったようだ、、」
部長は困った表情になった

「いっ、いえっ、(グズッ) 失恋したとか、じゃない、ですからっ (ズズッ) すびません、、(グズッ) 」

鼻をすする私に部長は申し訳なさそうに微笑んだ
「そ、そうか、、(笑)」

「笑いました?(ズズッ) 」

「笑って、ないよ、、(笑) 」
そう言いながらも笑いを堪えている

「めちゃ、笑ってるじゃ、ないですか(ズズッ)」
私が鼻をすする度 部長は笑った


部長は駅で別れるギリギリまで 酔っぱらいの私を気にかけ心配そうな表情で見送ってくれた

まるで我が子を心配そうに見送る親のように


帰った私は彼に電話をかけた
声を聞いてまた私は悲しくて泣いた

電話の向こうで 彼はすまないと繰り返していた



ーーー



冷たい印象だった部長だったけれど
本当はツボにはまるとよく笑う人だということを誰も知らない

しかもプライベートではイケオジに変装をしている
(本人は変装してるつもりはないんだろうけど)

私だけが知っているというこの優越感♪

あ、部長!
廊下を歩く白川部長を見つけた

周りに人がいないのを確認して声をかけた


「部長、プレゼント、娘さんどうでした?」

「とても喜んでくれたよ(笑) 貴女はとてもセンスが良いようだ。本当にありがとうね。」
部長が少し微笑みかけ 丁寧に頭を下げた

「そんな、こちらもご馳走になりましたし(笑) それにご迷惑をおかけしてすみません、、」

「彼の件、大丈夫かな。 あの後 気になってね。」
落ち込む私を気にかけてくれていたなんて…

周囲から部長は笑わない冷たい印象を持たれているけれど本当はとても温かく優しい人だということを他の人にも知ってもらいたい

ーーー


部長の仕事は本当に多くて それでも疲れた顔も見せず安定の精神力で淡々と職務を遂行している姿に

次第に部長に尊敬の念と人柄に興味を抱くようになっていた


イケオジスタイルの部長
紳士的でイケてたな…

きっと彼女がいないから私にプレゼントの買い物を頼んできたんだろう

時々 微笑む部長の顔を思い出す度
つい私も微笑んでいた

男として素敵だよねぇ~
もちろん恋とかじゃなくてね

恋じゃ… 恋じゃない

まさかあり得ない
だって部長は50だよ?

無い無い!



ーーー


3ヶ月ぶりに福岡からヒロが帰ってきた


週に何度かビデオ通話で話してたからか 久しぶりという感覚はなかった


「お前んちに泊まっていいだろ? 」

「うん。」当然そうだよね

帰って来るこの日を私はあんなにも待ち遠しく思っていたのに
ヒロは仕事の愚痴を言い始めて私はウキウキした気分が失せてしまった

話を聞いてると愚痴も言いたくなる状況なのは理解できるけど…

食事中もお風呂から上がってからもずっとだよ
私の心は次第にイライラに変わっていった


「ヒロ。もうその話、終わりにしない?」

「え?」

「久しぶりに会えたのにそういうのばっかり。ヒロは私と会えて嬉しいとかないの?」

ヒロは複雑な表情をして
「お前だけはわかってくれると思ったのにな。」

「わかるよ!? わかるけど、、そんな話ばっかりじゃせっかく会ったのに時間が勿体ないよ。」

「もういい。俺 疲れたから寝かせてもらうわ。」

ふて寝してしまった
こんなので付き合ってるって言える?


私 …
いつの間にか“結婚すること” が目的で付き合ってたのかもしれない

付き合い始めた時の純粋に彼に恋する気持ちが
冷めていたことに気付いた ーー



ーーー



結局 翌朝 彼は私の部屋を出て行った
そのまま実家にでも帰ったのかもしれない


お互い何の連絡もしないまま休みは終わった
彼は福岡に戻っただろう

このまま自然消滅に… なっちゃうのかな…


「笹山君。」
後ろから声をかけられ慌てて振り向いたら部長だった


「すみません、何でしょうか!」

資料を渡された
「これ “ちゃんと” 目を通しておいて。」

“ちゃんと” ??
「はい。わかりました。」

手渡された資料は私の担当している案件
その資料を開くと付箋が貼られていた

なになに??
“予定がなければ今夜19時にここ(場所)に来てくれないか”


こっ、これは、、、!!
これはいわゆる “社内の秘密のやりとり” では!!

動揺を隠し私も付箋に返事を書いて別の資料に貼り付けて部長に渡した

“例の案件、承知致しました” と書いた付箋を読んだ部長は私の方に視線を移しほんの少し微笑んだ

うっ、、
これは本当に“イケナイ”匂いがするわ!いや行くけどね!


ーー ドキドキ

このプライベートなお誘いが恐いようなワクワクするような複雑な感情…

その後も部長はいつものように平然と義務をこなしていた



ーーー


メモに書かれている店の前

ここは… 中華料理店 だね…


「お待たせ、、」
部長が3分遅れてやってきた

「お疲れさまです。ここですよね?」

「ん。中華が食べたくなって。」

え??なんで私を誘ったのかな?

「中華料理は量が多いですからね。一人で何種類も食べられないだろう?」

え??そりゃわかりますけど
なんで“私を誘った”んですかね??

「はぁ… 」取り敢えず一緒に店に入った



ーーー



「私が食べたいものを頼んでも構わないだろうか?」

そう聞かれ 構わないと答えると部長は何種類かの料理を頼んだ

「すまないね。また付き合わせてしまって。」

「いえいえ(笑)」
ここも部長の奢り、ですよね??(笑) なら歓迎です!

「… 今日の貴女は少し変でしたねぇ。」

ーー え?

「そう、見えましたか?」
彼のことでモヤモヤしてたのバレてる!

