球形ダイスの目

90%の空想と10%の事実

読書メモ:コンビニ人間

2022-07-24 | 日常
今日は村田沙耶香さんの芥川受賞作品"コンビニ人間"を読んでみた。

・どうだった?
まず、読んで面白かった。
テーマとして自分は感じたのは"普通とは何だろう"というもの。
超ざっくりあらすじ、コンビニで18年間という長期間働いていてその生活が平穏に続けばいいと思っている主人公(古倉恵子)が周囲からあれこれ干渉され、周りのいう"普通"をやってみようとしたが、でもやっぱり周囲の言う"普通"なじめなかった話。
マジョリティ側とマイノリティ側、誰に感情移入するかで感想はだいぶ変わると思う。
個人的にはマイノリティ側への感情移入もあるので、大衆的な感想とは少し異なった感想をしている可能性がある。

では、"普通とは何だろうか"というテーマと思った辺りをアプローチしたい。

・自分の経験から…自分が感じる生きにくさ
自分も若い頃"変わっている"という風に言われてきた方で、周囲とのコミュニケーションがうまくいかずに生き辛さを感じたことがある。当然、自分で変わっているとは思っていないので何をどうしたということもなかったし、家庭内で"変わっているから直せ"ということを直接的に言われたことは無かった。ただ馬鹿にされている感じがしたことと、相手が偉そうだったこと(理由は分からないが何故かこちらが変わっているという言い方をされるので)がひたすら不愉快で、そういうコミュニティでは人間関係を次第に浅く表面的なものに変えていくことを選択することとなった。

家庭で思ったことは、部屋の中で何かに没頭することは歓迎されず、クラブ活動でも文化系に入ることを親が嫌がった。この話と少し被る記憶として持っている。その意味では主人公(古倉恵子)側に感情移入するところが大きい。
ということで、俺は、"ズレた"人の存在によって自分が直接迷惑を被った経験には乏しいが、どうも"ズレて"いるらしい息子であることで親に迷惑をかけた経験はあった。何か周囲と摩擦を起こしてそのケツ拭き…まではさせなかったはずだが、親がコントロールできない人間になる"不安"は与えたようだ。
ただ、それでも恵子ほど超然とした人生観は持っておらず、この小説内の恵子くらい動じない性格だと、自分でも変わった人物だなぁとは言いたくなる。職場や友人に迷惑をかけると思わないが、家族に関しては全く迷惑をかけないってこともできないし…

・周囲の押し付ける"普通" 人は"不安"を払拭するためなら
 自分の"普通"を何のためらいもなく押し付ける
コンビニというフラットであったはずの場が、
いつの間にかムラのオスとメスという価値観に支配されていると主人公が感じる場所がある。コンビニに18年も務めるのは普通じゃない人のすることであり、ある程度働いたらステップアップして別の会社の社員として働こうとしたり、結婚しようとしたりすることを考えないのはおかしいことなのだそうである。
この小説における、"普通の"生き方をしているときの周囲の反応と"恵子が正しいと思っている"生き方をしているときの周囲の反応が違い過ぎて、読んでいるだけで気持ち悪くなってくる。
人が語る普通って何なのか、他人の人生を"評価"する筋合いがあるのか。

さて、おそらく、実生活で自分がそういった"押し付け"をしていると自覚する人は少ないだろう。その根拠として、まず、自分は自分の普通を他人に押し付けたことはないと思っているから。
でも本当は自分の普通を少なくとも自分の家族には押し付けているはず。だが事例が思い出せない。しかし押し付けられた相手はそうはいかない。
そういう意味では、"価値観の違う人が一緒にいると何が起こるか"という問題の
象徴的な答えがこの本に書かれているような気もする。

恵子は"コンビニの店員"に自分の居場所を認めたが、
無味でニュートラルな印象と関係があり、そこに居心地の良さを認めてしまったのでは?と想像する。

・芥川賞…なんで?
この小説はどちらかというと狭い範囲で読まれ評価されていく作風に思えたが、
この内容が芥川賞を受賞したということは、ある程度普遍的な問題と
(少なくとも選考委員は)捉えたことになる。
だとしたら、もう少し自分が生きやすい世の中にならないかと思ってしまう。

感想に自分の経験を書くことは考えていなかったが、文字に起こしたらたちまち自分の過去の記憶が蘇ってきてしまい、本来書くべきことよりも自分の怨念が中心になってしまった。
"普通の"、"人に通じる文章が書ける"書き手になるためには、
あまり自分の経験に囚われてはいけないんだけど。
少し自分の地雷に触れているらしい。


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