以上、騒音、公徳心の欠如、怠惰について長々と書いてきたのだけど、それにもかかわらずこの国の住みやすさは格別で、どこを歩いていても何時であっても食べ物屋を探す苦労がない。そしてその安価なことは特筆ものだ。焼きそばにアイスコーヒーで普段は3リンギット(105円)だが、その半分で食べられる店もあったりして驚かされる。まず日本円で百円あればたいていのものが食べられる。僕は99%自炊をしているが、というのもそのほうが経済的だと思えるからで、10キロ18リンギット(630円)の米を二ヶ月かけて食べている。コーヒーはわずか35円だがこれも外で飲むのは節約のためになるべく控えている。しかし人々は平気で外食し、午後の10時まで開店している近代的なショッピングモールで遊んでいる。これがほとんど連日のことなのだから、日本人に比べていかに彼らが裕福でゆったりしているかということがわかろうというものだ。
アジアの4龍といって、香港、台湾、シンガポール、韓国が発展どころと聞いていたが、僕の目にはそういう国よりもこの国のほうがずっと裕福に感じられる。発展を遂げ物価が高くなるということは人々の生活が豊かになるのだというこれまでの常識に反し、実はその逆ではないかとさえ思えてくるくらいなのだ。シンガポールの住人は国内では高すぎて遊べないので、週末は国境を越えてマレーシアに遊びに来る。国境を越えるだけで一挙に物価が半額になるのだから、自分でもそうするだろう。
この国の人は前述したとおり日本人と比較してあまり勉強をしないのだが、すべての子供が英語を話す。したがって大人であればパブなどで西洋人と出会っても互角に会話を交わす。ビリヤードもうまいし、楽器を操るのも巧みだ。女性を口説くそのうまさも日本人の比ではない。体格も社交センスも日本人よりはるかに洗練されてい、日本人旅行者が隅のほうでぼそぼそやっているのとは雲泥の差なのだ。無一文でも女性を口説き、その手練手管にころっとまいてしまい、結婚までしてしまう日本人女性を何人も見た。彼らは西洋女性とも関係を持ち、西洋で暮らすものも少なくはない。しかし何年先にはやはり祖国が一番住みやすいということで帰ってくるようである。
多民族国家で互いに軽蔑しあっているが、その平和なことは格別で、喧嘩騒ぎを一度も見たことがない。乱暴な運転ではあるがそれでも事故現場を見ることはない。スーパーの万引きが新聞記事になるほど犯罪もまれなのだ。本屋にあってもほとんどが輸入品で、中国人は中国香港台湾の出版物を買い、他は英語で書かれた本に頼るというわけだ。しかし、街中で彼らが読書している姿に出会ったことは一度もない。家庭で読んでいるとも思えない。一説によれば本は買っても一年に2頁しか読まないと聞く。こういう内情だから国民文学などはなく、TVドラマもかなり幼稚である。新聞はニュースを報道しても批判や批評が少しもない。第一この国にはプロの批評家が存在しないのある。どうしてかと考えたのだが、結局この国には深刻な悩みが存在しないんだという結論に至った。生きることにあくせくしないでも高級車が買え、立派な持ち家を得、電化製品もそろうというのだから何をかいわんやなのだ。仮に失業しても乞食になっても凍死の心配はなく、人々は施しをしてくれるし、道端にはバナナやマンゴーが自生しているのだからそれほどの生活不安はないのかもしれない。
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