「そう見えましたが。」

部長の観察力… 鋭すぎですよ
「まぁ… 休日に彼と会いまして、、」

私は彼とのこと 自分の心の変化を話した

「別に寂しいとか、そういうんじゃないんです。ただ… 自分のあざとさに気付いて失望したと言いますか… 」

ずっと傾聴の姿勢で聞いていた部長が口を開いた

「貴女の年頃だと結婚を意識してもおかしくはない。ただ私は結婚だけが幸せじゃないと思うけどね。」

部長 離婚してるんだったな…
経験者のその言葉は響くなぁ


ーーー


店を出ると
季節は春
どこから流れてきたのか桜の花びらが川面に浮かび揺れていた


部長は橋の真ん中ぐらいでゆっくり足を止めた
「笹山君… 」

部長は空を見上げていた
「月が… 綺麗ですね 」

見上げると物凄く大きい月だった
「ほんと綺麗ですね!近くに感じて手が届きそう(笑) 」


ーーん? “月が綺麗ですね” って言葉…
確か…

隣の部長に視線を移すと
部長が私を見つめていてドキッとした


「貴女は… 」何かを言いかけた

「はい… 」ドキドキしてその後の言葉を待った

「いえ、なんでもありません。」
また私の歩く早さに合わせてゆっくり歩きだした



時々 風に乗って香る部長のフレグランスが
一人の男性だということを私に意識させた

今まで “仕事ができる人”とか “50歳” ということを気にしがちだったけど

歩く姿や姿勢や所作が綺麗だなとは気付いていたけど
部長って本当は格好良い男性だったんだな…


「また… 一緒に食事をしませんか?」
部長の声がいつもより優しく聞こえた

「そうですね、是非(笑) 」


私は部長と個人的に連絡先を交換した



ーーー



帰宅し部屋の電気を点けて
冷蔵庫から水を取り出してコップに注いで飲んだ


“ 月が… 綺麗ですね ”


あの部長の言葉…

あれは…
夏目漱石の小説に出てくる愛の告白だよね…
それとも本当に偶然綺麗な月だったから… ?

言葉の真意を確かめたいけど…


私は部長に初めてLINEを送ることにした


ごちそうさまでした。
楽しかったです。とか?

お風呂に入りながら思った
いざ送ろうと思うと悩む…

月を見上げる部長の横顔と香りが強く記憶に刻まれた

スマホのランプが光っていた
開いてみると部長からLINEが入っていた

『食事に付き合ってくれてありがとう。
今もベランダから月を見ています。もう月は高く昇ってしまいましたけれど。いつか貴女と星空も見に行ってみたいです。もちろん貴女が良ければの話です。』

ーー 行ってみたい
直感的にそう思った

こんなに浮き足立つような ふわふわした気持ちは何年ぶりだろう

『ごちそうさまでした。ありがとうございます。その時は是非ご一緒させてください。』


布団に入ろうとしたら返事が返ってきた

『ありがとう。なんと返したら良いか、嬉しいです。』
短い文面に 微笑む部長の顔が浮かんだ


… これは理屈じゃない

心が 部長に惹かれてる






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君に花束を (後編)

2020-03-15 11:49:52 | ストーリー
君に花束を (後編)






またこの店で会えるなんて…
彼女は少し痩せたように見えた


「高崎さん、、いらっしゃいませ(笑) 」

「こんにちは、、元気になって良かった(笑) 」

そうは言ったものの
以前のような元気がないような気がする…

俺の気のせいだろか…


親しくもない間柄なのに病院にまで訪ね
花と手紙を届けた男のことを不審に思っても仕方がないと思う


「また… お花を贈られますよね(笑) 」

「あ、うん(笑) えーっと… どれにしようかなぁ(笑) 」

あ、このネモフィラという花の感じ…
栞ちゃんみたいに可憐だ(笑)

「この… ネモフィラという花… もらおうかな(笑) 」

メッセージカードを差し出された

どうしよう…
なんて書こう…

やっぱり 今の気持ちを…
“ また会えて良かった 高崎 ”


「会いたい方に… お会いできたんですね。」

やっぱり気付かないわな(笑)
「あぁ、、(笑) そうなんだ。」

この花 本当に栞ちゃんみたいだ(笑)


「良かったですね(笑) 」

「ん… 」


本当に…
またこうして君と向かい会えている
それが今 とても嬉しいんだ

でも このままじゃダメだ
俺は 君に告白をしないといけない

「ちゃんと彼女に想いを… 伝えようと思う(笑) 」

「やっぱり… 好きな人、なんですね。」

「…ん 初恋の人(笑) 子供の頃好きだった人なんだけど… また、、ね(笑) 」

「きっと… 高崎さんの想いは届いていますよ(笑) 」

ーー それって … どういう意味


「本当に… そう、かな。」

君は俺のことを
どう思っているんだろう

やっぱり
ただの客の一人なのか



ーーー



田中から電話があった
また飲みに行こうや!という誘いだった

『そうだ、 栞ちゃんに会えたか?』

「せっかく教えてもらったからな。」

『おっ!? そうか(笑) どうだった!?』

「どうって… 」

昔と変わらず 可憐だよ
なんて本音 恥ずかしくて言えない

「まぁ… 変わってなかったな。」

『それだけ? 恋の再燃は無かったかぁ(笑) 』


ドキッ!


「… 再燃なんて… そうそうするか?」

『どうだろ? わからん(笑) でもタイプの女に成長してたらありうるんじゃ?』

あー。なるほど。

『林が栞ちゃんに連絡取ったみたいだぞ。栞ちゃんには好きな男がいるそうな(笑) 高崎。残念だったな(笑)』

ーー 好きな男が… いる…?

知らなかった…
考えもしなかった…

どうして俺は今まで考えなかったんだ
好きな男とか 彼氏とか いてもおかしくないのに

『… お前。ほんとに栞ちゃんのこと好きなの?』

何も言えずうなだれた

『え!?… マジ? 冗談、、 』

なんで俺はそれを先に確かめなかったんだ
アホは俺だな…


『おい、高崎、』

「あっ、スマン… 」

『今夜飲みに行くぞ!出て来い!』


ーーー


田中の誘いで飲みに出た

俺に気を使ってなのか
くだらない話で笑わせてくる

こいつのこういう所が俺は好きなんだ


「お前の気持ち、伝えた?」

「言おうと思ってた。でも、、恥かかなくて済んで良かったわ(笑)」

田中はムッとした表情に変わった
「そういうとこお前らしいけどさ。それで構わない訳?」

その言葉はチクッと胸に刺さった
「じゃあどうしろと?」

「そんなの本人に直接聞いてみないとわかんないだろ?」

「まぁ そうだけど… な。」

俺に玉砕してこいって?
この歳で玉砕なんてしたくないぞ


「俺なら玉砕覚悟で告るけどな(笑) 」

あー、そういうのはお前らしいわ(笑)

「俺はお前のようにそんな強いメンタルは持ち合
わせてないからな(笑) 」

「それは違うぞ。」真面目な表情に変わった

「言わなきゃずっと引きずる。俺は後悔したくないからだ。これ以上 後悔を増やしたくないからだ。」


ーー 田中は今までいろいろあったからな

この前向きな性格があったからこうして明るくいられるんだろう


「田中なら直球で聞いて確かめるんだろうな(笑)」

「当たり前だろっ?お前も男なんだから直球で聞け!(笑)」


ははは… 本気で玉砕してこいってことかい!!


