釈迦(しゃか)は、この世は「苦の世」だと断定されました。この世はまず、生(しょう)、老(ろう)、病(びょう)、死(し)という四苦(しく)があると教えられました。
生まれる時のことを覚えている者はいません。でも、狭い産道を通ってくる時、苦しくなかったとは言えません。鉗子(かんし)で頭をはさまれたり、逆子(さかご)で出てきたり、また帝王(ていおう)切開(せっかい)でこの世に生まれてきたり、色々怖いめにあいます。それに苦の世と定められたところに生まれてくるのだから、生まれるということが苦にちがいありません。
さて、生まれたその瞬間から、人間は老いに向かって歩き出します。いやだといっても、人はすべて老いるのです。体が弱り、不自由になり、目が薄く、耳は聞こえなくなり、肉は落ち、しわが出来ます。頭も鈍くなります。
誰だって老いを恐れ、いやがります。
また生きていたら、さまざまな病気になります。どんな丈夫な人でも、伝染病(でんせんびょう)がはやれば防ぎきれません。SARS(さーず)のような得体(えたい)の知れない病気に脅え(おびえ)なければなりません。
交通事故や天災や人災、戦災で、死なないまでも、ひどいけがや病気になることもあります。長生きしても痴呆(ちほう)になったり寝たっきりになるのは、苦痛でしかありません。
そして人生の最後は、一人残らず死への旅立ちです。
死は誰も経験したことのないない未知のものです。あの世とは果たしてあるのか、ないのか、誰にもわからない。地図のない国への旅立ちは不安と恐れがあるばかりです。また死に至るまでの病苦はたまらない。
生きるということは、これら四つの苦しみで成り立っているのです。
この四苦は、人の身分、貧富(ひんぷ)の差など関係なく味わわなければならないのです。
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