ここ最近、ロボットに参入する企業が増え始めてきた。これまでロボットといえば工場で働く産業用ロボットが中心であったが、参入企業が増えたことで、家庭への進出も視野に入ってきたのだ。
その代表例といえば、ソフトバンクだろう。
人間の感情を認識するロボット「Pepper」を開発。今年6月にはPepperを1000台、一般に向けて販売。わずか1分で完売したという。
スマホで成長した企業が、その技術を生かして開発
また、NTTドコモも、タカラトミーとロボット「OHaNAS」を共同で開発。NTTドコモが持つ自然対話プラットフォームを採用し、OHaNASと自然な会話を実現している。
ロボットの展示会で来場者に踊りを披露する仏アルデバラン・ロボティクスの人型ロボット「NAO」
この数年、ロボットが盛り上がりを見せる背景にあるのは、これまでスマホで成長してきた企業が「次の活路」をロボットに求めている点が多そうだ。
当然のことながら、ソフトバンクはiPhoneを代表とするスマホで急成長を遂げた会社だ。Pepperは単にロボットとしてユーザーと会話するだけでなく、アプリをダウンロードして新しい機能を追加したり、クラウドと連携したりして、進化する機能を持つ。まさに、Pepperはスマホが進化して、ロボットの形になったとも言える。
ドローンもロボットの一種
実際、Pepperを製造するのは、台湾のフォックスコン(鴻海精密工業)という電子機器受託生産(EMS)会社だ。フォックスコンはこれまで、アップル・iPhoneの製造を請け負ってきたが、すでに普及期を迎えつつあるiPhoneばかりに頼ってはいられないと、Pepperの製造に前向きで、ソフトバンクのロボット製造子会社に出資することになった。
JR藤枝駅北口で発見されたドローン=2015年6月5日、早川夏穂撮影
また、何かと最近、お騒がせの無人飛行機「ドローン」もロボットの一種とされている。ロボットに詳しい関係者は「首相官邸に落ちたドローンは、スマホの技術を数多く応用している。位置情報測位や自律制御、カメラなどはスマホの技術があったからこそと言える」と語る。
スマホは小さなコンピューターといえるが、まさにスマホ向けに開発された技術やノウハウが、ロボット開発にも生かされているというわけだ。
グーグルで「Android」を開発した張本人が
現在、世界的に見れば、グーグルもロボット開発に積極的だ。
グーグルは開発を進めるにあたり、ロボット関連のベンチャー企業を次々に買収していた。
その指揮を執っていたのが、アンディ・ルービン氏といわれている。ルービン氏は、スマホのOSである「Android」を開発した張本人であり、Androidを成功に導いたのち、グーグルでロボット開発に携わるようになった(現在では、グーグルを退社している)。
つまり、スマホの開発をしていた人間の興味が、スマホからロボットに移ってきているというわけだ。実際、ソフトバンクでも、これまではスマホの関連事業を手がけていた人材が、Pepperや、そのほかのロボット開発に携わっているケースが多い。スマホを開発していた人材がスマホに飽き、新しいフィールドとしてロボットに目をつけたようだ。
スマホの操作が苦手な人のために
今後、スマホの進化を語る際、IoT(モノのインターネット化)と呼ばれるさまざまなものがネットにつながり、スマホはそれらの中心に位置づけられる「リモコン」のような存在になると言われている。そんななか、ロボットは、人々がネットにコミュニケーションするための仲介役として存在していく可能性がある。
東京大学とロボ・ガレージが開発したKIROBO
「スマホの操作は苦手」というシニア層であっても、Pepperに「明日の天気を教えて」と話しかけることで、グーグルを検索するということも可能になる。
スマホを使いこなせないような人であっても、ロボットが仲介役になることで、ネットに触れて、便利に使えるようになるのだ。
「ネット人口を広げる」という意味でも、ロボットの果たす役割は大きいだろうし、だからこそ、ネットやスマホの企業が我先にロボット市場に参入すると言えるだろう。
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朝、目が覚めて、まず「おはよう」とロボットに声をかける。出勤したらロボットの電源をONにして一日の仕事が始まる。そんな家庭や職場の光景が当たり前になる日が間近なのだろうか。携帯やスマホを中心に執筆を続けてきたジャーナリストの石川温さんが、ロボットがそこにある世界を描きます。連載コラム「ロボットと人間とミライ」は原則として毎週月曜日に掲載します。