ーーー


彼女の勤める花屋の休日は火曜日

初めて彼女のプライベートの時間を俺に分けてもらえることになった

火曜日は本当は仕事だけれど休みをもらった
慶弔以外で休暇を取ったのは初めてだ


彼女とは俺達が通った小学校近くのカフェで待ち合わせた

このカフェはウッドデッキの席があり庭があり

その庭には沢山の木や花が植えられていて
この店のオーナーのセンスの良さが表れていた

明け方近くまで雨が降っていたようだけれど夜明けと共に良く晴れた

まだ濡れた葉や木々は緑が濃く
まだ雨の匂いが残っている


「高崎さん、おはよう…ございます(笑) 」

「おはようございます… (笑) 」

彼女は大切そうに抱えた花束を僕に差し出した


「こちらで、良かったですか?」

俺は彼女に花束をオーダーし
持ってきて欲しいと頼んでおいたものだった

花は指定していた “ネモフィラ”
俺がイメージする彼女に似た花…







こうして彼女とカフェで向かい合わせて座っているのが夢みたいだ…

「今日はどうしてこちらに… 」

休日に、しかも配達を頼むなんて初めてで明らかに戸惑っている

花の代金を入れていた封筒を彼女に手渡した

珈琲がテーブルに運ばれ 良い香りが漂った
「ここで… この花束を渡そうと思って。」

「高崎さんが想っている方にですね。」

「そうです(笑) 」

気まずそうな表情になった
「じゃあ、私は帰ります、ね(笑) 」
立ち上がろうとした

「待って、、藤本さん、、」

「でも、、」

「いいから(笑) 座ってください。」

二人で珈琲を飲みながら緑の香りが漂う庭を眺めた
穏やかに時間が流れる

俺は この花束を渡す君への想いを話した

子供の頃 同じ学校で クラスメイトで
誰よりも花が好きな子で

花瓶に挿された花の世話も彼女だけがしていて

でもそのことを誰も気にかけていなくて
俺だけがいつもその子を目で追っかけていた

病弱なその子のことがいつも気になって
学校を休んだ日はソワソワした

それが初恋だと 俺はのちに自覚した


「大人になってまた出会えたことが嬉しくて… (笑) 」

「どうして… そんなこと私に話すんですか… 」

ーー え?


彼女は悲しそうな表情をしていた

「そういうことは… その方に直接話せば良いことじゃないですか… 」

「藤本さ… 」

涙が溢れ 頬を伝った


「すみません、私、帰ります。」

「違う、待って! この花は君にっ!!」
彼女は驚いて俺の目を見た


「今 俺が話したのは… 君… 栞ちゃんのことだ…
このメッセージカードに書いてきた言葉も全て君へのメッセージなんだ… 」

ポケットから今までのメッセージカードをテーブルに置いた



「黙ってて悪かった。はじめから君にクラスメイトだった高崎だと告げれば良かったのに。

ずっと言わなきゃ言わなきゃって思ってたけど俺は意気地がなくて言えなくて…

君に好きな奴がいるって… 林から聞いて…

でもやっぱり俺は君が好きだ。この気持ち もう抑えきれなくて。

好きな奴がいても構わない。俺は君が、好きだ。」




彼女が ゆっくりとまた席についた

「ごめんなさい… 」
申し訳なさそうにうつむいた


そうだよな…
好きな奴がいるんだもんな



「いいんだ。俺が一方的に、」

「クラスメイトとは気付かずに… ごめんなさい… 」

「そりゃそうだよな…(笑) 話すことあんまりなかったもんな、ははっ(笑) 」

「高崎さん… 私は 」



ーーー



カフェを出て 二人で小学校の前を歩いた

「久しぶりです(笑) ここに来るの(笑) 」

「俺も久しぶりだよ(笑) 」

外の花壇の場所も昔と同じ所にあった
「あの花壇も懐かしい… ふふっ(笑) 」

「栞ちゃん… あの頃の俺のことは覚えてなくてもいいんだ。今の俺をもっと知ってくれれば… 」

「覚えてますよ? 高崎さんのことは。」


え?


「休んだ次の日 必ず千夏ちゃんが言ってたの。
『あいつが栞ちゃんのことを、今日も休みなのか?病気なのか?と聞いてたよ』って(笑)

でもそれが高崎さんだったことは覚えてなくて… ごめんなさい(笑) 」

なんだ!それでみんな気付いてたのか!
恥ずかしい!!





河川敷の土手を下ってベンチに座った
時々 爽やかな川風が吹いてくる


「高崎さん… その花… 」

俺の持っている花を見つめた
「その花を指定したのはどうしてですか?」

「これ… 栞ちゃんみたいに見えたんだ。今日の空のように爽やかなこのブルーが君のように見える。
そしてとても可憐だろう?(笑) 」

少し驚いた表情に変わった
「ネモフィラの花言葉… 知ってますか?」

「花言葉? 」

「いろいろありますが… “可憐” という花言葉もあるんです。ご存知なのかと(笑) 」

「そうなのか。ならやっぱり栞ちゃんにぴったりだな(笑) 」

立ち上がって彼女の前に立った


「メッセージカードじゃなくて、ちゃんと君にもう一度言わせて欲しい。」

彼女も立ち上がって俺の目を見つめた

「好きです。クラスメイトだった頃みたいに… いや、あの頃よりもっと好きです。」


両手で差し出した花束を 彼女は受け取ってくれた

「私もあなたのことが好きです。千夏ちゃんに話した好きな人とはあなたのことです。」


そう… だったのか


「高崎さんの想う人が羨ましかった… ずっと。どんな人なのかなってずっと考えてました。だから… 本当に嬉しいです。」


栞ちゃん…
「俺と、付き合ってください。」


彼女の腕の中で風に揺れるネモフィラのように
彼女は優しく微笑んだ


「高崎くん、ありがとう。こちらこそ… (笑) 」

「高崎“くん” か(笑) またあの頃から始める?? 」





また 田中や林にからかわれそうだな(笑)


色の無いつまらない毎日を過ごしていた俺に

まるで色とりどりな花ように
生きることの楽しさや人を想う切なさや心が踊るような想いをまた思い出させてくれた


お節介なあいつらにも感謝するよ(笑)






ーーー 俺達はまた あの初恋から始める










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君に花束を     (前編)

2020-03-14 22:19:00 | ストーリー
君に花束を (前編)






俺は市役所の職員

公務員だから安定はしているが やりがいを感じて仕事をしているということもなく

ただ ルーティンのように代わり映えのしない日々を送っていた

冒険心もないし 好奇心もそんなにあるとは言えない

女性から見ると つまらない男に見えているだろう



結婚をして家庭を持つ ということに焦りも興味も感じず独身生活を送ってきた


そんな俺も10年ぶりに中学の同窓会に出席をすることにした




店に向かう道中 偶然女子のグループと鉢合わせした

10年も経って38歳にもなれば別人のように老けた奴もいればそのまんまの奴もいて個人差が出ていた

子育ての真っ只中の女子達は
女というより母親のたくましさが出ていた



「高崎くんは10年前の同窓会ぶりね。あまり変わらないわね(笑)」
ここは喜ぶべきなのか?


「あ、ありがとう(笑)」

「で? もう結婚したの?」
女子(?)は幾つになってもそういうとこを聞きたがる


「いや… してないよ。」

「なんで?10年前は確か彼女いたよね?高崎くんならほら… 」

小声になった
「(他の男子はおっさんになってるけど高崎くんは若く見えるしまだイケる方じゃない?(笑) ) 」


イケる、、のか?


「そうだろうか… (笑) 」

「今はあの時の彼女と続いてるの?」

「とっくに別れてるよ。」



店に向かうと
他の数人がもう店の前で待っていた


「わぁ!久しぶり~!」
女子は口々に懐かしがっている


田中(←男)が肩を組んできた

「(由実ちゃん美人だよな!)」
小声で囁いてきた


その“由実ちゃん” ってどれよ!



「誰が誰なのか、さっぱりわからんぞ。」

田中は笑い出した
「ほら、赤いスカート履いてるのが由実ちゃん。」


え? あんな感じだったっけ?

こりゃ 完全に忘れてるな
やっぱり俺は興味がない人物は覚えてないな




店に入った

個室を貸りていたようで
合流してきたメンバーが盛り上がってる


ちなみに…

俺が好きだった
“栞ちゃん” はやっぱり来てない… ようだな


栞ちゃんは子供の頃は病弱で
クラスの中で一番病欠が多く全校朝礼で倒れてしまう時もあった


うるさい女子達と違って控えめで真面目
花がとても好きだったあの女の子

地味で目立たない子だったけど
俺には可愛かった

多分 俺だけがそう思ってたと思う


俺が初めて “好きになった人” だったから





「あ、確か~高崎くんは栞ちゃんが好きだったよね(笑)」


はぁ!? なんでそれを!!


「それはどっから仕入れた情報だ!?」
これにはさすがに動揺した


「どっからって、みんな知ってたけど。ねぇ?」
同意を求めるように両隣の顔を見た


「うん、だって高崎くん、わかりやすく栞ちゃんに “だけ” は優しかったもん(笑)」


昔の話とはいえ
自分の知らない所で 自分の中だけの想いを周知されていた事に羞恥心がわき上がってきた



「あ、栞ちゃんの連絡先教えようか(笑)」

「いっ、いらんわ!!」

「そんなに顔赤くして拒否ったら余計にまだ好きなのかなって思っちゃうよ~ねぇ?(笑)」


「 そんなはずないだろっ!」

あれは子供の頃のことなんだし!




ーーー




後日 田中から電話があった

「そうだ。“お前が好きだった” 栞ちゃんが働いてるとこ、林(←女子)に聞いてやったぞ!」


「その “お前が好きだった”って部分を強調するなっ」

「あの時お前は否定したけど、本音は知りたいんだろうなと思って聞いてやったのに。」

お節介な奴だな
お前は女子か


「子供の頃の事なんだ。それにお互いもういい歳だし、結婚だってしてるんじゃないのか? 俺は今は、」


「栞ちゃん独身らしいから聞いてやったんだ(笑) 取りあえずLINEで送っといてやる。じゃあな!(笑) 」
勝手に電話が切れた

まったく!人の話を聞けっつーの!

電話を切って直ぐ来たLINEには
店の名前と住所があった





ーーー



栞ちゃんかぁ…

まぁ 確かに気にはなる

今でもまだ病弱なんだろうか


おとなしくて花が大好きだったあの女の子は
やはり花屋で働いているようだ



店はそんなに遠くはない

せっかく田中が調べてくれたんだからな
前を通るくらいは…


その花屋の前は何度か通ったことはあるが
そもそも俺は花を買うような洒落た男ではない

だから当然 その花屋も気にも留めたことはなかった





休日

その花屋が見えたーー


然り気無く 前を通り過ぎる時
店内を見てみたがどうも外から中の様子はあまり見えなかった

もう一度通り過ぎた
やはり見えない

少しドキドキしながら店内に入ってみた


「いらっしゃいませ(笑) 」
奥から花が入ったバケツを持った女性が現れた


… あっ


栞ちゃんだった ーー


「ゆっくり見て行ってください(笑)」

あの頃より当然歳を重ねた感はあるけど
可憐なイメージのままで俺の胸は高鳴った



栞ちゃんは俺のことに気付いてない様子でバケツの花を作業台の上に置き花の茎の処理を始めた


何も言わず、何も買わなかったら俺はただの変質者に思われるかもしれない!


取り敢えず花を買うことにした

「あ、あの… あの篭の花を… 」
プレゼント用にまとめられた篭の花を指さした


「こちらでよろしいですか?」

「あ、はい。」

「ありがとうございます(笑)」
栞ちゃんは透明なフイルムを取り出した


「メッセージとか、書かれますか?」

メッセージ!?
「あぁ、いや、無いです。」

手慣れた手つきで包装に取りかかった


このまま黙って帰るか!?
俺は高崎だと名乗るか!?

焦ってきた


「あっ、あの、やっぱりメッセージ、書きます。」

「はい(笑) では… こちらのカードを使ってください(笑) 」

引き出しからメッセージカードとペンを取り出した


“ また会いたいです 高崎 ”

焦って書いたのがそれだった
俺はアホか!

また会いたいって!



「ではこちらをここに入れておきますね。」

“高崎” という名で何か思い出してはくれないかと少し期待したが

栞ちゃん気付かず花を綺麗に包装してくれた



「また会えるといいですね(笑)」

ーーえっ


「このお花をプレゼントする方に(笑)」

一瞬 俺に気付いてくれたのかと…


「そう、ですね(笑) ありがとう。じゃ… 」

切ない想いで店を出た



でも… 小さなえくぼができる彼女の笑顔は昔のまま
それに病弱そうな感じはない様子

良かった…


子供の頃だけど 本当に好きだった
俺の初恋の女の子


やっぱり…
ちゃんと声かけりゃ良かったかな




持ち帰った篭の花を眺めた

薄い紫やブルーでアレンジされた可愛い篭の花が彼女のように思えた


ーーー


それから俺は決まって休日にはその花屋に通うようになった

毎回メッセージカードに高崎と書いた


「高崎さん、こんにちは(笑)」

俺の名前は覚えてもらったがやっぱり思い出してはくれなかった


「どうも、、(笑) 」


「まだお会いできないんですか?」
丁寧に花束を包みながら彼女は残念そうに微笑んだ


「そうなんです(笑)」


「… こんなに想われている方が羨ましい(笑)」
その言葉にドキッとした


「相手は… 迷惑… なのかもしれません(笑) 」


「そんなことはないんじゃないでしょうか(笑)
お花は心を癒してくれます。その内 お相手の方も高崎さんに心を開いてくれるんじゃないでしょうか(笑) 」



ーー 切ない



「もうひとつ、花束を作ってもらえますか?」
俺は黄色とオレンジの小さな花束を作ってもらった



「その花は… あなたに… 」

「え? 」彼女が驚いた

「あっ、いや今回は、、いつも親切にしていただいているので(笑) 」

彼女は嬉しそうに微笑んで
「本当に私がいただいてもよろしいのですか?(笑) 」とはにかんだ

「ん… 栞ちゃんにとてもよく似合うので(笑)」


彼女は驚いた



「え? 私の名前 … 」

あっ、しまった!
俺は彼女の名前を知らないはずなのに つい…

「前に、、お名前を聞きましたよね(笑) 」

とっさに誤魔化した


そうだったかな?と思い出す表情をしたが直ぐまた笑顔に戻った


「ありがとうございます(笑) 嬉しいです!自室に飾らせていただきます(笑)」


… ホッとした
気付かれずに済んだ

そして喜んでくれた!




ーーー




それがきっかけで
彼女は俺に親近感を持ってくれたのか

週を追うごとに個人的な話もしてくれるようになった


彼女は婚約はしたが結婚には至らず
それきり結婚は一度もしないまま

今は独身の一人暮らしをしているようだ

身体は今でもたまに体調を崩すらしい


そして…
来月 この店を辞めると残念そうに笑った


「えっ、辞めてしまうんですか?」

「入院するんです(笑) 」



やっぱりまだ身体は弱いままなんだ…


ーー 俺が支えてあげたい
そう思うようになっていた



ーーー



俺はいつものように花を受け取り
そのまま実家に向かった


母親は花を持って帰ってきた久しぶりの息子に驚き

“ 何事!? あんたから花を貰える日が来るなんて!明日私死ぬのかしら” と思っていた以上 喜んだ


すまん!母さんのために買った花じゃないんだ ーー
と喜んでいる母には言えなかった(笑)



栞ちゃんと同じ学校に通っていた頃の写真を探した

卒業アルバムに修学旅行の写真
遠足の写真に運動会の写真


どこかに二人が一枚に収まった写真はないかと探したら数枚出てきた

修学旅行先の京都での写真と運動会の写真


その写真と卒業アルバムを持って帰ろうとすると
ご飯ぐらい食べて帰りなと母は俺を引き留めた



オヤジは夕方には釣りから帰ってきて今夜は刺身三昧となった


「お前ももう直ぐ39だろう。いつになったら身を固めるんだ?」

俺が未だに結婚したがらないことをオヤジはやはり気にしていた


「結婚する気がない訳じゃない。相手がいないだけだ。」
その自分の言葉で栞ちゃんの顔が浮かんだ


「じゃあやっぱり見合いだな。お前は公務員なんだからそれなりの良い話も来てるんだ。」
そう言ってビールを飲んだ


「それは嫌だね。」
わかってるさ 早く孫も欲しいからだろう?

これがあるからあまり実家に寄り付きたくなかったんだ

「ちゃんと考えてるから。じゃあ、明日も朝早いからそろそろ俺、帰るわ。」

刺身を数枚食べて実家を出た




帰宅して もう一度
持ち帰った卒業アルバムを開いた


懐かしいなぁ…
田中は完全にオッサン化したな(笑)


彼女と俺が一緒に写ったこの写真を見せたら
彼女はどう思うだろう

知ってて言わなかったことに怒りだすだろうか
気持ち悪がるだろうか

玉砕するだけだろうか…


それでも
客としての“高崎” でこれ以上彼女に近付くのは限界だった

どうしても気付いて欲しい気持ちが消えない


次の休日 卒業アルバムと写真を持って花屋に向かった


「いらっしゃいませ(笑)」
そこにいたのは若い女の子だった


「あの、以前いた藤本さんは… 」

「5日前に辞めました。」




ーー なん、で?

辞めるのは来月だって…



「あの、、それは、来月じゃなかったですか?」

「急に体調が悪くなってしまって、、お知り合いですか?」


体調って…

「具合どうなんですか? あ、僕は同級生で、、」

「辞められてからはちょっと私にはわからないです… 私はオーナーの親類で急に手伝いに入ったばかりなので、、」

女の子は困惑顔になった



そのオーナーらしき年配女性が奥から出てきた

彼女が病弱なのを承知の上で雇い入れていたようだ


「本当に花が好きで真面目な良い子だったからねぇ。また元気になったら帰ってきて欲しいんだけど(笑) 」


そう…
俺が知っている彼女もそうだ

オーナーには入院先を教えて貰ったが
親類ではないため 容易には会えないかもしれないよと僕にアドバイスをくれた

病院で彼女への面会を希望したが
やはり身内しか受け入れないよう本人が希望を出していたようだった



俺は彼女のメールアドレスや電話番号を知らない

田中や林に聞けばわかるのだろうが
彼女から直接聞いてもいないのにメールをすることはできない


俺は手紙を書き

病院の受け付けに
花束と手紙を本人に渡してもらうようお願いした




手紙には

身体の具合はどうなのか 心配していて
元気になったら またあなたに会いたいという想い

そして最後に
俺のフルネームにメールアドレスと電話番号

俺が あの同級生の高崎だということは
書かなかった

フルネームを彼女に伝えるのは初めてだ
これでもしかすると思い出してくれるかもしれない



ーーー



それから1ヶ月が過ぎた頃
彼女からメールが届いた

彼女から返事をもらえた

体調は良くなってまた元の一人暮らしの部屋に戻ってこられたことや

またあの花屋の店で働かせてもらえることになったと書かれていた


良かった… ほんとに良かった!

でも俺のことはまだ思い出してないようだ…
まぁ、うん 元気になったならそれでいい


『良かった。本当に。またあの店で会えるかな。』

『はい!来週月曜日から働かせていただきますのでまたお待ちしておりますね!』


明るい返事が嬉しい反面
店員と客にまた逆戻りしたようなその返事は少しの寂しさを感じるが…

俺は翌週 彼女に会いに行くことにした



ーーー



私がまた店に戻れて直ぐ
高崎さんは店を訪ねてくれた

「高崎さん、、いらっしゃいませ(笑) 」

「こんにちは、、元気になって良かった(笑) 」


高崎さんが毎週ここを訪れてくることを
私は知らない内に待つようになっていた


毎週お花を贈っている相手はどんな人なんだろうといつの間にか私は気になるようになっていた


高崎さんはお客さまだから
プライベートな事は聞けない

だからそれに触れたことはなかった

本当は凄く… 聞きたい


きっと 想う女性がいるんだろうと …




入院先にお花とお手紙をわざわざ届けてくれた高崎さん…

“誰か”へのメッセージじゃなく
私宛てに初めて手紙をくれたことがとても嬉しかった


でも きっとその手紙には深い意味はない

とても律儀な方というだけなんだと思うようにした

だって高崎さんには毎週お花を贈るような想う人がいるんだから …



「また… お花を贈られますよね(笑) 」

「あぁ、うん(笑) えーっと… どれにしようかなぁ(笑) 」

嬉しそうな横顔 …


「この花をメインで… もらおうかな(笑) 」

高崎さんが指定した花を中心に他の花を混ぜて
こんな感じではどうかと訊ねるとそれでお願いすると笑顔で返ってきた

私はいつものようにメッセージカードを差し出した


ーー あっ
その瞬間胸がグッと苦しくなった


“ また会えて良かった 高崎 ”
メッセージカードにそう書かれていた



「会いたい方に… お会いできたんですね。」

「あぁ、、(笑) そうなんだ。」

嬉しそうに花を見つめていた


そうなんだね
ずっと会いたかった人なんだもの

とても幸せだよね


ちゃんと応援しなきゃ…


「良かったですね(笑) 」

「ん… 」優しく私に微笑みかけた


その笑顔 … 私には辛い


「ちゃんと彼女に想いを… 伝えようと思う(笑) 」
相手の方が羨ましい…


「やっぱり… 好きな人、なんですね。」

「…ん 初恋の人(笑) 子供の頃好きだった人なんだけど… また、、ね(笑) 」


ズキン ーー
胸に強い痛みが走った


初恋…
そう、なんだ…



「きっと… 高崎さんの想いは届いていますよ(笑) 」

「本当に… そう、かな。」
真剣な目で私を見つめた

その視線で
高崎さんがどれだけその方を真剣に想っているか

思い知らされた…


私は自分の想いを胸に閉じ込め
精一杯 笑顔を返した









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Your Love 4 (最終話)

2020-03-09 12:13:00 | ストーリー
Your Love 4 (最終話)





最後の出勤日

ーー 朝

「明日から私の代わりにここのマネージャーとして鹿島さんが来られます。皆さんには今と変わらず頑張って欲しい。」

「移動の時期でもないのにどちらに移動ですか?」
皆は俺が社内の別の課に移動すると思っていた

「あぁ、うん、、」


俺は希の顔を見た
希はショックを受けている表情をしていた


「移動先は、、ニューヨークなんだ。」


一瞬ざわつき 祝福の言葉をかけてくれた

彼女は今にも泣きそうな表情に変わりだれにも気付かれないよう部署から出ていった

あの表情を 見たくなかったーー




ーーー



悲しむ彼女の顔が見たくなくて
手紙は彼女の引き出しに入れておくことに決めていた

彼女に宛てた手紙はタイミングを見て彼女の引き出しの奥に忍ばせた

そして俺は午後からの通常の業務が開始する前に日本での最後の仕事を終えて退勤したーー




帰宅して引っ越し業者の荷物運搬を見届けた


空になった部屋…


一度だけになってしまったけれど
希がこの部屋に泊まった日のことを思い出す

一緒に旅行するはずだったな ーー

俺は彼女とのそんな簡単な約束さえ守れなかった


俺は一通り用事を済ませて最後に母の元に向った
栄転とはいえ5年以上も日本から離れるのは寂しいと母は涙ぐんだ

まとまった休暇が取れたら帰ってくるよと約束をしその夜 俺は実家で過ごした



翌朝 俺は実家から空港に向かった
この風景もしばらくは見られない

君は今頃 何を想っているのだろう


結局 昨日もメールは来なかった…


あえて引き出しの奥にしまったあの手紙に
君はいつ気付くのだろうか

そして 読んでくれるだろうか…


あぁ…
なにもかも先回しにして後手後手になり
結局 言いそびれ

その結果 希を深く傷つけてしまった
後悔ばかりが胸に残っていた


大切にすると約束したのにーー
こんな形で離れてしまうなんて思いもしなかった

ようやく 彼女と心通わせあえる仲になれたのにーー


君と同じ部署になる前
君が入社するもっと前…

百合と別れて辛かった時 俺は君と初めて出会った

俺は君がアルバイトをしていた店にたまたま入り君を初めて見たあの時

不思議と君だけが違って見えたんだ

何となく君のことが気になり
俺は自然とその店に通うようになっていた

君の笑顔はとてもチャーミングで
当時 失意に満ちた俺の心はその笑顔に癒されていった


なぁ 希…

毎週火曜と決めて あの店に俺が通っていたことを君は気付いてなかっただろ?

君が同じ会社に入社したのを知って
同じ部署に配属になったのを知って

どれだけ俺が嬉しかったか
君は知らないだろ?


一緒に仕事をして 君の頑張りを見て
他者への然り気ない気配りや優しさを垣間見て

俺の心が君の魅力に強く惹かれていくようになっていったことも


君からライブに誘ってくれたあの時
大事な先約をキャンセルしてまで君と一緒にいたかったあの時の俺の想いも

全ては人生で一番大切な時に伝えようと思っていた

手紙なんかじゃなくて
君の目を見ながら伝えたかった ーー



ーーー



なんで私は素直になれなかったんだろう
もっと素直になっていれば

彼がいなくなってから自分の愚かさに気付く


私に宛てた彼からの手紙を見つけたのは彼が日本を去った2日目の夕方だった

手紙はそのまま家に持ち帰り
バッグから手紙を取り出し封を切った

手紙を読んだら寂しさや後悔で心が壊れてしまうかもしれない…


ーー 少し震える手で ゆっくり手紙を開いた


あぁ… 彼の字だ

綺麗な文字というより 一字一字とても丁寧に書かれた文字

手紙は5枚あった

まだ読んでないのに涙が溢れてくる


手紙には 彼の想いが切々と綴られていた
そしてあの彼女のことも

会社に入る前から
私は彼に見つけてもらっていたことを知った

その手紙は私が気付かなかったことや知らなかったことばかり

彼は私とちゃんと向き合おうとしてくれていたことも

あの時の私は傷つくのを恐れ、逃げて、彼と向き合えなかった

ほんとに バカだ…



ーーー



昼休みに会社近くの定食屋に入り“本日のランチ”を注文した

「ねぇ聞いた!?ニューヨークに行った藤川さんのこと!」

“藤川さん”という言葉に反応し 会話の聞こえた方向に振り返った


「なに?」

「なんかね、向こうで事故にあったんだって… 」



ーーー 今… なんて



「嘘っ!で、藤川さんどうなったの!?」

「それが… 」


タイミング悪く
「お待たせ致しましたー!」
私の前に“本日のランチ”が運ばれた

ちょっ、聞こえなかった!!
また会話に聞き耳を立てた


「… そんな 」

「信じられないよね、、」


なに!? なんなの!?

その女性達に直接話を聞こうと立ち上がると
同期入社の友達が店に入ってきた


「あっ!中野さん!その前の席空いてるなら一緒に座ってもいい?♪」

「あっ、あぁ、うん、、」

その ほんの少しの間に彼の話をしていた二人は席を立った

「中野さんとランチなんて一体何年ぶり~?(笑)」
彼のこと、ちゃんと聞きたかったのに

ーー でももう私の彼氏じゃ… ない


「そうそう、中野さんって営業企画部だよね?」

「そうだよ。」

「じゃあ藤川さんと一緒に仕事してたよね」

「うん… 」

「なら藤川さんの事故のこと、知ってるよね?」

「えっ…?」



彼はニューヨークで交通事故に遭い
今は意識が戻らない状態で

独身で単身で渡米した彼を向こうの社員が交代で様子をみていると話してくれた


「栄転でニューヨークに行ったのに… ずっとこっちにいればそんな事故になんか遭わずに済んだのに。こっちに居て欲しかったのにな… 」

その言葉が私の胸を突いた

私が彼にちゃんと向き合い 彼の言葉を聞いていたら
私が彼に行かないでと引き留めていたら

もしかすると彼は行かなかったかもしれない
事故になんか遭わずに済んだかもしれない


「食べないの? えっ!? どうしたの!? 」
気付いたら 私の目から涙がぽろぽろと落ちていた

「私、もういいや 」
お金を机に置いて店を出た


部署に帰ると まだ昼休憩中だからか
まだ誰も帰ってきていなかった


彼に電話をかけることにした
スマホの画面に彼の電話番号を表示させるのは久しぶり…

電話に出て欲しいーー
恐る恐る発信ボタンを押した

でも電源は入っていなかった


意識不明で入院中なんだから繋がらないのは当然… だけど…


今すぐにでも彼の元に飛んで行きたいーー

ニューヨーク支社の住所と電話番号を調べて手帳に書き込み

ニューヨーク行きのフライトの確認と航空券の空き情報を調べた



ーーー

「マネージャー。こちら、よろしくお願い致します。」
私は有給届を提出した


10日間もの長期休暇を一気に取ることに
鹿島マネージャーは渋い表情をしたけれど

多忙な時期ではなかったのが幸いして希望通り休暇を取ることができた



ーーー


羽田空港 国際線ターミナルに着いた

また彼に電話をかけてみたけれどやっぱり繋がらない…

現地に着いたらそのままニューヨーク支社に向かうしかない

自分がこんなにも行動力があるなんて思いもしなかった

毎日 同じ時間に起床して出勤し 仕事して帰って晩御飯を食べて寝て

そしてまた同じ時間に起床する


そんなルーティンの日々を繰り返していた

でもそれを不満と感じてはなかったし
それが当然のように生きてきた

そんな私が英語も話せないのに単身海外に行くなんて今までの私なら考えもしなかった


でも 全然不安じゃない ーー

私は晴樹に会いに行く
もしまだ意識が戻ってなくても

ただ、彼が生きていて
一目だけでも会えればそれで良い

平凡に生きてきた私に
その想いが 強く背中を押してくれた


ーーー

初めての長いフライトに疲れたけれど ニューヨークに降り立ち空を見上げるとその疲れは消えた

今… 晴樹と同じ空の下にいるーー



翻訳アプリでタクシーの運転手に住所を告げ
ニューヨーク支社に到着した


現地には日本人の社員もいた

40代半ばの日本人男性社員の高畠さんという方が応対してくれた


その高畠さんに晴樹の具合と入院先を聞いた


晴樹は咄嗟に子供をかばい事故に遭ったと話し始めた

「いつも公園で一人でいる少年がいたらしくてね。その少年は友達がいないらしく毎日一人で遊んでいたようだ。

その頃 きっと彼自身も孤独を感じていたんだろうね。
彼はその子がこっち(ニューヨーク)に来て初めてできた友達だと 嬉しそうに話してくれたことがあったんだ。

そして… その子をかばって事故に遭ったようだ。」


嬉しそうに笑う彼が目に浮かび
堪えきれず涙が溢れた


「もしかして… あなたは彼の恋人かな。

彼は日本に愛する女性を残してきたと話してくれたことがあってね。
彼女を深く傷つけたまま離れてしまったことをとても後悔しているように私には見えたよ。
そのあなたがこんなに遠いところまで会いに来てくれたんだ。

きっと彼も喜ぶよ。」



ーーー



病院に着いて彼の病室を訪ねた

ーー 晴樹!


一気に涙が汲み上げた

まだ頭には痛々しく包帯が巻かれていて
彼の体は沢山の線で繋がれていた


「晴樹… 」
こんな悲しい再会 嫌だよ

「晴樹… 会いにきたよ。起きて… 」
彼の頬は温かかった

ちゃんと生きてる…



声をかけても
その日は彼の意識が回復すことはなかった

それでも私はニューヨークを経つ日まで毎日病院に通うことに決めていた


「ねぇ晴樹。晴樹の代わりに来た鹿島マネージャー、凄く厳しい人なんだよ~(笑)

この有給も取れないかもしれないと思ったけど許可してもらえたから奇跡かと思った(笑) ふふっ(笑) 」

私はずっと彼に話しかけた

「ねぇ… いつまで寝てるつもり?」
彼はずっと目を閉じたまま返事をしてくれない


「ずっとそんなんじゃ私、他に好きな人できちゃうよ。いいの?早く起きてよ…

一緒に旅行に行こうって約束したのに、大切にするって約束してくれたのに… 」


ーー 閉じている彼の目から
静かに一筋の涙が流れ落ちた

えっ…

「え… 晴樹!? 」
私の言葉はちゃんと彼に届いているーー


私がこっちに来て3日目で初めての反応だった
でも 反応はそれだけだった ーー


「明日、私はここを経つの。しばらくは会えないと思う。

目が覚めた時に私が“何を言ってたのか忘れた”なんてあなたなら言いそうだもんね(笑) ふふっ(笑)

だからちゃんと手紙に書いておくからね(笑) 」


いつ命が突然尽きるのかわからない彼に私は手紙を書いた

本当は仕事を辞め こっちで暮らし毎日あなたに会いに通いたい


ーー この人に残された時間がどのくらいなのかわからない

何十年もこの状態のままかもしれないし
明日突然 命が尽きるかもしれない

そんな先が見えない彼と
また離れてしまうことが恐い ーー

本当はここに来てずっと葛藤してる


あなたなら
“こんな俺の傍にいて自分の人生を無駄にするな”というのかな

それとも
“ずっと傍にいて欲しい”というのかな…



ーーーー


晴樹の顔が見られるのは今日で最後

「もう直ぐここを経たなきゃいけない。
晴樹… 本当に目を開けてくれないの?

いつものように 私をちゃかしてからかったりしなくていいの?
ねぇ、晴樹… 起きてよ… 」

結局 彼の目が開くことはなかった ーー


ーーー


私がニューヨークから帰ってきて半年 ーー

ニューヨークで対応してくれた高畠さんとは時々連絡を取り合った

彼の様子は何も変わらないようで 変化があったら直ぐに連絡すると約束をしてくれている

私はまたニューヨークに向かうための資金を貯め続けていた

彼は今は休職扱いになっているけれど
それも一年間という期限がある

あと半年だよ…
一日でも早く目を覚まして欲しい

ニューヨーク支社での仕事が夢だったんでしょ?
その彼の夢が消えてしまう…

毎日毎日 私は彼の意識が回復したという連絡を待ち続けた


ある夜
私は晴樹の夢を見たーー



あれは
彼の後ろ姿…

彼が振り返ると私に微笑みかけた

『 希… 愛してるよ… 』


そして 次第に姿が見えなくなった



目が覚めて夢だと理解した

嫌だよ…
まさか… これフラグじゃないよね…



慌ててスマホを確認した

ニューヨークの高畠さんから着信もメールも入っていないことに安堵した…


今日は休日

晴樹の夢を見て本当は喜ぶべきなのに
私の心は不安に満ちていた

よくため息をつくようにもなっていた

元々 深く悩み続ける性格じゃなかったし
気持ちの切り変えは上手だったはずなのに

私は自分が自覚していた以上に彼のことを愛していたんだと思い知らされた

明るく朗らかな私を彼は好きだと言ってくれていたのに…

彼の好きだった私に戻らなきゃ…



なんでもきちんとしていた彼に負けないように
私も どんな時もちゃんと生きなくちゃ…

ヘアサロンに午後からの予約を入れ
それまでの時間は洗濯や掃除をした

そして私は長かった髪をバッサリと切った
こんなに短くしたのは高校生以来

学生の頃ずっと女子として見られない私はせめて髪を伸ばせば違うんじゃないかとロングヘアにした

やっぱりショートにしたら女子度が減った気がしないでもないけど

ゆるふわパーマもかけたし学生の頃とは全然違う!結構似合ってる!


ヘアサロンから帰宅するとポストに宅配の不在連絡票が入っていた

再配達をしてもらうと
それは海外からのもので小さな荷物だった


ニューヨーク!
それは高畠さんからだった

その小さな箱を慌てて開くとそこには写真のアルバムが入っていた

ニューヨークの街の風景や子供達の写真
なんでこの写真をーー


箱の中には手紙も入っていた

この写真は藤川が撮ったものだから君に託すと書いてあった

手紙の封筒の中には三枚の写真があった


ーー そこには晴樹が写っていた

ニューヨーク支社のメンバーと笑顔で写っている写真

ニューヨークの冬は雪が積もる

そんな雪の中をコートを着て歩く晴樹の後ろ姿
その直後に写したような振り返った笑顔の写真

それはまるで『なに撮ってるんだ(笑)』と言っているように見えた


ーー 私は 泣き崩れた



ーーーー



それから2ヵ月

晴樹とよく一緒に行った映画館や
晴樹と始めてキスをした公園を歩いてみた


あぁ…
あの頃が夢だったみたい

あの頃は初夏だったけれど 今はもう春…


春の強い風が突然吹いて
短くパーマにしている私の髪はボサボサに乱れた


すると突然後ろから

まるで犬でも撫でるように
私の髪を誰かがフワフワと触った


「 へぇ?髪切ったのか(笑) 」


驚いて振り返った



ーー 晴樹だった


なん で…

「ぶっ(笑) はははっ!その表情が見たかった(笑)」


あぁ 晴樹だ…


「 … なんで 」


「また君のその驚いた顔が見たくてね(笑)
高畠さんに君には俺の事を黙っていて欲しいと頼んであったんだ。

君が帰国した後 俺は意識が戻って…
君の手紙を読んだ。それで俺、君に会いたくて必死でリハビリしたよ。」

涙が溢れて止まらなくなった私を晴樹は抱き締めた

「会いたい想いでいっぱいだった… 」


晴樹の声…
晴樹の匂い…
生きてる…


私は子供みたいに泣いた

「どうして… あなたは… そんなに意地悪なの… ほんとに信じられない 」


「待たせて… ごめんよ… 」
晴樹の声は泣いていた




二人でまたここを歩けるなんて思いもしなかった


「 この公園も変わらないね。帰国して空港から直ぐ君の部屋に向かったけれど君はいなくて。
電話やメールで知らせたくはなかった。
やっぱり驚く君の顔が見たくて(笑)

でも どこを探さばいいのかわからなくて。
もしかしたら… と ここに来てみた。」


幸せな夢みたい…


前を歩く晴樹が振り返って微笑んだ

「 希… 愛してる… 」



ーー それは 夢で見たあの場面だった



「 私も… 愛してる 」


彼は私に手を差し伸べ
「 俺と一緒にニューヨークに行こう 」

私はその手を取った


「これからずっと… 一緒に生きて行こう 」
もう この手を離さない


「旅行の約束も守ってね。」


「わかってる(笑) 泊まり掛けだろ? じゃあニューヨークからロスでも行く? 」

「移動が壮大(笑) 」



彼の薄茶色の瞳に吸い込まれそう
彼は私を愛おしそうに見つめキスをした


「これからはちゃんと大切にするよ 」
私も 大切にする


「ならもう私をからかわないで!」


また彼は吹き出した

「そこは約束できないな(笑) だってとっさの表情か堪らなく可愛いんだから(笑) それにこのトイプードルみたいな髪もね!」

私の頭をまたくしゃくしゃっと撫でた

「余計にくしゃくしゃになっちゃう!!!」



そんな変わらない彼に
私はこれから先もずっと恋しているだろう ーーー








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